第18話

 しかし教師という職業は尊敬に値する。だるそうな顔で話を聞く者、そもそも一言も聞いていない者、真面目に聞いているようで聞いていない者。それらを相手に毎日朝から壊れたスピーカーのように話し続けなければならない。教科書をノルマの為にただひたすら聞いていようが理解していなかろうがただ読み上げていく姿はもうこいつ要らないんじゃないかな。と時々考えてしまうが逆に言えばそれでお金が貰えるのは案外、教師も悪くないぞと錯覚させる。

 実際のところ俺のような他人に迷惑を掛けない生徒ばかりではないのだろうなとしみじみ考え将来に絶望するところまでがセットである。

 何故こんなことを俺が考えているのか。

 

 暇なのである。


 ありがたいことに今日の昼休みいつものごとく1人楽しく昼飯を楽しんでいる。昔は学校にテロリストが侵入してきてなどを妄想しながら食事を取っていたが最近の俺のブームは世の中をちょっと斜めから見るということだがこれが斜めなのか目隠しされていて見えていないのかそれは分からない。一つ言えることは暇というのは素晴らしいということだ。

 よく、暇を悪のように考え予定を入れまくりそれだけでは飽き足らず他人の予定を入れまくる大罪人がいるがもっと暇を愛するべきだ。と俺は考える。

 幸いなことに俺の予定を埋めてくる大罪人は今まで出会ったことは無いが。

 「葛城君いてますか?」

 大罪人の登場である。

 「どうしたんですか中山先輩」

 「今日の放課後また話するけどチラシ作成を早く進めたいから今週の土曜日も時間空けておくようにって部長からの伝言。と後、お昼一緒に食べない?」

 「土曜日は暇ですね」

 暇という予定が詰まっているのだが仕方がない。食べかけのパンを持って中山先輩に着いていく。

 知らない上級生が俺を連れ出したことで好奇の目がこちらを向いているのが恥ずかしい。俺は注目されるのに慣れていない。視線で焼け死んでしまう。

 何も悪いことをしていないのだがそそくさと教室をでる。その際「部活、結構忙しくなって来ましたね。先輩」などとさもこの人は部活の先輩でありそれ以外には何も無いですよというアピールを怠らない。

 これが重要なのだ。この小さな布石こそ後々面倒ごとに巻き込まれない為の重要な下ごしらえなのである。これが知らないところで悪い方向へ転ぶこともあるが俺はそれをまだ知らない。知ったときは大抵、手遅れだ。

 「どこで食べるんですか?」

 「中庭なんか今は暖かくてちょうどいいよ。道子と佐竹君も先に来てるわ」

 全員集合か。それなら楽だな。何より佐竹先輩がいることで目線が分散される。それなら何とか乗り切れそうだ。

 「でも昼食べながら打ち合わせしないといけないほど切羽詰まった状態ですか?」

 「そんな訳ないじゃない。ただみんなでご飯を食べるだけよ。普通のことでしょ?」

 変なこと聞くのね?という顔を中山先輩はしているが少なくとも俺は普通のことを未体験なのだ。やっぱ先輩ばっかだから飲み物買ってこいとかパシらされるのかな?お客様期間は終わりだとか。仮入部なんだけどな俺。

 すでに全員そろっておりちょうど神坂先輩が佐竹先輩のから揚げを奪っているところだった。

 「哲也、お前トマト好きだったよな。仕方がないからから揚げで手を打ってやるよ。喜べ!」

 もうそれほとんど強盗じゃん。

 「連れてきたよ。2人とも」

 「なんだ。もう食べてるところだったのか。悪いことしたな」

 俺の食べかけのパンを見て佐竹先輩が謝る。その隙をついて二個目のから揚げを奪いに行く神坂先輩がいるのは気にしないでおこう。どんだけから揚げ好きなんだよ。

 「普段からみんなで食べてるんですか?」

 「いや、なんか授業中こいつが中庭見てて思いついたらしい」

 授業聞きなさいよ。せめて聞くふりしましょうよ。

 「いや、実を言うとせっかくできたのだからよくあるイベントの部活の後輩にジュース買いにパシらせるのをやってみたくなってな!ということで誠一郎君!カフェオレで頼む!金は哲也持ちで」

 最低だこの人・・・てかよくあるイベントってなんだ。

 「行かなくていいからな。葛城」

 佐竹先輩はこう言っているがどちらに従うべきか・・・

 「部長命令だ!」

 「いや、流石にそれはダメだよ道子」

 「そうかー。一回、先輩ごっこしてみたかったのだがすまんな誠一郎君、付き合って貰って」

 ごっこだったんだ。なんか本気なのかと思ってビビっちゃったよ。

 「ところでチラシができたとしてどうやって印刷するんですか?配るのが1年だけとはいえ結構な枚数になりますし」

 「それなら木田が先生と交渉して格安で生徒会のコピー機を使わせてもらえるように交渉したってさ。特別だから内緒だけどな」

 「そうですか。何気に木田先輩、有能ですね。俺らの助け要らないんじゃないですかね?」

 「いや、得てしてこういう時に限って何かひと悶着起きるものだよ」

 起きなくていいです。このままスムーズに流れて下さい。

 「しかし君の食べているコロッケパン、なかなか美味しそうだな」

 自分の弁当を食べ終え更には佐竹先輩のから揚げまで奪った神坂先輩の胃袋は満たされていないようで俺のコロッケパンが次の標的のようだ。

 「いやこれ食べかけですし」

 流石に先輩も女子だ。俺のような奴の食べかけなど欲しくないだろう。

 「何か問題があるのか?」

 「えっそれって・・・」

 まだかじりついていない反対側、持ってかれました・・・・。ですよねー。

 あれ?コロッケパンてこんなに小さかったっけ?

 「可哀そうでしょ!道子!葛城君、私の玉子焼きでよければ一つどうぞ」

 そういうの良くないと思います。俺、ちょろいから簡単に好きになりますよ。

 貰った玉子焼きは俺にはちょっと甘く感じた。

 「じゃぁそれ食べたらそろそろ教室戻りますか。今日は最後のラノベ研との打ち合わせな。それから昨日みたいに俺、置いて帰るなよ。帰るならせめて連絡だけ入れろ。みんなスマホ持ってるだろ」

 「りょーかい!そう言えば誠一郎君は2人と連絡先を交換してたかな?」

 「あっ佐竹先輩だけまだですね。お願いします」

 「ほう、麻友の連絡先はゲット済みというわけか。なかなか隅に置けないな誠一郎君も」

 「いや、帰り一緒だったんでこの前、中山先輩の方から教えて貰いました」

 「だったら今日も先に麻友から連絡してあげれば私のコロッケパンが食べられずに済んだのに」

 「私、ちょうど氷室さんって葛城君のクラスメイトに連絡先を聞こうとちょうど近くまで行ったから」

 「彼のクラスメイトなら彼に聞けばいいじゃないか」

 喧嘩を売られているのだろうか。

 「いや、俺、氷室って奴の連絡先知らないので」

 「そうだったな。我々と行動しているから忘れていたが基本君は1人だったな」

 あれ?この人こんなに攻撃的だったっけ?気のせいかな?目にゴミが・・・。

 「気にするなよ葛城。こいつ鳥頭だからアホなんだ」

 よく存じ上げております。

 気が付けば時計の針は俺たちを教室まで走らせる時間を指していた。

 「じゃぁ後でな!」

 

 お役御免は近そうだな。


 









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