第7話 ガタンゴトン
先輩2人と別れ中山先輩と2人きりとなる。さっきまでは普通に話していたのに2人になった途端、緊張でちょっと声が上擦る。
電車が来るまで待合室で2人待つ。ベンチに横並びに座るのはドキドキする。
「葛城君もいきなり大変なお願いの時に入部しちゃったね」
最初に部室で会った時は大人しい人なのかと思っていたが意外と先輩は話しかけてくる。それは元々、話すことが好きというのもあるのだろうが俺に気を使ってくれていることも何となく感じ取ることができた。
「まだ仮入部ですけどね」
「そうだったねー。でも・・・葛城君が入ってくれると嬉しいな」
その言葉にちょっとドキっとさせられる。ぼんやりと見とれていると「どうしたの?」というような顔で覗き込んでくる。
「いや、それより先輩はどうしてこの部に入ろうと思ったんですか?この学校、部活は他にも色々あるのに」
「だよねー、そう思うよね!」
否定から入るかと思っていたのであれっ?と不思議に思う。
「実は私もまったく入る気無くてさ。最初は違うところ見学行ったりしてたんだよね。そもそも新規立ち上げだから存在すらその段階ではしてないしね」
確かに3人とも2年生で部長が神坂先輩ということは間違いなく存在していない部だ。だが何となくだが佐竹先輩は神坂先輩と付き合いが長そうな気がするが中山先輩はそうは見えない。
「元々、私は本とか読むのが好きだったからそれ系の部に入ろうかと思ってたの。それこそさっきの依頼者たちみたいな。で、いくつか見て回ってたんだけど数が多くて決め切らなくて、もうどれでもいいやって思ってたんだけどね」
気持ちはちょっと分かる。俺も特に何かをしたい訳でもない。甲子園やインターハイを目指す!なんて目標がある訳でも無ければ写真部のようにカメラが好きとか美術部のように絵を描きたいとかそういったものが一切ない。ただ存在しているだけ。勿論、こなせと言われればその役を演じるが崖っぷちでも無ければそれはしない。誰かの波に流されることもしない。ただ池に漂うボウフラみたいな存在だ。決してこれは中山先輩を指しているのではなく俺自身の話だ。
「それでね。結局、入部届の最終受付の日まで悩んで、もうあみだくじで決めちゃえ!って放課後1人であみだを作ってたの。笑えるでしょ?」
創造するとちょっと笑いそうになるが可愛らしくもある。俺がやったら気持ち悪いが・・・。
「そしたら突然後ろから『それ!間違ってるわよ!』って声を掛けられたの道子に」
なんだかデジャヴを感じる。
「私の持ってたあみだを取り上げて書き換えたのそしてこれでやってみなさいって。ちゃんとゴールは隠してあったんだけど薄い紙だったから見えたのよ」
なにがだろう・・・いや分かってる。
「全部『学救会』になってたの。笑えるでしょ」
笑えます。全部見えてた辺り、あの人やっぱり天然だな。
「ちょうど私、クラスでも中々友達出来なくていじめられてたとか無いんだけど、寂しさを感じてたんだけどそれがいっきに吹き飛んで思わず入部するって言っちゃったの。道子は何も考えずに誘ったのかもだけど私はあれで居場所が見つかった感じがしてさ。入ったら入ったで佐竹君とも友達になれてだから葛城君をどんな意図で誘ったかは分からないけど私たちを好きになって欲しいな。入部とか関係なしに」
「ありがとうございます」
「なんでお礼(笑)」
「いや、何となく、、、」
主人公ならここで先輩ルートへの選択肢を選ぶのだろうが残念ながらバグまみれのこのゲームからは消失していた。実に残念だ。
「佐竹君は道子とは幼馴染らしいよ。昔からの腐れ縁って言ってたけど面倒見いいよね佐竹君。道子のこと好きなのかな?」
はにかみながら問いかける中山先輩に「い、いやーどうなんでしょうね?」の選択肢しかでない辺りが情けない。
電車での時間はあっという間で「また明日ね」というリア充っぽい言葉を交わし降りていく先輩を見送った後すぐに自分の番が来た。
家に帰ると大学生の姉がテレビを観ながらスマホを弄っており台所から早く風呂に入るよう促す母の声が聞こえてくる。それにただいまのあいさつと返事とを返した後、ひとまず自室に戻る。
「また明日か・・・・」
父が帰宅する音と共に母の催促が聞こえてくる。
とりあえず風呂に入るの選択肢を選ぼう。これだけは自信をもって選ぶことが出来た。選ばなければ母のカミナリというバッドエンドが待っている。
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