第8話 完全無欠少女、実技!

 ローランド魔術学院には各学年180人ずつ在席しており、30人ずつA~Fクラスに割り振られている。


 クラス分けは出身や身分に関係なく、入試の成績から各クラス均等になるように考慮されている。


 これは学園の行事として、クラス対抗で競う催しがあるためだ。


 ミエリィのクラスはAだった。


 そして今日、入学後初めての実技の授業が行われた。


 ◇


 俺の名前はロイス。


 三年前からこのローランド魔術学院で教鞭をとっている。


 俺はこれまでリーニアス帝国の魔術師団に所属し、第3師団の副団長を務めていた。


 自分で言うのもあれだが、帝国の一師団の副団長にまでなったのだ。


 魔術師としても優秀な部類の人間だと思う。


 もちろん、上には上がいることは承知している。


 副団長止まりだったのがその証拠だ。


 団長クラスの人たちは正直、同じ人間とは思えない程の魔法を操る。


 まるでドラゴンでも相手にしているみたいだった。


 まあ、実際に相対したことがあるのはワイバーンくらいで、本物のドラゴンなんか見たことすらないが。


 そしてそんな化け物みたいな団長たちをもってしても敵わない存在、魔王が敵の大将として長年君臨し続けている。


 魔族は人間より総じて寿命が長いため、魔王の代替わりは滅多に起こらない。


 その上、今代の魔王は歴代でも最強の存在だという。


 正直、そんな奴を相手に戦っていてよく滅ぼされていないなと思うが、国に仕える身分でそのようなことは口にできなかった。


 そして四年前、副団長として過ごしていたある日、知己でありローランド魔術学院で学院長をしているシリウスと話す機会があった。


 その際に学院で教鞭をとらないかと誘われたのだ。


 俺自身、まだまだ若い者に後れをとるつもりはなかったが、それでもそろそろ部下に譲るべきかと考えていた。


 幸いにも優秀な部下がいたので、そいつを次の副団長に推薦し、俺自身は退役して教師となり、次の人生を歩む決断をした。


 副団長時代も部下を育てることは好きだったので、学院で魔術師の卵たちを鍛えるというのは性に合っていた。


 それにこの中から部下の部下になる者が現れるかもしれないと思うと、やる気も出るというものだ。


 俺がこの学院で担当しているのは主に実技、特に攻撃系の魔法を実際に使用しながら教えている。


 学院へ入学してくるものは得手不得手こそあるものの、総じて高い魔法技能を身に付けている。


 中でも今年は粒揃いだと教員の間で噂になっている。


 実力があることは結構だが、精神的に未熟な者が力を持つと危険だ。


 そして残念ながらそういった者は、民を導くべき立場にある貴族に多い。


 プライドが肥大してしまっているのだ。


 俺ら教員の責務はそういった勘違い野郎共を正しく導くことだと思っている。


「揃ったな。

 ではこれから魔法実技の授業を始める。

 俺の名前はロイスだ。

 これから3年間お前たちに魔法、特に戦闘における魔法の行使について教えていく」


 そのときだった。


「先生ぇ~、質問で~す。

 先生は貴族なんですか~?」


「まだ説明の途中なんだが?

 まあいい、俺は平民の出だ。

 それがどうかしたか?」


「いえ別に。

 一応この学校は身分に関係なく平等ってことになってるから、一応先生って呼びますよ。

 俺みたいな貴族が、平民なんかに教わることはないと思いますけど」


 はあ、早速出たか。


 平民が貴族より劣っていると思っている勘違い野郎が。


 確かに各国の魔術師団なんかの構成メンバーは貴族出身の者が多いが、それは育った環境の違いのせいであって、貴族と平民に才能の差はない。


 平民は魔法を学ぶ機会が少ないため、魔術師として働く者が少なくなってしまうのだ。


 だが、学ぶ機会さえあれば、決して貴族に劣ったりはしない。


 俺のように副団長にだってなれる。


「ほう。

 つまりお前は俺より戦闘において優れていると言いたいのか?」


「まあ、オブラートに包まなければそういう意味になりますかね」


 ニヤニヤと笑う男子生徒。


「お前の言いたいことはわかった。

 なら今日の授業はこうしよう。

 お前ら全員まとめてかかってこい。

 稽古をつけてやる」


「ちょっと先生、何いってるんですか?

 先生のプライドを刺激しちゃったのは謝りますから。

 そんなことしたら元からない先生の尊厳がマイナスになっちゃいますよ」


 見下すような表情。


 回りにも口には出さないが、クスクス笑っているのが何人かいる。


 内心同じように思っているのだろう。


「ご託はいいから早くしろ。

 授業の内容は俺が決める。

 かかってこないやつは赤点つけるぞ」


「はあ、わかりましたよ先生。

 一応手加減はしますけど、死なないでくださいね」


 そう言って男子生徒は火球を放ってきた。


 俺はゆっくりに右手を上げると、羽虫でも払うかのように火球を掻き消した。


「はっ?」


「どうした、その程度か?

 それで本気ならどのみち赤点だな。

 それに他のやつら。

 俺はまとめて相手にしてやるって言ったよな?

 ぼさっとしてないでかかってこい!」


 魔法を素手で掻き消した光景に唖然としていた生徒たちであったが、喝をいれてやるとすぐに思い思いの魔法を放ってきた。


 ふむ、発動スピードはまあまあだな。


 入学しただけはある。


 だが所詮は実践慣れしていない卵たちだ。


 バラバラに魔法を放ったせいで空中で打ち消しあっている者や、狙いの甘い者など改善点は多い。


 俺はその場から一歩も動かず、展開した魔力障壁で全てを受けきった。


 威力もまだまだだな。


 だが、何人かそもそも魔法を放ってこない者がいるな。


 まだ俺のことをなめているのか、それとも。


「よし、次は俺からいくぞ!」


 そう言うと俺は電撃の魔法を生徒全員に向けて放った。


 もちろん本気で攻撃したわけではない。


 当たっても、しばらく痺れて動けなくなるだけの行動阻害魔法だ。


 速度はあるがな。


 素早い魔法に対し無防備に直撃を受けるもの、魔法障壁を展開するも構築が甘く貫かれるものなど様々だ。


 直撃した者たちは一様に地へ倒れ伏して動かない。


 いや、痺れて動けないのだろう。


(ほう10人も防いだか。

 確かに粒揃いかも知れないな)


 そして立っている生徒は、皆俺に攻撃してこなかった者たちだ。


 それぞれ何らかの矜持があるのだろう。


「よく防いだ。

 だがどうする、お前たちはまとめて攻撃しろと言ってもしないみたいだしな。

 俺としてはもっと実力をみせてくれないと、指導のしようがないんだが。

 さしならやるか?」


「それでお願いします」


 俺の問いかけに1人の女子生徒が答えた。


 彼女は一歩前へ出るとその手に氷の剣を生み出した。


「どこからでもかかってこい」


「お願いします」


 そう言うと彼女は構えた剣で斬りかかってきた。


(接近戦か、珍しいな)


 魔法の利点の1つとして、遠距離攻撃が可能だということだ。


 実際、敵に近づくことは負傷のリスクが伴うし、各国の魔術師団でも基本戦法は遠距離攻撃がメインだ。


 しかし、それは魔術師団が近接戦の訓練をしていないことを意味するわけではない。


「良い太刀筋だ」


 俺は半身をずらして氷の剣をかわす。


 接近戦を挑んでくるだけあってしっかり鍛えているようだ。


 だが、まだまだ荒削りだ。


 俺は素早く地面から伸ばした土で、振り下ろした氷の剣を固定した。


「ふっ」


 女子生徒は氷の剣を手放すと、新たにもう一振氷の剣をその手に生み出し斬り上げてくる。


(判断も素早いな)


 俺は後退して危なげなくかわすとそのまま少し距離を置く。


「なかなか鍛えられているな。

 だが、実践はあまりしていないのか?

 魔術師相手に距離を開けてどうする」


 俺の言葉を聞き、慌てて距離を詰めようと踏み込んでくる。


 だが遅い。


 俺は踏み出した足元の地面を盛り上げる。


「なっ!?」


 足をとられ転倒した彼女に近づくと、首もとに手を当てた。


「……参りました」


「よし、では次だ。

 かかってこい」


 そして俺は残りの生徒を1人ずつ相手にした。


 中には防御魔法のみが得意で、攻撃は苦手という者もいたが、それだって才能だ。


 自分に合わせて能力を伸ばしていけば良い。


 俺の初撃を防いだだけあって、皆優秀だった。


 これからの成長が楽しみだ。


 1人、また1人と相手をし、そして俺は化け物と相対することとなった。

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