第8話 考え中

 湯船に浸かると頭の中で今日のことが走馬灯のように流れる。どうも俺にとっての風呂はセーブポイントらしい。

 いい湯だなぁと年寄りみたいなことを思いながら今日のことを振り返る。

 とりあえず俺が仮入部したというかさせられた部は簡単に言えば困ったことのお助け部。そして今回のお願いはラノベ研の地位向上と部への昇格。このノルマをこなしていくことで学校の迷える生徒を救う会、略して学救会が部への昇格するというますますゲームみたいな展開だなと思いつつならこの振り返りはさしずめ『ここまでの振り返り』ってところか。

 しかし俺には自分の同好会も部に昇格させられない学救会が他の部を助けられるのかいまいちピンと来ない。

 その作戦にしても行き当たりばったりで何も思いついておらずこうして「明日から頑張る」になってしまっているわけであり、不安しかないな。そう思う誠一郎だった。

 「いつまで入ってるの?ごはん出来てるわよ」

 母の声にボーっとしていた意識が戻ってくる。いかんいかん、ただでさえ熱い風呂に浸かりながらなのに普段考えないようなことを考えたら頭がオーバーヒートしてしまう。

 そろそろ出るか。風呂を出て体を乾かすと炊き立てのご飯とおかずの香りが空きっ腹に響く。

 最近は姉も大学生ということもあり家族揃って食事をするのは久しぶりだ。

 「あんた、部活入ったんだって?」

 母がいきなりぶっこんでくる。

 「太一君か・・・」

 正確には太一君の母だが同じことだ。

 「まだ仮入部だけどね」

 「へぇあんたがね。どんな心境だったのか知らないけど続けなさいよ」

 「お母さんまだこいつ仮入部だから期待しない方がいいわよ」

 姉が横やりを入れてくる。

 「うるせぇ、姉貴こそ勉強ちゃんとやってるのかよ。大学生になってチャラチャラしちゃってさ」

 「してるわよ。あんたと一緒にしないで」

 「二人とも喧嘩はやめなさい。まぁ誠一郎、どんな部活にせよやってみるのはいいことだ。幸い昔からあの高校は部活の種類も多い。お前に合う部活も見つかるだろう。せっかくだから帰宅部だけはやめておきなさい」

 父に諭され俺と姉貴は喧嘩を止め黙々と食事をする。

 「お父さんだけじゃなくて2人とも同じ高校とはね。頑張りなさいよ誠一郎。お姉ちゃんは生徒会とかまでやってたんだから」

 実は俺の通う星風高校は父と姉の母校でもある。残念ながら母は元は西の人間な為、1人違うのだがうちの家系はどうもこの高校に縁があるらしい。

 「あんたに合う部活なんてあるのかしら?運よく高校には入れたけど」

 なんかやけに突っかかるな。これだから姉という人種は困る。弟か妹が良かったな。兄は太一君で十分だ。

 食事を終え自室に戻る。ノートと教科書を広げて勉強というわけでもなくただ広がった数字と記号の羅列を眺めながら考える。

 解決手段ではない。学救会のこと、先輩達のこと、俺が入るべき部のこと。大した悩みでは無いのかもしれない。それでも今日だけは考えてみたくなった。このルートのエンディングはどちらに転ぶのか。

 中山先輩が別れ際に言ったことを思い出す。

 『多分、私がここにいるのは弱い人って思われるかもだけど居場所を求めてたんだと思う。けどそれ以上に道子が好きだと思ったからだと思うわ。葛城君もそういう何かをこの部で見つかるいいわね』

 嫌いではないよな・・・少なくとも3人とも。

 明日は数学の小テストだ。気分転換に勉強するか!と普段の自分なら気でも狂ったのか、119番が必要だと思うようなことを口に出し教科書のページをめくるのだった。











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