第15話 完全無欠少女、お茶会!
―ハイト視点―
俺は一旦荷物を自分の部屋に置いてからミエリィ嬢の部屋を訪れた。
そういえばミエリィ嬢の部屋はお嬢様の隣の部屋だったな。
ミエリィ嬢に興味があるのはお嬢様な訳だし、一応誘ってみるか。
ミエリィ嬢なら勝手にメンバーを1人増やしても文句は言わないだろう。
むしろもろ手をあげて歓迎する姿が目に浮かぶ。
コンコン
「お嬢様、いらっしゃいますか?
ハイトです」
俺の声が聞こえたのか、中からガタゴトとどこか慌てたような物音がした。
何かしていたのだろうか。
少しして中から「入りなさい」と一言声がかかった。
入室の許可が出たので俺はお嬢様の部屋へと入る。
屋敷でもお嬢様の部屋には何度も入ったことがあるし、寮生活になってからも訪れたことはある。
だがお嬢様を同い年の子供ではなく異性として意識するようになってからは、部屋へ入るのも少し緊張するようになってしまった。
別に交際がしたいだとかそういう思いはない。
お嬢様と俺では身分が違いすぎるし、あくまで敬愛の対象だ。
俺にとっての愛すべき"ご主人様"でいてくれるだけで十分である。
中に入るとお嬢様は椅子に腰かけてこちらを向いていた。
「ハイト、何か急用でも?」
「いえ、そういうわけでは。
本日、ミエリィ嬢の催す茶会に招待されまして。
お嬢様はミエリィ嬢に興味がおありのようですし、もしよろしければご一緒してはいかがと思いましてお伺いに来ました」
「……なるほど、どこからともなく椅子やテーブルを取り出したり、部屋を飾り付けていたのはお茶会をするためだったのね……」
「お嬢様、何かおっしゃいましたか?」
「いえ、何でもないわ。
お茶会だったわね、今回は遠慮させて頂くわ。
招待されたのはあなたなのだし、あなた1人で行きなさいな。
そうそう、もし暇だったらでいいのだけれど、お茶会が終わったらミエリィの話を聞かせてはくれないかしら」
ミエリィ嬢のことが気になるのなら参加すればいいのに、こう見えてお嬢様は人見知りするところがあるからな。
仕方ない、俺が使用人として一肌脱ぎますか。
「承知しました。
では、また後程お伺い致します」
「ええ、楽しんでいらっしゃい」
俺は一礼するとお嬢様の部屋を退出し、その足でミエリィ嬢の部屋を訪ねた。
ノックしようと手を掲げようとした瞬間、勢いよく扉が開かれる。
「いらっしゃい、ハイト!
待っていたわ。
どうぞ入ってちょうだい」
キラキラとした笑顔で俺を迎え入れるミエリィ嬢。
目上の相手を迎え入れるならともかく、平民に過ぎない俺を自ら扉を開けて迎え入れるとは……。
ここまでいくと小国だとか低位貴族だとか関係なく、ミエリィ嬢自身の性質なのだろう。
つい先程俺を部屋へと迎え入れたお嬢様とは同じ貴族でも随分と違う。
どちらの振る舞いが正しいかと言われればお嬢様だと断言できるが、ミエリィ嬢の肩肘張らなくても良いという雰囲気は平民としては心地良いものを心のどこかで感じていた。
……そういえばどうして俺が来たとわかったんだ?
偶然か?
ミエリィ嬢に続いて部屋の中へと入ると、そこにはすでに来ていたエル嬢とエリス嬢の姿があった。
2人は円テーブルに座っており、俺もミエリィ嬢に導かれるがままにエル嬢とミエリィ嬢の間の席へ着く。
「これで全員揃ったわね!
それじゃあティーパーティーを始めましょう!」
そう宣言すると彼女はどこからともなく菓子類や紅茶を淹れるために必要な道具一式を取り出した。
「えっ」
思わず驚きの声が出るが、他の2人を見てもとくに反応はない。
2人はこの光景を見たことがあるということだろうか。
聞いても良いことなのか一瞬迷ったが、お嬢様が喜ぶかもしれないと判断し素直に尋ねることにした。
「失礼ですがミエリィ嬢、これらはいったいどこから取り出したのですか?」
「あら、そういえばどこから取り出しているのかしら?
今まで当たり前に使っていたから考えたこともなかったわ!」
自分でも理解していないだと!?
恐らく魔法の類いであることは間違いないが、魔法というものはそう簡単なものではない。
俺も魔法を使う人間だからわかるが、基本的に魔法を使用するには正確な魔力操作と十分なイメージ力が必要となる。
自分がどのような魔法を使いたいか、それを思い描き魔力を変質させることによって魔法として発現する。
特定の魔法を使えるようになるには才能はもちろん、並みならぬ訓練が必要なはずなのだが。
「やっぱりミエリィちゃんだよね」
「ああ、流石だ」
達観したように目の前の光景を受け入れる2人。
いや、それが正しい判断なのかもしれない。
拳圧で外壁を壊すような奴だ、どこからともなく物を取り出すことくらいできても不思議ではない、うん。
「さあみんな、召し上がれ!」
俺は目の前に置かれたティーカップを手に取る。
ふと思ったが、貴族であるミエリィ嬢に給仕をさせて平民の俺が座っているのは不味いのではないかという考えが脳裏をよぎったが、誰も気にしていないようなので気がつかなかったことにする。
ティーカップからは香ばしい香りが漂っており、含むと繊細な味わいが口の中に広がる。
「ミエリィちゃんの淹れた紅茶、本当に美味しいね」
「ああ、いい香りだ」
「ありがとう!
ハイトはどうかしら?」
「はい、とても美味しいです」
「そう、なら良かったわ!」
自分以外異性しかいないお茶会というのは少し落ち着かないが、たまにはいいかなとも思う。
女子3人が楽しそうに会話する風景を眺めながら、用意されていた菓子に手をつける。
「これ、見たことのない食べ物ですね。
ミエリィ嬢の故郷のものでしょうか?」
「いいえ、違うわ。
この間、魔王のところへ遊びに行ったときにご馳走してもらったの。
すごく美味しかったから、お土産にたくさん貰ったのよ」
「ま、まおうですか」
「そう、魔王よ!」
……うん、疲れてるのかもしれない。
ミエリィ嬢が人族の仇敵である魔王の元へ遊びになんて行くはずがない。
きっとマロウさんとかマーオさんとかと聞き間違えたに違いない。
そういうことにしよう。
こうして放課後に行われた小さなお茶会は、和やかな空気の中過ぎていったのだった。
◇
「どうぞお嬢様、お裾分けに頂いた菓子です。
ミエリィ嬢の知り合いから頂いたものだとか。
この辺りでは見ない食べ物ですが、スッキリとした甘味で非常に美味しいですよ」
「ありがとう、後で頂くわ。
ところでそのミエリィの知り合いとはどなたか聞いてる?」
「いえ、私は何も知りません!!」
「彼女には不思議が多いわ。
もしかしたら魔王と知り合いだったとしてもおかしくは……」
「それは違います。
お嬢様もおかしなことをおっしゃいますね。
人間であるミエリィ嬢が魔王と知り合いな訳ないじゃないですか。
だって魔王ですよ、魔王。
いくらミエリィ嬢が変だからといって魔王は流石にね、ないですよ。
ない、ない。
きっと似た名前の誰かですよ。
この世界には沢山の人がいるわけですから、魔王と似た名前の人がいても不思議ではありません。
そうですね、例えば……」
「ハイト、もうわかったわ。
あなた、疲れているのね。
いつも苦労をかけているわね」
「いえ、そのようなことは」
お嬢様の声で正気を取り戻す。
危ない、引き込まれるところだった。
「いいのよ、いつも私のために頑張ってくれているのだから。
何か私にしてほしいことはないかしら?
多少のことならしてあげるわよ」
おお、なんという僥倖!
お嬢様が俺のために何かしてくれるだと!
ということはいつもの奴をお願いしても良いのではないのだろうか。
いや、良いはずだ。
「そ、それではいつもの……」
「はあ、あなたも物好きね。
いいわ、いつまでそこに突っ立っているつもり?」
「申し訳ありません!」
迅雷のごときスピードでお嬢様の足元に五体投地する俺。
そしてその頭をお嬢様が踏みつける。
「これがいいのかしら、ハイト?」
グリグリと体重をかけてくるお嬢様は鬼畜なようでいて、実は踏むときには靴を脱いでくれるという優しさを隠している。
後頭部に感じる足裏の柔らかさが癖になりそうだ。
「ああっ、もっと、もっと強くです、ご主人様~!」
「あなた、頭を踏まれて喜ぶだなんて本当に変わっているわよね」
自分がどんなアブノーマルな世界に足を踏み入れているのか、理解していないお嬢様も素敵だ。
まあ、引き入れたのは俺だが。
こんなことをしていると公爵家の人にバレたら打ち首だろうなと考えると、背徳感からさらに興奮する。
「ほら、仰向けになりなさい。
次は顔を踏んであげるわ」
「ありがとうございます、ご主人様!
一生着いていきます!」
公私共に主従関係を築いている2人の絆はそれはもう強く結ばれているのだった。
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