第20話 完全無欠少女、正体?

「そうだわ!

 私たちで幽霊を見つけましょう!」


 目をキラキラさせながら宣言をするミエリィちゃん。


「いやいや、そもそも本当に幽霊かどうか決まったわけじゃないし」


「いいえ、きっと幽霊よ!

 だってその方が素敵だと思うもの。

 私、幽霊に聞いてみたいことが沢山あるの。

 是非友達になってお話をしてみたいわ!」


「素敵かなぁ?」


 相変わらずミエリィちゃんのセンスは独特だ。


「私は構わないぞ。

 不快ではないが、気にはなるからな。

 せめて原因だけでも知っておきたい」


「2人が探すなら私も協力するけど。

 ミエリィちゃんはその視線を感じたりしないの?」


「う~ん、よくわからないわ」


 ミエリィちゃんが視線を感じないというのは正直意外だ。


 拳を振れば外壁を壊し、竜を友達にするような子だ。


 その気になれば何でもできる、視線にも気がつけると思っていた。


 いや、違うか。


 エリスさんの弁だと敵と戦う技術の一つとして、相手の視線を察知することができるようになったのだ。


 客観的に見て、Aクラス全員を相手に無双できるロイス先生を圧倒するミエリィちゃんの敵となりえるような人がそうそういるとは思えない。


 雑多の視線の一つなど気に留める必要もないということだろう。


 それにミエリィちゃんの振る舞いを見ると、そもそも他人の視線に無頓着な気がする。


 自分が好きなこと、良いと思うことならばどんな空気の中でも意見を言うことができる。


 ミエリィちゃんの前では貴賤も強さも関係ない。


 全てが平等であるからこそ、自由な姿でいられるのだろう。


 だからといってミエリィちゃんは傲岸不遜な振る舞いをするわけではないし、相手に気を使うこともできるので、私も卑屈にならず彼女と友達でいられるわけだが。


「私もわからないので、となると頼りはエリスさんということになりますけど。

 エリスさん、その視線を辿ることはできますか?」


「難しいな。

 普通の視線と違って視線を辿っても誰もいない。

 ただ壁にぶつかるだけだ」


「それなら幽霊はその壁の中にいるということね!」


「それは違うだろう。

 ……いや、ありえるのか?

 相手が壁越しに視線を送ってきているのなら、壁の向こうに犯人がいることになる」


「壁の向こうから視線を送るって……、要するに透視するってことですよね?

 そんな魔法あるんですか?」


「実際に使える人に会ったことはないが、存在はするらしい。

 もっとも使えるかどうかは魔法との相性に依るらしいし、仮に使えても繊細な魔力操作と膨大な魔力が必要で、あまり実用的な魔法ではないようだが」


 庶民とはいえ、この学院に入学できるくらいには魔法について学んできた私が知らないような魔法だ。


 いくら才能がある者たちが集まっているとはいえ、所詮は学生だ。


 そんな難易度の魔法を使えるものなど生徒にはいまい。


 ミエリィちゃんなら使えるなも知れないが。


「それだけ高度な魔法なら仮に使えても先生たちか、もしかしたら学院長だけかもしれませんね」


「確かにそうだろうな」


 この学院の教師陣は皆、現役時代は魔術師として各国に名を馳せていた者たちばかりだ。


 中でも学院長は生きる伝説とまで呼ばれる偉大な魔術師であり、その偉業の数々は小さな子供ですら知っているようなものばかりだ。


 例えば単身で魔族の一軍を追い返したり、竜の群れから国を護ったりなど、人の身でできるとは思えないようなものばかりだ。


 そんな学院長ならば透視の魔法くらい使えても不思議ではない。


「まずは壁に当たるまでその視線を辿ってみましょう!

 もしかしたらそこに何かヒントが隠されているかもしれないわ!」


「そうですね。

 エリスさん、案内をお願いしても良いですか」


「ああ、こっちだ」


 エリスさんのあとに続き視線を辿っていく。


 するとすぐに教室の壁で行き止まりとなった。


「今はこの壁の向こう側から視線を感じる」


 私は壁に触れたり、目を凝らしたりしてみたがこれといって変わったところはないように思う。


「……普通の壁ですね」


「それなら壁の裏側に回ってみましょう!

 何かあるかもしれないわ!」


 私たちは教室を出ると壁の裏側へと移動する。


 Aクラスの教室の隣にあるのはBクラスの教室だ。


 流石に中に入るわけにもいかないので、教室の入り口からそっと壁の裏辺りを見る。


「こちら側も変わった様子はありませんね」


「……いや、違うぞ」


「え?

 どう言うことですか?」


「あっちから視線を感じる」


 エリスさんの指し示す方を覗くと、そこには1人の少女が座っていた。


「あの方はルヴィリア様ですよね?」


 大国であるリーニアス帝国の公爵家の息女だったはずだ。


 家格でいったら私たちの学年で最上位に位置する者の一人である。


 確か同じクラスのハイト君が、ルヴィリア様の家で執事見習いをしていると聞いた。


「まさかあの方が視線の犯人なんですか?」


 ルヴィリア様は目を伏せて自身の席にいた。


 その姿はどこか儚げで、窓から射し込む陽の光に溶け込んでしまいそうな、どこか脆い美しさがあった。


 それはまるで朝陽に消えてしまう幽霊のような。


「視線は確かにルヴィリア様の方から感じるんだが……」


「どう見ても目を閉じてますよね。

 こっちも向いていないし」


「どういうことなんだ?」


 壁を透過して感じる視線を辿るとルヴィリア様に辿り着いた。


 しかし、彼女がこちらを見ている様子はない。


「もしかしてルヴィリア様のさらに後ろなのでは?」


「かもしれない。

 となると校舎の外からとなるが。

 流石に今から確認に行くわけにもいかないな」


「ですね、そろそろ休み時間も終わりそうですし。

 ミエリィちゃん、そろそろ戻りましょうか。

 あれ、ミエリィちゃん?」


 さっきまで隣にいたはずのミエリィちゃんがいない。


「あそこだ!」


 エリスさんの言う方を見ると、ちょうどミエリィちゃんがルヴィリア様に声をかけるところだった。


「こんにちは!

 あなた、もしかして幽霊なのかしら?」


 ミ、ミ、ミ、ミエリィちゃん!?


 相手は帝国の公爵令嬢だよ!


 Aクラスにも王族の子息がいるが、彼の場合はミエリィちゃんの振る舞いが多少無礼であっても、それを理由に騒ぐことはない。


 ミエリィちゃんの力を知っており、権力ではどうにもならない存在を前に尻込みしているからだ。


 それが正しいクラスメイトのあり方であるかはこの際置いておく。


 だがしかし、ここはBクラスだ。


 まだミエリィちゃんの力を知らない可能性があるため、突然の無礼な振る舞いに寛容とは限らない。


 ミエリィちゃんは無自覚ならともかく、自分から力を振りかざす人間ではない。


 罪に問われれば受け入れるだろうし、最悪ミエリィちゃんの実家にまで制裁の被害が及ぶ恐れがある。


 隣のエリスさんを見るが、顔を青くして固まっていた。


 同じ貴族とはいえ、彼女の家は伯爵家だったはずだ。


 縁のない公爵家との間に立って仲裁できるほどの力はない。


 まして庶民である私は尚更だ。


 震えながら見守ることしかできなかった。


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