第19話 完全無欠少女、幽霊!
黒竜のクロと遊んでから数日、私たち生徒の周りで何かが変わるということはなかった。
初めてクロを見たときは流石にこれで終わりかなと思ったが、ミエリィちゃんのお友達だと聞いてそれなら大丈夫かなと安心したものだ。
ミエリィちゃんなら竜の友達くらいいてもおかしくないし、ミエリィちゃんのお友達が人のことを食べるとは思えないし、流石にそうなったらミエリィちゃんが止めてくれるはずだ。
私程度じゃミエリィちゃんとクロのどちらが強いかわからないが、ミエリィちゃんがやられる姿というのは全く想像できない。
クロのことは表向きはただ通りかかっただけの竜であるということになった。
誰かが襲われたり、食べられたりしたわけではないのでそれで問題ないという解釈だ。
そもそも竜と遊んだと言ったところで誰も信じてはくれないと思うが。
一度ミエリィちゃんが学院長に呼ばれたが、あったのはそれだけで私たちの日常に変化はなかった。
◇
「そういえば2人ともあの噂は聞いたか?」
「噂?」
「なんのことかしら?」
「何でも学園内で誰かに監視されているように感じることがあるらしい」
「監視ですか?」
ストーカーの類いだろうか。
この学院には各国の身分の高い者たちが数多く在籍している。
また、それに比例するように見目麗しい姿をしているので、そういった被害に遭うだけの可能性はそれぞれが持っていると言える。
「ああ。
どうやらこの学院内で誰かに見られているような感じがするらしい。
いや違うな。
本人が見られているというよりは誰かを見ているような視線を感じるとでも言うべきか」
「う~ん、よくわからないわね」
「確かに要領を得ませんね。
自身が見られているのなら視線に気がつくこともあると思いますけど、他の誰かが見られていることなんて普通気づきませんし。
というか複数の人がいるような場所なら誰かしら他の人を見ていると思います」
「まあ、確かにそうなんだが。
同じような訴えをしている生徒が何人もいるらしい。
かく言う私もその一人だしな」
「エリスさんもその視線を感じているんですか?」
「ああ。
私の場合は朝教室に来てから皆と別れるまでだな。
私は剣の訓練をする一環で人の視線をある程度察知できるようになったのだが、視線は感じるが私を見ているものではないな。
誰か他の人を見ている視線の中に私がたまたま入り込んでいるだけというか。
だが、不思議と親近感を覚えるというか、個人的にはそこまで不快感はないな」
「朝教室に来てからって、今もその視線を感じているってことですか?!」
私は周囲をそれとなくうかがうが、それらしき人物は見当たらない。
「ああ、感じている。
だが、感じるだけでどこから見られているかわからないんだ」
「誰もいないのに見られている……」
「わかったわ!」
バンッと机を叩き、立ち上がるミエリィちゃん。
その物音に教室にいる皆が反応しこちらを見てくる。
ミエリィちゃんと一緒にいるとよくあることだが、それでも注目を浴びるのは恥ずかしい。
「ミエリィ、何がわかったんだ?」
「その視線の犯人よ!」
「本当ですか?」
「もちろん!
誰もいないのに視線を感じる。
その犯人の正体は……」
「正体は……?」
「幽霊よ!」
「ゆ、幽霊ですか?」
「そうよ、幽霊の仕業に違いないわ!」
ミエリィちゃんらしいというかなんというか。
一般的に幽霊だと言われているものの正体は、その多くが魔物だ。
魔物の形態は千差万別であり、中にはガス状の魔物なんてものも存在する。
死者の霊だなんだと騒ぎになることが稀にあるが、詳しく調査してみるとそのほとんどが魔物の仕業であるというオチである。
「魔物の仕業ということですか?」
「いいえ、本物の幽霊よ!」
「幽霊の正体が魔物だったという話はよくあるが、流石にこの学院都市に普通の魔物がそう易々と入り込めるとは考えにくいな。
一人前ではないかもしれないが、私たちのような魔物と戦う魔術師が数多くいるわけだし。
それに先生方や兵士たちだって街に沢山いる。
人口に対する戦力比でいったら、世界で最も対魔物の戦力が揃っている場所だといえるだろう。
もし街の中に魔物がいたとしても、皆が皆見逃すとは思えない」
「確かにそうかもしれませんけど」
だからといって幽霊だなんてそんなものが本当にいるのだろうか?
だとしたらちょっぴり怖い。
元々暗いところだとか、よくわからない物音なんかが苦手なのだ。
「エリスさんは本当に幽霊の仕業だと思いますか?」
「なんとも言えないが、もしそうだとしたら困るな」
「エリスさんも幽霊とか苦手なんですか?」
「魔物ならともかく幽霊に魔法が効くかわからないからな。
襲われでもしたら、対応できないかもしれない」
「ああ、そういう……」
普段から凛々しいエリスさんの可愛らしい一面が見られるかもと思ったが、幽霊程度では動じないらしい。
もっとも意外な一面という意味では既にミエリィちゃんに対して変態的な執着を見せているので今さらだが。
普段は大丈夫なのだが、訓練で上手くいかなかったりするとミエリィちゃんに抱きついて匂いを嗅いでいる。
2人とも見た目が良いので、見ていて不快感はない。
むしろそちら側の世界に見ているものを引き込もうとするような、不思議な魅力すらあるように感じる。
落ち込めばところ構わず抱きついているので、学院内ではその魅力にみいられた者たちによって2人を見守る会のようなものができつつあるが、その事を2人は知らない。
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