第15話 コーヒーもいいよね

 会議のはずが気が付けば撮影会に、そしてただのティータイムと化した部室は楽しさを感じなかったと言えば嘘になる。だが居心地の悪さを感じたのも事実だ。

 つい数日前まで放課後残るなどということが一切無かった自分にとって高校に入って初めての体験は思ったよりも体力を使うことだと思った。

 少し息を吸う為、海面に出ようとトイレに行く振りをして廊下に出る。すると図った様に向こうから桜井がやってくる。

 「太一君・・・」

 「ここでは桜井先生と言えといつも言ってるだろ」

 そう言いながらも顔は笑みを浮かべている。

 「こんなところで何してるんだ?」

 「いや、元はと言えば太一君のせいなんだけど」

 「どういう意味だ?」

 今の俺の状況を知っていて聞いているのだろうか。それとも知らずになのか。どちらにせよその顔を少し嬉しそうだ。意地の悪い顔だなぁ。女子たちはこの顔を見ても彼のことが好きなのだろうか。

 「神坂先輩に俺のこと教えるから俺の悠々自適の放課後タイムが部活で潰れていってるんだよ」

 「そうか、それは大変だな」

 えらく他人事の様に話しているがそもそも太一君は学救会の顧問だ。きっと佐竹先輩か中山先輩辺りから話は少しは聞いているだろう。

 「先輩を焚きつけておいてそれはないでしょ」

 「まぁな。でも俺は強制はしてないぞ。選んだのはお前だ」

 痛いところを突かれる。その通りだ。 確かに先輩にごり押しされたとは言え最後に選択をしたのは俺だ。だが解せない。そもそも誰かによって俺の選択肢が捻じ曲げられたのだから、よって選ぶはずのないルートを選ぶことになったこちらとしてはいい迷惑である。

 「迷惑だったか?」

 先に言わないで欲しい。そう言われて『はい、迷惑です』とも言いにくい。

 「そういう訳でも無いけど・・・」

 「なら良かった。じゃあ頑張れよ!部活」

 俺の反論を言う隙を潰すように話を切り上げ去って行く。しかしこんな男だぞ。この男は。世の女性たちよ。顔に騙されるな。

 「神坂の力になってやってくれ!」

 去り際、この一言だけを残し職員室の方へ太一君は消えていった。


 「お帰り」

 部室に戻ると何故かUNOが始まっていた。この人たちどんだけUNO好きなの?UNO部に名前を変えたらどうなの?

 「今、いいところなんだ。次の勝負からお前も参加しろよ」

 佐竹先輩の口調とみんなの顔つきから誰がリードしているか大体の察しがつく。とりあえず神坂先輩が負けていることは容易に想像できる。だってこの人すぐに顔に出るし。

 「やぁお帰り!誠一郎君。ところで私を助けてくれないか?」

 太一君、さっそく力になるときがきたようだよ・・・

 「とりあえず手札を見せて下さい」

 先輩の手札はなんの策も練らずとりあえず行き当たりばったりで出した後の残骸のような手札しか残っていなかった。

 「どうやったらこうなるんですか」

 「後ろは振り返らない主義でな」

 言ってることはかっこいいが行動が伴っていないとめっちゃかっこ悪い言葉代表だ。

 「これはですね、ちょっと貸してください」

 残った手札で何とかビリにならない戦略を考える。

 「とりあえずこれとこれを先に出せるようにしましょう」

 「ふむふむ。それで一番になれるのだな」

 いや、一番にはなれない。現時点での手札の数などを考えてもそれは難しい。ただ最下位を避けるようにすることは不可能ではない。

 思わぬ助っ人が入ったことでカモがいなくなりみんなの頭にビリの文字が浮かんだのか雑談が減る。その代わり謎の心理戦が始まり誰がどのカードを持っているのかなどの探り合いになった。

 「はーい!一番!」

 山田が高らかにUNOを宣言した後、真っ先に抜ける。山田のくせに生意気だぞ。

 その後も何人かが抜け残すは俺たちと木田先輩、佐竹先輩という三つ巴の戦いになっていたのだが横で一番になれなかったことにぶつぶつ言っている人を差し置いて俺は残り一枚のカードを出すタイミングを図っていた。

 「もうこれ神坂関係なくなってるよね?」

 佐々木部長の言う通り完全に俺が代わりにカードを出している。しかし序盤の戦略ミスが原因か上手く処理しきれない。

 しかし運よく佐竹先輩のおかげで上がりを宣言することが出来た。

 「先輩、ビリ回避しましたよ」

 こちらとしてはよくやったと思ったのだが神坂先輩はどうやらそうでは無いらしい。

 「何故、一番を狙わなかった!」

 「いや、どう考えても無理ですよ。上手くビリにならないように切り抜けるのが一番確率的に正しいですし」

 「そんな戦い方で楽しいのか?」

 不思議なことを言う人だ。勿論、ギャンブル的な戦い方もできただろう。だがそれではどう考えてもビリの可能性が高い。それなら上手く切り抜けて次の機会を待つ方が無難だ。

 「まぁビリ回避をしてもらってそのいちゃもんは可哀そうだぜ」

 結局、ビリになってしまった佐竹先輩が制する。

 「戦い方も楽しみ方も人それぞれだしね」

 佐々木部長が助け舟を出す。

 「まぁそうだな。すまなかったな誠一郎」

 あっ呼び捨てなってる。

 「ところでみんな結構真剣でしたけど何か罰ゲームとか考えてたんですか?」

 話を戻されビリの佐竹先輩が顔を下にする。

 「最下位は明日の会議のお菓子と飲み物を持ってくるってことだよ(自己負担)」

 それは痛い。高校生にはかなり痛い。

 「くそー途中でお前が参加してなければ神坂だったんだけどな」

 いや、一応部長なんだし。部長をカモにするの止めようよ。この人がめっちゃ弱いの知ってるでしょ。てかあんたも弱いのによく受けたな。

 「ふっふっふっ、残念だったな哲也。そうだな、私は何にしようかな?」

 「しょうがない。甘んじて受け入れよう。それと山田、食玩はだめだぞ」

 山田の抗議をBGMにして明日の打ち合わせについて軽く話した後、今日は解散となった。

 ラノベ研はもう少し打ち合わせをしてから帰るとのことで俺たちは先に帰ることにした。

 昨日と同じようにカギを返却する佐竹先輩を待ちつつ靴を履き替える。3人で談笑しながら待っていると後ろから聞いたことのあるような無いような声が聞こえてくる。

 「あれ?葛城も今、帰りなの?」

 









 

 

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