第19話

 それからの作業はあっという間に進みチラシも思った以上のものになった。と思う。少なくとも俺はそう思う。

 「いいな。それぞれの味が出てて」

 佐竹先輩の言う通りどれもそれぞれの本への気持ちが書かれており読ませようとしてくる。

 「放課後残ってみんなで何度も添削したんだよ」

 そう言われると正田の奴、朝も教室に来るの遅かったし昼休みもすぐにいなくなってたな。

 彼らの努力を考えたうえでこのチラシを見ると尚、良く見えてくる。

 「これならみんな、興味は惹かれそうだな。それに紹介する本のジャンルも被らないように考えてあるのがいいな。思わず4枚ともコレクションしたくなるよ」

 「自分たちの写真が載ったのがたくさん学校に配られるのは少し恥ずかしいけどね」

 「俺は佐々木と違ってアイドル感があって嫌じゃないぞ」

 流石だ山田。お前のが一番、余りそうだから印刷枚数少なくしておいたぞ。

 「とりあえず手分けして配るのは明日の朝でいいかな?明日は俺たち、学救会の部員も早めに登校するよ」

 「あぁ顧問の先生には許可は取ってあるよ」

 「分かった」

 「諸君!今までご苦労だった!明日ついに決行される我々の行動は学校の注目を一手に引き受けるだろう!だが恐・・・・」

 演説はいつもの如く佐竹先輩によって中断された。

 「お前、今回大して仕事してないだろう。それに目的は知名度アップと部員確保だ。配っただけじゃまだそのうちの一つしか達成されてない」

 「そうだな。来てくれるといいな。なぁみんな」

 佐々木部長の声にみんな頷く。正田はなかなかいい先輩たちに出会ったな。俺と違って。隣の芝生は青く見えるというがこちらの芝はぺんぺん草も生えていない。せめて人工芝でも引いて欲しいものだ。

 

 その後は一言二言明日の打ち合わせをして解散した。

 




 次の日、いつもより早い電車に乗る。

 同じ駅までの道のり同じ通学路、それなのに少しの時間の差でこうも違うのか。そう思わせる。

 いつもと違うサラリーマン、いつもと違う制服の学生。犬の散歩をするおばさん。そしていつもと違う電車に乗って学校へ向かう。

 すぐに次の駅が来て昨日、同じ電車に乗ることを約束していた中山先輩の顔がホームに見える。その横には大きな荷物を背負った見たことある顔が並んでいた。

 「おっはよー葛城!」

 「おはよう、中山先輩。それから氷室」

 「テンション低くない?」

 いや。お前が高すぎる。朝というのはもっとこう静かで心を落ち着けつつ『あーだりー休みてー』という気持ちで過ごすものだと決まってる。

 「葛城さー学校行くのめんどくせーとか考えちゃってるタイプ」

 なんか最近よく心を読まれる気がするのだが心を閉ざす修行とかした方がいいのかな?今でも十分閉ざしてるからこれ以上修行したら道場とか開けそうだな。

 「それにしても2人、同じ電車でなおかつ車両なんて付き合ってるの?」

 「違うわよ」

 「それはない」

 あれ自分で否定したけどちょっと悲しいな。そして中山先輩、否定が俺より早かったですね。光の速さ出してましたね。

 「息、ぴったり!まぁ事情はさっき中山先輩に聞いてるんですけどね」

 わざとか。冗談でも自分には言えないな。多分、俺がこういうことをした場合こんなにあっさり終わることはなく。何故か否定しつつもお互いが意識し合いそして俺は背景と同化し2人だけのイチャイチャ空間が始まってしまうだろう。

 まず声掛けるイベントが発生しないんだけどね。だから安心!

 「なんか楽しそうですよね。イベントっぽくて」

 「いや、大変なだけだろ。流石、パリピでリア充でインスタやってそうな氷室は考えることが違うな」

 「なにそれ?めっちゃ馬鹿にしてそう!てか知ってる言葉並べまくっててキモイし馬鹿っぽい」

 いや、あなたも悪口並べまくってませんか?

 「まぁまぁ2人とも」

 仲裁役の中山先輩が困っている。このぐらいでやめておこう。すまないな氷室、人と関わることないから加減が分からん。言うならば『力が強すぎてセーブできなくてな。手加減できないぞ?』ってやつだ。中二病乙。

 「けど意外だなー。ラノベ研って木田先輩がいるぐらいならもっと人がいてもおかしくないのに」

 「えっ?どういうことだ」

 何故、木田先輩の名前が出てくるのだろう。

 「あの人、結構女子から人気あるのよね。うちの部の先輩とかも気にしてる人も多いし。勉強とスポーツもできるし生徒会だから顔も広いしね」

 なんだか一部が佐竹先輩と被る。だがそれがラノベ研の部員数にどう関係あるのだろうか。

 「まぁ本に興味なくても木田先輩を目当てにって女子もいてもおかしくないのかなと思って。ちなみに私は興味ないわよ」

 そこは聞いて無いです。しかしそれは知らなかったな。そもそも木田先輩も含めて周りの人間を知らない自分なら仕方ないことかもしれないが学救会の先輩たちが知らないということは無いだろう。何故黙ってたんだ。

 「確かに木田君は一部に人気あるわよね。まぁでも部長が佐々木君だからその辺は精査してるんじゃないかしら」

 なるほどそれなら分からなくもない。いくら本人が入部を希望しても部の方針と違えば拒否もできるか。

 「急に変なこと言ってごめんね。まぁ今日のチラシ配り頑張ってよ」

 話をあっさりと変え内容は今日の朝の番組や小テストの範囲などありきたりなものに移っていった。



 「じぁあ頑張ってね!」

 「氷室さんも練習、頑張って!ほら、葛城君も応援してあげて」

 「頑張って・・・」

 「ありがと!」

 氷室と別れた後はラノベ研の部室に集まりそれぞれが配るチラシを受け取る。

 「あれ?なんか俺の書いたやつだけ少なくない?」

 気のせいだ山田。というか気が付くな山田。

 「どっかに混ざってるんだろ。気にせず配りに行こう」

 佐々木部長に促されそれぞれが1年の教室へ向かう。俺と正田は自分とクラスに合わせてA組を配ることになっていた。

 この時間に来ている奴はほとんどが朝練の者ばかりなのでよほど学校が好きなもの好きでない限りは誰もいない。案の定、誰もいない机に1枚づつチラシを並べていく。

 できるだけ近くの者と種類が被らないように注意しながら1クラス分を終えたところで何人かが登校してきた。正田がチラシについて一言二言話すとすぐに納得したようで誰も気にすることなくスムーズに朝の仕事は終わった。


 


 「みんなご苦労だったな!」

 みんなで配ったということと1年だけということもありあっという間に仕事を終えた俺たちはラノベ研の部室に集まっていた。

 「なんで神坂から労われてるんだ?頼んだのは俺らなのに」

 山田にしては的確な指摘だ。成長したな。

 「まぁまぁ、ほんとありがとう。と言ってもこれから何人来るかだけどね」

 佐々木部長の言う通りあくまで配っただけ、これから次第だ。だがひとまずは仕事を終えたと言っていいだろう。あとはラノベ研がなんとかしそうだし。

 「ということでお疲れ様でした」

 もう俺がこの部室に来ることも無いだろう。そんな考えも込めて

 「お疲れ様でした」

 

 

 















 

 

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