第6話 ティータイム
「で、自信満々だったけど、どんな作戦があるの?」
「無いわよ」
「「「えっ・・・・!?」」」
3人の声がハモる。
この人何も考えずに宣言しちゃってたの?
「お前、あれハッタリか?」
「今から考えるのよ。でもすごいことにしかならない訳無いんだからいいでしょ。だから嘘はついて無いわよ」
悪い方向へすごいことになりそうだがいいのだろうか。
そう思いながら2人の先輩の顔色を伺うとどうやら同じことを考えているようだ。しかし誠一郎と少し違うのは達観したような納得したような顔をすぐに見せたことだ。どうやらこれが平常運転らしいな神坂先輩は。
「とりあえず俺たちができることをやってみよう。すまんが葛城も仮入部とはいえ手伝ってもらうぞ。勿論、フォローや基本的なことは俺たちでやるから安心しろ。
2人がいることで少し安心した誠一郎は頷く。その横で武者震いなのかおしっこ洩れそうなのかプルプル震えている神坂先輩が何かを紙に書いている。
「何してんすか。先輩」
覗き込むとマジックで大きな模造紙に『ラノベ研知名度向上&部昇格作戦本部』と書き込んでいた。この人、字汚ねぇな・・・
「そんな道子ったら刑事ドラマじゃあるまいし・・・」
「確かに恥ずかしいし嫌がるだろ向こうも」
2人に否定された神坂先輩はこちらに味方をするよう睨み付けてくる。
「まぁそれで先輩のやる気が出ていいアイデアが出るならいいんじゃないですか?飾るのは教室内ってことで了承をあの人達からも貰って」
少し不満げだがこれで許して貰おう。本当なら俺も2人の側なのだから。
「とりあえず今日は帰るか・・・時間も時間だし」
気が付けば窓の外は日が沈んでおりグランドでは照明を頼りに青春活動に勤しむ運動部が動き回っていたもののちらほらと片づけを始める塊も見えており時間切れとも言えるころあいだった。
「明日はみんな何も無いよな?無ければ作戦会議するから放課後ここに集合な。葛城も大丈夫か?」
もうこの部、佐竹先輩の部でいいんじゃないかな?
そのぐらい佐竹先輩はスムーズに物事を決め神坂先輩は相変わらず1人ブツブツさっき自分で書いた張り紙を眺めていた。
「あぁ言う子だけど仲良くしてあげてね。優しい子だから」
中山先輩はお母さんなのだろうか。そもそもこの2人は何故この人と部を、しかもこんなへんてこな部を立ち上げようと考えたのだろうか。今度、2人に聞いてみよう。そう考えながら荷物をもまとめる。っと言ってもたいして無いこともありすぐに終わり帰る準備が出来上がる。先輩達3人も片づけが済んだようで全員で教室を後にする。
「部室のカギ、返してくるから先に玄関行っておいてよ」
佐竹先輩が走りながら職員室へ向かうのを見送った後、3人で昇降口を目指す。
「そう言えば道子から聞いたんだけど葛城君って桜井先生と仲いいの?」
「えぇ仲がいいと言うよりか近所のお兄さんって感じで昔から親とかも知ってて・・・」
「そうなんだ。桜井先生、彼女とかいるのかな?」
「中山は桜井が好きだからな!」
神坂先輩が太一君を呼び捨てにする。
「そうなんですか?」
「いやっ好きっていうかほらこの学校、若い男性の先生いないから結構女子の間で人気なんだよ。私も優しくいい先生だなーって思ってて、それだけだよ」
中山先輩の言うように男性の先生は比較的多いのだが皆、定年間際か若くてもすでに結婚している先生が多い。独身で若いとなると太一君以外いない気がする。
「た・・・桜井先生、今はいないはずですよ。多分、いたら俺の親が夕飯の時にペラペラ喋ってるでしょうし。今までがそうでしたから」
うちの母と太一君の母親はとても仲が良く、俺や親父をほっておいて2人で旅行に年に数度行くほどだ。なので昔から太一君は俺のことを俺は太一君のことを直接話さなくてもよく知っていた。悲しいことに情報量にかなりの差があったが、いや今もある。
「そういえば2人はどういう繋がりなんですか?」
「私たち?私はねーー「それより誠一郎君!どうだったかな?部活動、初日の感想は!」
話を遮るように神坂先輩が割り込んでくる。
「どうと言われましても、まだ何も進んでないですし。いきなりハードルの高い問題がやってきた訳ですし」
「確かにそうだよねー。道子が安請け合いするから佐竹君可哀そう」
「なにを言う!哲夫は私に使われて幸せを感じるどМだぞ」
そうなんだ。あの人どМなんだ。そりゃそうだよなこんな部に入る奴はみんなどМだよな、と思いかけて俺もそうなのか?と思ってしまい1人肩を落とす。
「どうした。そんなに不安か?あまり悩むと禿げるぞ」
「そういえば佐竹君、前髪を気にしてたなぁ」
やめて!今からそんな心配しないといけないの?
そうこうしているうちに佐竹先輩が合流する。
「何話してたの?」
「哲夫の頭皮の話だ!」
「なんだそれ・・・まぁいい。今回のお願いを引き受けたのは神坂だからな。それなりのものに纏めないと俺らの部も廃部一直線だぞ。ということで今日はお疲れ様!」
「お疲れ様でした。先輩方」
「俺と神坂は歩きだけど。葛城は?」
「俺は電車なんで駅に向かいます」
「じゃあ私と一緒だね。最寄り駅どこ?」
駅名を告げると中山先輩は驚きながら
「私の降りる駅の次じゃん!方向同じだったんだね。今までも電車で会ってたかもね」
中山先輩の言う通り俺の降りる駅は中山先輩の最寄り駅から歩いても5分ほどの距離だ。
なんでこんな近い距離に駅が並んでいるのかというとはっきりとは分からないのだが、噂によるとこの鉄道のお偉いさんが近所に住んでいてそれが俺の利用する駅らしく少しでも近くに駅が欲しかったというコンビニ感覚で作ってしまったという話があるが真相は不明だ。
「そんなに近いならこれから毎日、一緒に帰れるね」
「中山は年下派だったのか?それとも桜井先生を落とすにはまずは葛城からってことか?」
「またそういうこと言う。こんな奴ほっておいて帰りましょ葛城君」
すねたふりをする中山先輩の横顔は可愛い人だなと思わせる。そんな気持ちを悟られないように軽く同意の返事をする。
「冗談だよ。すまんすまん。じゃぁ明日放課後よろしくな」
悪びれる様子も無く言うが嫌味は無い。
「先輩達は近いんですか?」
「私と哲夫は駅の反対側だ。だから駅までは送ろう」
誠一郎達が通う高校はよく言えばそれなりの進学校、悪く言えばそこそこの高校ということもあり受験のしやすさや校風から意外と遠くから通う者もいる。と言っても1時間圏内の者がほとんどである。実際、誠一郎も駅までは10分、電車に乗っている時間は10分ほどだ。そこから家まで10分と歩きの時間の方が長い。2人の先輩は駅の反対側ということだがそちらは比較的新し目の住宅地が並んでおりきっと2人もそのどこかなのだろう。
駅までは今回の相談とは関係なく先輩のクラスの話や俺のクラスでの立ち位置などを話しながら帰った。と言っても俺のクラスでの立ち位置などは『孤高の男』という中二病前回の恥ずかしいあだ名を付けられで終わったのだがボッチを解消しようと言う気持ちよりその恥ずかしいあだ名解消の手段を必死で考えている辺り俺はボッチを抜け出せないのかもしれない。
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