第5話 行き止まり

 「今、来ている案件で一番最初にこなさないといけないのはこれかな」

 そう言って佐竹先輩が自分の持っていたタブレット画面を誠一郎に見せてくる。

 そこにはこう書かれていた。

 「我々、ライトノベル研究会の地位向上を手助け願いたい」

 これだけなのか?もっと部員を増やしたいとか助っ人で試合に出て欲しいとかそんなのを期待していたのだが拍子抜けと同時にいったいこれをどうやって解決するのか想像もつかず先輩達の顔を見る。

 「フゥーハハハ困っているようだな。だがこの神坂様にかかればちょろいものだ。なぁ佐竹!」

 「いやこれ詳しく聞かないとさっぱり分からないし」

 あっさりと返されしょぼんとした顔を見せる神坂先輩は少し可愛いと思わせた。

 「確かに佐竹君の言う通り詳しく聞いてみましょう。とりあえず行ってみましょうか。部室の場所は確認してあるから」

 手際のいい中山先輩に先導されながらラノベ研究会の部室を目指す。

 基本的に部室はD棟とE棟に集中しておりD棟は主に運動部が使用している。その為、グランド近くに少し離れて建てられており体育館や水泳部が使うプールなどもD棟を囲むように建てられている。そのせいか普段の授業で体育館などを使う際も教室のある棟から離れている為、不便ではあるが何かしら部活に入ることが普通のこの学校でそれを疑問に思うのは誠一郎のような人間や文化部の一部の人間だけである。そして今先ほど出発した世界を救う部か学校を破壊する会だか分からない謎の部を含めた文化部の部室が集中しているのがこのE棟である。しかしこの学校は部や同好会の数が非常に多い為、同好会のような発足まもなかったり廃部寸前の部は普段の教室のあるAからC棟の空き教室に適当に割り振られる。

 そう気が付いただろうか。誠一郎の仮入部したこの同好会は同好会なのである。しかも歴史があるとも思えない。その疑問を頭に残しながら今はA棟3階のラノベ研究会を目指す。

 


 「ここみたいですね」

 たどり着いたのは普段は用具室として使われている部屋の一部を間借りする形となっているようででルーズリーフにマジックで『ライトノベル研究会』と書かれていた。

 「おじゃまします」

 中山先輩を先頭に中に入るときれいに片づけられた用具の横に小さな本棚が二つほど置かれておりそこにぎっしりと本が詰まっていた。

 「君たちもしかして学救会の人?」

 がっきゅうかい・・・?

 「そうだ。いかにも我々が学校の迷える生徒を救う会の者だ」

 そんな名前だったんだ俺の入った部活。仮入部届けをよく読まずにサインしたことをちょっぴり後悔しつつなぜこうもこの女性はこんな恥ずかしい名前の部を創設したのだろうと疑問に思う。

 「考えるな。感じるのよ」

 あっこの人、まともだと思ったのは気のせいだった。

 まとも枠の中山先輩が消えついに正気は俺だけかと悲しむ。

 「ちょっと待ってて奥の二人も読んでくるよ」

 そう言って中にいた生徒が用具入れの影に消える。

 数秒して三人になって現れる。

 「よろしくお願いします」

 三人ともおとなしそうないたって普通の学生だ。三人とも二年生のようだ。

 「僕は佐々木、こっちの眼鏡をかけているのが木田。髪が長いのが山田」

 なんの変哲もないと言えば失礼になるが第一印象はそんな感じだ。あまり人のことは言えないが・・・

 「俺は佐竹でこっちが部長の神坂と中山。後ろにいるのが仮入部の葛城君。で、メールの内容だけど具体的に聞いてもいいかな?」

 佐々木が話始める。

 「知ってると思うけどこの学校、部活数が多いだろ?そうすると重複するような部も結構あるんだよ」

 確かに佐々木先輩の言う通りこの学校は簡単に部を作れることもありどう考えても同じとしか思えない部も複数ある。例えば映画部と映像研究会だ。知らない人からすればどちらも同じように聞こえるが当の本人たちは細かなこだわりがあるらしく別々の活動をしている。もっともこの二つはある程度違った視点での活動を行っている分マシなようで中には喧嘩別れから中身が変わらないのに名前だけが違うような部が多々存在している。それだけ部があれば顧問が足らない気もするがそういったところは『生徒の自主性を重んじる』という名目のもと幽霊部員ならぬ幽霊顧問が掛け持ちをしまくるという状況が部の数の増加に拍車をかけている。

 さすがにここ数年はあまりに増えすぎではとの意見も出ており年に一度か二度、部活動成果の提出と報告が義務となったことで落ち着きつつはあるようだ。

 「僕たちも元は青年小説研究会ってところに所属してたんだけど」

 違いが分からんぞ。

 「僕らは緩くラノベを楽しみ共有したいって考えで入ったんだけどそこは結構ラノベに対して真剣でさ。批評とかこれからのラノベ界についてとか。最初はそれも楽しかったんだけど段々、部内で派閥ができて争うようになってしまって結局空中分解。色んな部に散らばっていったって訳」

 木田が話を引き継ぐ。

 「それでこの佐々木が部長ってことで俺たち3人とあともう1人、最近1年生が入ったんだけど4人で部を盛り上げるべく頑張っているんだけど」

 どうやら元々の部でも大人しかった3人に新加入した部員も気弱な為、他の分裂した部よりアピールに劣り5人揃わないようであればその分裂したどこかの部と合併という名の吸収されるのがいいのではというのが部活動を管理する生徒会の言い分だという。しかし馬が合わないからこそ分裂した訳でしかも合併先として生徒会が提案してきたのは今の青年小説研究会の部長と揉めに揉めた男がトップを務める部だという。

 「他に合併先は無かったのかい?」

 「ぶっちゃけ分裂したここ以外は結局うまくいかずに解散かもしくは出戻りがほとんどで人数が集まって残ったのはBL小説研究部だけなんだ」

 「中々興味深い部活ですね」

 中山先輩が興味を示す。

 あなたそっち側でしたか・・・

 「話は大体分かった。できる限りのことはしてみるよ。なぁ部長」

 「ん・あぁ任せろ。今日の晩御飯はハンバーグだ」

 「寝てたな。道子」

 佐竹先輩に小突かれた神坂先輩は大げさに痛がるふりをしながら言い訳する。

 「聞いていたぞ!要はこの部を存続させればいいってことだろう!我が部と目的は同じと考えればすることは一つ!部員を増やすこと!この私に任しておけ!!」

 どうやら何か策があるようだ。自信ありげな先輩に少し安心する。どうやら俺は今回は見学だけで済みそうだ。仮入部の身だし当然か。

 「ひとまず持ち帰って作戦を練ってきてもいいかな?次はいつ時間とれる?」

 「じゃあ来週の今日ぐらいの時間でどうだろう?その日なら今日用事で休んでいる正田も来られるだろうし」

 「わかった。じゃあそうしよう。今日はこの辺で」

 そう言って俺たちはラノベ研を後にした。

 


 

 

 

 


 

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