第12話 1つ進む
「葛城君」
おかしい、ここは俺の教室1年B組のはずだ。ならなぜ俺の名を呼ぶ声が聞こえる。友達いないのに。
「今日もよろしくね」
その声で思い出す。
「あぁ正田か。分かってる。夕方、ラノベ研に先輩たちと行くよ」
目の前にいる童顔の少年は正田という同じクラスの同級生だ。そうだ。
何を隠そうそのことを昨日まで知らなかった俺は部活同士での交流中はまだしもこうマンツーマンで話をすることに気が引ける。
「昨日はすまなかったな」
「ほんとだよ。まさか覚えてないなんて。僕ってそんなに影薄いかな?」
いや、濃いぞ。ボーボーだ。俺の姉貴の脇ぐらいボーボーだ。言ったら殺されるけどね。
「すまん。俺、基本的に休み時間は寝てたり教室にいないことが多いからさ。ちゃんと覚えたから」
そういうと少し嬉しそうな顔を見せながら正田が頷く。
「なんか2人仲いいね」
すると今度は本当に聞いたことのない声で声を掛けられる。思わず話しかけてきたと思ってたら別の奴に話しかけていたのに間違えて返事してしまったみたいなレベルでの声だったので思わず警戒してしまう。
「いや、声掛けただけでそんな怯えられるのは普通にショックなんですけど」
どうやら間違いでも除霊師でも無い様だ。
「いや・・・・さん」
「氷室だよ、氷室飛鳥。葛城君、同じクラスの女子のせめて苗字ぐらい覚えておきなさいよ」
「脳のメモリが8メガバイトなんだよ」
「あんたはプレステ2か」
なんで分かるんだよ。
「8メガバイト以上のもあるみたいだけどね」
自分でぼけておいてなんだがほとんど今どきのコンテンツのサイズから言えば誤差の範囲だと思うのだが。そもそも高すぎだろあれ。
「それは置いとくとしてあなたたち2人が一緒なんて珍しいわね。なにか不幸ごとあったの?」
ちょっと初対面で失礼じゃないですかね。初対面じゃないけど。
「実は葛城君の部にうちの部が依頼をしててさ。その相談を今日も放課後することになってるんだよ。それで部室まで一緒に行こうって話だよ」
代わりに正田が答えてくれる。
「ふーんそうなんだ。てか葛城君、部活入ったんだ」
「まだ仮入部だけどな」
「なんて部?」
「学救会部」
おかしな日本語になる。しかしそういわないとこれまたおかしくなる。誰だよこんな名前つけた奴は。
「えっ!葛城君、あの学救会に入ったの?」
氷室の驚き方に疑問と不安を覚える。何か問題でもあるのだろうか。正田は特に何も感じていなかったようだが。そう思って正田の顔を見ると苦笑いをしながら頬を指でかくような仕草をしている。
「何かあるのか・・・?」
聞いていいのか、聞いてしまったが最後、そんな気がしたが聞かずにはいられない。
「いや、問題があるとかじゃないんだけどさ。あんた見てなかったの?入学式の日にあった騒動」
「いや、記憶にないな」
あの日は特に何も無かったはずだ。特にというか何もなかった。式は粛々と進められたしクラス分けで同じ中学の奴と離れたが特に残念がられることも無かったし前の席の奴に連絡先を聞かれることも帰りにさっそく寄り道する友人ができることも無く・・・あっちょっと目頭が熱いぞ・・なんでだろう。
「まぁ先に帰ったなら知らなくて当然かな。正田君は残ってたよね?」
「うん、友達と話しをしてたから学校を出るのは遅かったよ」
正田よ。お前、リア充じゃん。
「あの日、行事が終わった後、部活の勧誘とかがさっそくあったんだけど」
おかしいな?部活の勧誘きたのつい最近だぞ。しかも飛び切り変なやつ。
「で、あの部の部長さんが各教室周っててうちのクラスにも来たんだけど」
そこから説明を氷室にバトンタッチする。
「『君たち!この学校に不満は無いかね?』って」
それはおかしいな。今、入学式終えた奴に何聞いてんだあの人。
「みんな、ポカーンってしてたんだけど、そしたら突然、教室の机を持ち上げて床に叩きつけたのよ。その後『もし、これを人に向けてしたいと思った時がきたら行動する前に私のところに来なさい!後、学救会に入部よろしく!』って言って去って行ったのよ」
あっそれで次の日俺の机がちょっと歪んでたんですね。初回プレイでベリーハードモード選んだのかと思っちゃいましたよ。謎は全て解けた!・・・ってそれのせいで結構、疑心暗鬼なってたんですけど・・・。
「だから気を付けた方がいいよ。2人とも、特に部員の葛城君なんて好奇の目で見られるかもしれないし」
うん、心配ありがとう。てかすでにあなたに好奇の目で見られてます。
「僕もそれ見てたから先輩から学救会の人が来るって聞いてビクビクしてたんだけど話してみたらみんないい人たちだったよ」
「そうなんだ。正田君がそう言うなら大丈夫なのかな?」
正田の信頼度、高くね?俺なんてほんとに食べてないのに冷蔵庫の姉貴のアイス勝手に食べたことにされて自分の小遣いで買いに行かされたぐらい信頼されてないのに。
「そろそろホームルーム始まるから席に戻るね!」
そう言って氷室は自分の席に戻って行った。
「あんまり気にしない方がいいと思うよ。僕も昨日、話してみてむしろあれは夢だったんじゃないかなって思ってるぐらいだし」
「あぁ、とりあえず放課後よろしくな」
「うん!」
前の扉が開くと同時にチャイムが鳴り、また1日が始まった。それと同時に俺の意識も消え・・・痛っ!なんかチョーク飛んできたよ。
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