第13話 プラス1

 夕方のホームルームを終え、帰り支度をさっさと済ませる。誰も話しかけてこないこともあってかスムーズに終わる。

 「葛城君!」

 だが今日は珍しく、いや、初めて声を掛けられる。

 「行くか。ラノベ研の部室」

 「うん、ちょっと待っててみんなに挨拶したから行くよ」

 そう言うと正田は窓際で集まって談笑している塊に話しかけに行く。軽く談笑した後お互いに手を振る別れの挨拶をしこちらに戻ってくる。

 「友達、多いんだな」

 「葛城君が少なすぎるんだよ・・・」

 知ってるか?ゼロに何掛けてもゼロなんだぜ。

 「チラシ作り楽しみだなぁ」

 「そうか?発案しといてなんだが面倒じゃないのか?」

 「そんなこと無いよ。僕、入部まもないからまだ部活らしいことしたこと無かったからちょっと楽しみだよ。大変には違い無いだろうけど」

 確かに俺たち1年はまだ5月を過ぎた頃というのもありお客様期間が終わり本格的な部活動に勤しみ始めたばかりのところも多いだろう。特にラノベ研のようにメインが読んで楽しむことに重点を置いているような部活ならなおさらだ。俺は何故か仮でもこき使われてるけど。お客様期間、5秒ぐらいで終わってないですかね?

 「ところで正田は何でラノベ研に入ってんだ?似たような部、たくさんあっただろ?」

 わざわざ部にもなっていない所にいきなり入るというのは勇気がいると思う。それも似た部があるにも関わらずだ。マイナージャンルでそこしか無かったと言うなら納得もできるのだが少なくともラノベ研はそれを満たしているようには思えなかった。

 「いや僕も元々、ラノベ研も知らなかったしさ。青年小説研究会にも見学に行ってたんだ」

 ラノベ研が誕生する原因となったギスギスした部のイメージしか湧かない。

 「違う部にも誘われたりしてたんだけど、一番居心地が良さそうだったからさ。ほら、先輩達みんな優しい人ばかりだし。後は人数が少ない分、色々と部の運営にかかわれるかなって。まずは部に昇格しないとだけどね」

 ちゃんと真面目に考えて部を選んでるんだな。そう思うと手助けも悪くないのかもしれない。

 「葛城君も学救会が部に昇格するといいね」

 いや、それはしなくていい。昇格するならせめて俺以外を含めて5人集めてくれ。最後のピースが君だ!とか一見すると主人公っぽいが責任重大過ぎてトイレから出られなくなる。

 そうこうしているうちにラノベ研の部室にたどり着く。中から声が聞こえたので挨拶しながら入るとラノベ研の佐々木部長とえっと・・・誰だっけ・・・。

 「佐々木部長、山田先輩、早いですね」

 そう、山田先輩だ。後、副部長が何とか田先輩だ。

 「木田副部長はまだですか」

 何?正田、俺の心読めるの?

 「木田は今日は生徒会の会議があるからそれが終わってから来るってさ」

 生徒会にも所属しているのか。意外と高スペックなのか?木田副部長は。

 「葛城君も来てくれたんだね。仮入部なのに連日悪いね」

 「こっちの先輩達はまだですか?」

 部屋を見渡しても3人の姿は見えない。あれこれ俺が一番張り切ってるみたいになってない?

 「多分、部室に寄ってから来るんじゃないかな?教室で佐竹が「後でな」って言ってたから」

 どうやら佐々木部長は佐竹先輩と同じクラスのようだ。

 「佐竹先輩ってクラスでもあんな感じ何ですか?」

 部の先輩達のことを聞いてみたくなった。後の2人は一緒の人はいないだろうか。

 「そうだね。落ち着いた感じで彼、勉強もスポーツもそれなりに得意だし顔も悪くないからクラスでは人気あるよ。愛想が悪い訳でもないから女子にももてるし先生達にも信頼されてる」

 「だから学救会にいることが変と?」

 「うん、そうだね。僕自身はそれほど神坂さんに抵抗も無いし佐竹とは同じクラスだから気にしてないけど他の人は彼が神坂さんと学救会を作ったって聞いて驚いてたよ。部活をするならてっきり運動部とか入るだろうって思ってたし」

 「あの2人は元々、仲がいいんですか?」

 「僕も彼らとは高校からしか知らないから詳しくはないけど同じ中学のはずだよ。だから小学校とかも一緒の可能性はあるだろうね」

 中山先輩が入部した経緯はすでに聞いていたが佐竹先輩がクラスではそんな立ち位置だったのは意外だった。確かにそれだけを聞くと何故、学救会にいるのか分からなくなってくる。

 「おっと君の先輩達が来たようだね。この話の続きを聞きたければ別の日に改めさせてもらうよ」

 扉の向こうからざわざわとした声が聞こえてくる。

 「せっかく教室まで迎えに行ったのにいないんだ!」

 「帰ったんじゃねえの?」

 「先に来てるかもよ」

 ガラリと扉が開き3人の見知った先輩達が入ってくる。

 「邪魔するわよ」

 「ほら!私の行った通り!」

 「ほんとだな」

 騒がしいなこの人達。3人とは思えないボリュームだ。

 「いらっしゃい。先輩が後輩に負けてていいのかい?」

 佐々木部長が冗談ぽく言いながら笑いかけると中山先輩がぷくっと頬を膨らませながら「だってうちの担任の話長いんだもん!」と言い返す。

 中山先輩、あざと可愛い。

 「佐々木の冗談だよ。それより早かったな葛城」

 「正田とクラス一緒なんでそのまま来たんです。連絡せずにすみません」

 そういえば連絡先を聞いていたのだから直接行くことを言っておくべきだった。今度からは気を付けよう。

 「いや、いいよ。それよ「葛城君!何で私を待っててくれないんだ!おかげで私は君の手がかりを探すため君の机とロッカーを物色する羽目になったんだぞ!」

 えっ?おかしくね?何してるのこの人。てか俺の机、災難すぎない?叩きつけられるわ、中身荒らされるわでお祓いした方がいいのかな?

 「とりあえず席に着いてくれ木田は遅れてくるから打ち合わせを先に始めよう。正田、机と椅子を並べてくれ。山田はお昼に買っておいた飲み物取って来てくれ」

 「正田、俺も手伝うよ」

 2人で並べるとあっという間だ。並べた机に山田先輩が紙コップとお茶を並べてくれる。ペットボトルのお茶は昼に買ったにしてはよく冷えてそうだ。

 「この部屋、冷蔵庫あるのか?」

 「あるよ。と言っても俺たちが買ったわけでは無くて元々あったんだ。どうもすでに無くなった部が昔、ここを部室にしてて使ってたみたいだけど」

 「本当なら勝手に使うのはまずいんだろうけど木田が先生と交渉してくれて使わせてもらってるんだよ」

 紙コップにお茶を丁寧に注ぎながら山田先輩が話を続ける。

 「でもあまりここに冷蔵庫があることは内緒にしておいてくれよな。木田は生徒会だからその特権でえこひいきしたとか他の部に言われても厄介だし。うちの部が許されたのは問題を起こさない部だろうというのと同好会で規模も小さいから誰も気にしてないだろうってことなんだろうけど。もしかしたら5人集まらなくて廃部になるって先生達には思われてるのかもな」

 「いいな!冷蔵庫!夏に向けてうちも買おうか!なぁ哲也!」

 約1名、話を理解していなかった人がいたらしい。案の定その数秒後に頭にげんこつをくらい涙目になる神坂先輩がいた。ちょっと涙目の先輩可愛い。喋ったら魔法が一瞬で解けるけど。

 「そろそろ始めたいから席に着こう?」

 中山先輩の一言でめいめい自分の席に着く。この時の席の座り方にも性格が出るものだ。

 どう考えてもそこ佐々木部長の席だろ。ってところに神坂先輩。両隣に中山先輩と佐竹先輩が座り俺は一番隅っこの中山先輩の隣、その正面には正田が座る。

 「じゃあ始めるね。山田、進行役お願い。正田はホワイトボードお願い」

 

 さぁ作戦会議を始めようではないか。そんな大したものじゃないけど・・・・

 超、適当だし・・・

 

 

 









 

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