第14話 回り始める
「前回はチラシを作ろうって決まった訳だけどその内容がそれぞれのおすすめ本の紹介を載せるってことまではよかったかな?」
山田先輩の確認にみんな無言で頷く。
「じゃぁその続きってことでまずチラシの構成や枚数、あとどこに配るかなんかを話し合っていこうか?」
これにも反対意見は無い。
「まずはチラシの構成だな。ラノベ研はそれぞれ紹介したい本とかは決まってるか?」
「一応、あの後4人で話したんだけど大体は元々好きでよく読んでいる本に絞ったよ。その中から紹介しやすいものをピックアップしてある」
「そうか、どうだ?葛城、何かあるか?」
急に振られびっくりする。
「なんの問題もないかと。こっちに振らなくても問題ないのでは?」
「一応、考案者だしな」
「そうだぞ誠一郎君!いざとなったら哲也は君に責任擦り付けないといけないからな!ちゃんと意見を聞いておかないと」
そういつやつなのかこれ。夜逃げしないといけなくなるのかな?
「冗談でも後輩を脅すな!逃げるだろ!嘘だからそれ。ちゃんと責任は取るから。部長が」
まぁ普通そうなりますよね。部下の責任は上司の責任。これ常識。常識が通用しそうにないのは気にしないでおこう。
不安が顔に出ていたのだろうか。山田先輩が気を使ってくれる。
「そこは気にするな。そもそも難しい依頼をしたのは俺らだからな」
山田先輩、優しい・・・ロン毛が目に染みる。
「分かりました。とりあえずチラシの形は本の紹介文とその紹介者の写真を載せるってことで部の連絡先を下に入れる以外のデザインはお任せします」
お任せ。いい言葉だ。乱暴に言えば勝手にやっといてになるが問題ないだろう。その辺りは彼らに任せた方がスムーズにいく。
「そうだな、後は何枚配るかだな。流石に全教室って訳にもいかないしな。部費は支給されているとはいえ印刷代は馬鹿にならないからな」
「その点ですが1年生に絞って配るのがいいと思います。3年からだとなかなか今からって人も少ないだろうし2年を入れてもいいんですけど結局、皆さんが3年になったら今度また人集めが必要になりますしその点、1年を今から集めておけば部も存続の可能性が上がります。幸い正田がいるので入りにくさのハードルは下がっているでしょうから」
というより選択肢は最初から1年狙いしかない。それは他の人たちも口には出さずとも考えていただろう。そもそも部が喧嘩別れで分裂して誕生したことを1年は知らない。少なくとも俺は知らなかった。いくら今、沈静化しておりラノベ研も和気あいあいとしているとしても再勃発がいつ来るかも分からない。そんなごたごたに巻き込まれたいとは思わないだろう。その点1年ならまだ幸い入学して間もない。人づてに何かを聞いている奴も中にはいるだろうがまだこの期間ならばれる前にねじ込める。しかも正田をフル活用すれば大した労力も要らないかもしれない。
「よし、それじゃ1年に絞ろう。1年は何クラスあるんだったかな?」
「俺らは確か・・・どうだったっけ?」
「A 組からF組の6クラスだよ。それも覚えて無いの?葛城君」
「自分のクラスすら覚えられないからな。仕方ない」
「それは仕方ないのか?佐竹のところの後輩はなかなか大物かもな」
佐々木部長の言葉に佐竹先輩は苦笑いする。
「そうだろ?残念だが彼は私のものだからラノベ研にはやらないぞ」
神坂先輩、それ告白ですか?俺、ちょろいから惚れちゃいますよ?
「いや、いらないよ」
傷つくなぁ・・・佐々木部長、はっきり言いますね。
「写真どうする?今から撮ってみるか?スマホでいいよな?」
というか選択肢はない。特にこの中にカメラにこだわっている人間はいなさそうでひとまず一番下っ端の俺が撮影係をする。
「じゃあバックはその本棚がいいんじゃないかな?」
佐々木部長の誘導に従いまず山田先輩が本棚の前に立つ。一応、撮影ということもあり中山先輩が服装や髪形をチェックしてくれているがいまいちどう変わったのか分からない。いっそあのロン毛バッサリ切るか。ハサミ無いからちぎるか。などと考えている間に準備ができる。
「撮りますね。ハイ、チーズ」
何枚か連射で撮ってみる。写りを確認しようと寄ってくる。
「すごいな。葛城。どうやったんだ」
俺の撮った写真は最近のスマホのカメラスペックを遥かに凌駕するほどブレッブレッのピンボケ写真だった。
「これは酷いな。誠一郎君。センスゼロだな」
「正直、俺、イケメンでは無いの分かってたけどここまで顔面崩壊してた?ショックなんだけど」
安心してください。一番ショック受けてるの俺ですから。
「僕、代わりましょうか?」
正田にバトンタッチする。すると正田は慣れた手つきで自分のスマホを操作し山田先輩を撮影する。
「「どれどれ」」
なんということでしょう。めっちゃ上手い。てかこれ誰だ。山田先輩、成分が消えちゃったよ。
「上手く撮れてるな。これなら良さそうだ。うちの新人とは大違いだな」
佐竹先輩、聞こえてますよ。それにうちの部、カメラ部とかじゃなくて学救会だから、それにほら俺のスマホより正田の方が最新のやつだし。
「ありがとう正田。ちょっと自信取り戻したわ」
え、これなんて虐め?
「誠一郎君のは味のある写真だな。まぁ別の機会に活かしてくれたまえ」
それ、下手って言うのをオブラートに包むテンプレですよね?活かす機会絶対にこの先来ないですからね。断言します。
「ところで僕の写真は誰が撮ってくれるんですかね?」
そう言われるとここに来ていない木田先輩を含めた先輩、3人は正田が撮影できるが本人はどうしようもない。とりあえず中山先輩が正田のスマホを借りる。
「撮るよーハイ、チーズ!」
悪くは無い。だが正田の撮った2人の写真には劣る。
「正田の可愛さが出ていないな」
「山田、今の発言きもいぞ」
佐竹先輩のツッコミに声に出ていたことに気が付いた山田先輩が周りを見渡しすと若干の引き気味の女性陣と苦笑いの佐々木部長と思わず同じことを言おうとして口を押えた俺がいた。
いや、可愛いよ?正田。
その後は交代で皆が正田撮影会を行ったもののいまいちピンと来ない。勿論だが俺も再チャレンジしたがピントが合わない。
何故かここから終わりなき撮影会が続きちょっと気持ちの悪い部室と化す。
例えば・・・・
「いいよ!正田君!次は指くわえてみようか?」
「正田ー、試しにボタン1つ外してみるか?」
「ぐふふ、正田、下のボタ・・・・」
順番に神坂先輩、佐竹先輩・・・山田は死んだ。
「これはなかなか難しい問題だね?」
佐々木部長が山田の死体を引きずりながら困った顔を向ける。
「これはもう木田に頼るしかないな。生徒会だし写真ぐらい撮れるだろ」
何その理論。生徒会万能説この学校でもあるの?校長より権限とか持っちゃったりしてるの?
するとガラリと扉が開き木田先輩が入ってくる。
「このタイミングで来るとは主人公っぽいな。待ってたぞ」
佐竹先輩の言葉がまったく理解できず頭にはてなを浮かべながら木田先輩がやってくる。
「お前ら何やってるの?なんか山田が転がってるし」
「実は困ったことにチラシに使う写真が上手く撮れないんだ。お前写真とか上手いか?」
佐々木部長の問いかけに首を振りながら呆れた声で答えを言う。
「いや、俺は生徒会でも記録係とかじゃないからカメラは使い慣れたないな。1枚も撮れて無いのか?」
「僕がみんなのを撮ったんですが僕の写真だけまだなんです」
「どのカメラで撮ってるの?」
「僕のスマホです」
「自撮りすれば?」
あっ・・・・・・全会一致の『あっ』頂きました。
パシャリと一枚、写真を撮る音が聞こえみんなが正田のスマホに顔を寄せる。
「どれどれ・・・」
全員が無言になる。
「正田、お前、こういうのよく撮るの?」
みんなが聞きたかったことを俺が代わりに聞く。
「うち姉が2人いるんだけど2人とも写真とか好きでさ。カフェとか写真スポットとか付き合ったりするんだよね。そしたら自然にかな?でも中山先輩とかも上手そうですよね」
正田よ。何故そこで神坂先輩は外した。いや、分かるぞ。みんな思ってるぞ。そして指名された中山先輩は女子力で負けたことにより混乱している。
「まぁいいんじゃね?無事に撮れた訳だし」
木田先輩は至って冷静。流石、生徒会。
因みに木田先輩の写真撮影は10秒で終わりましたとさ。
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