第16話 両手に・・・

 声の主は・・・・誰だっけ?

 「氷室だよ。氷室飛鳥。あなたの頭、どうなってるの」

 「はいはい、氷室さんね。覚えてますよ。ほら、パソコンとかも起動に時間かかるじゃないですか?脳も急に動かすとフリーズしちゃって」

 「どんだけ古いパソコンなのよ」

 こちら16年製の中古未使用品でございます。

 「葛城君の友達?」

 中山先輩が後ろから声を掛ける。

 「いや、同じクラスで、、、」

 「そうか私は葛城の中では友達で無かったのか」

  そんな言い方をされると俺が悪いみたいだ。

 「いや、俺とお前が話したの今日が初めてだし」

 こいつの中で一回話しただけで友達なのか?それとも俺をからかってるのか?

 「いや、一回とか関係なく友達でいいんじゃないかな?氷室さんがそう言ってる訳だし」

 「流石、先輩話が通じますね!えーっと」

 「中山よ」

 「中山先輩、よろしくお願いします。私、彼と同じクラスで『友達』の氷室と言います。名前はさっきこの友人が忘れてたので名乗りましたけど」

 そこ強調して言わなくても良いだろう。そもそも相手が友達と思っていたら友達というのはどうなのだ。俺の気持ちはどうなるのだ。

 「なんだ。教室ではボッチなのかと心配していたが正田以外にも友達がいたのか。成長してるじゃないか」

 「そちらの方は神坂先輩ですか?」

 「いかにも私が神坂先輩だ。私も有名になったものだな」

 自分でこの人、先輩ってつけちゃったよ。そう言えば先輩は覚えていないかもしれないが氷室は入学式の日に見ていたのか。今朝、氷室自身から聞いた話を思い出す。そのことを知っていて尚、自然に話しかける氷室には感心する。俺だったら逃げちゃうね。捕まったけど。

 「今から帰りですか?」

 「そうだ。テニス部も今日は終わりかい?」

 そう言われると氷室は背中に大きな荷物を背負っている。そうかこいつテニス部だったのか。

 「そうなんだよ葛城。友達の氷室さんはテニス部って覚えておくこと!」

 最近、考えを読まれることが多い気がするが気のせいか?顔に出てたかな?

 「良かったら一緒に帰らないか?普段の誠一郎君の様子も聞きたいしな」

 「いいですよ」

 結局、この日は女性3人に囲まれながら帰ることになったのだが全然うらやましくないな。

 そして何か忘れているような気がするがそっとしておこう。カギ返しに行った人とかのことは。

 

 「氷室さんの最寄り駅、私と一緒なんだね」

 まさかの氷室と中山先輩は同じ駅だった。しかし2人とも記憶にない。というか自分で言っておいてなんだが同じクラスの奴の記憶が無いのは病院に行くことをお勧めされるレベルなのではないかとちょっと真剣に考えてしまう。

 「そうか予想通り誠一郎君は教室では1人なのか。昼ごはんも1人で食べてるのか」

 予想通りなら声に出して言わなくても・・・周りの通行人が見てるよ。これに出して言いたいボッチとかないでしょ。

 「だから今日は正田と仲良く話してたからびっくりだったんですよ」

 それは俺もびっくりだ。と言っても俺から積極的に話しかけたのではなく完全に向こうからだったのでカウントしていいのかは定かではないが。

 「まぁ別に話すのが嫌いとかではないさ。単に必要にならなければ行動しないだけで」

 現に俺は教科書を忘れた時などにはちゃんと隣の女子に『教科書、見せてくれないかな?』と尋ねることが出来る。

 「確かに今日、普通に私とも話してるしね。でももっと話すればいいのに」

 「確かに誠一郎君はもっと積極的になっていいんだぞ。積極的に部活に参加するためにも本登録しよう」

 丁重にお断りした。

 その後も何故か俺の覚えていない俺の教室での話を氷室が2人にし笑われるというプレイを行った後、駅で神坂先輩と別れた。

 「昨日は2人だったけど今日は3人だね」

 「昨日も一緒だったんですか?中山先輩、葛城と仲いいんですね」

 いや、昨日が初めてだし。なんならクラスメイトと帰るのも初なんですけど。

 「そういえば神坂先輩って葛城のこと下の名前で呼んでるけど元々仲いいの?」

 「いや、全然」

 そこに関してはさっぱり分からない。勝手な予想だが太一君が俺のことをそう呼んだのを真似したのだろう。

 「ふーん。まぁいいや」

 いいのかよ。何故聞いた。

 「それにしても氷室、同じ方向なのに全く朝とか会わないな」

 「そりゃそうだよ。私、葛城と違って部活やってるんだから。朝練だってあるし帰りも遅くなるよ」

 そう言われるとそうか。むしろ今、俺がこの時間に帰宅していることがおかしいのか。よし、明日は早く帰ろう。

 「テニス部って大変そうだよね。氷室さん上手なの?」

 「いやー上手かったらかっこいいのですけどね。残念ながら下手の横好きといいますか。でも最初よりは上手くなってますから!」

 話を聞いていくとどうやら氷室は中学まではバレー部に所属しておりテニスは高校に入ってから始めたらしい。特にバレーが嫌いになった訳ではなく単純に他のスポーツもやってみたかったそうだ。

 「私、別に全国レベルの実力がって訳でも無いですしね。それなら楽しんじゃえって感じで選びました。実際、テニス楽しいですよ」

 俺には分からない。どうやら氷室は青春を謳歌する別人種らしい。取って食われないように気を付けないと。

 「葛城も何かスポーツしてみたら?部活じゃなくてもいいじゃん。あんた別に運動音痴って訳でも無いみたいだし」

 「気が向いたらな」

 「それ絶対やらないやつじゃん」

 2人に笑われながらもちょっと気分は悪くない。これは新ルート発見か?などとつい考えてします。

 

 因みにちょっとにやついて気持ちわるがられてのは実に俺らしい。記憶から消しておこう。









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