第1話 この辺で終わり?
教室の窓際の一番後ろという小説の主人公らしい席、ではなく前でもなく一番後ろでもなく真ん中でもないやや窓よりという全てが中途半端なベストポジションが葛城誠一郎の席だった。
「早く帰ってゲームの続きがしたい」
ぼそりとつぶやく
残念ながらまだ始業のチャイムも鳴っていない朝だ。
周りでは仲のいい友人同士が昨日観たテレビや流行の話をしている。そんなボリュームのつまみをいじることのできない音を聞きながら机に体を預けている情けない男から発せられた音だった。
入学式の日、これといってミスを犯した訳でもない。最初の挨拶も少し滑ったとは言え及第点だったはずだ。にもかかわらずこうして誰かと会話を楽しむでもなくボッチを満喫している。一体どこでルート選択を間違えてのだろうか。残念なことにゴールデンウイークも過ぎた6月になっても答えは迷宮入りだった。ここにもし薬で小さくなった眼鏡の少年やじっちゃんの名に懸けてくれる高校生がいてくれたなら解決もしたのだろうか。もしくは不可能犯罪の死体役として校庭に転がっていたのだろうか。どちらにせよこれは自分では手に負えないだろう。
まぁいいさ時間はまだある。いや無いかもしれない。今は6月、もう少しで夏休みだ。本来の予定ではリア充の夏を過ごす計画だったのだがどうやらこの計画は白紙に戻っていたらしい。おそらくこのままいくと夏休み明けにはねこまっしぐらならぬ保健室コースまっしぐらになってしまう。ボッチであることを恥はしない。虐められているわけでもないため苦痛でもない。ただこの高校生という世の中ではお金を払ってでも手に入れたいというブランドを生かさず終わることは損なのではないか。どうせなら得したいという至極まっとうに欲深いのである。
しかしここまでですでに気が付いただろう。
『会話がない』
悲しいことにイベントもルート選択も起こりえない高校生活。それが葛城誠一郎だった。
こんな話をだらだらとしても仕方がないと時間は夕方、最後の授業が終わり帰ろうと廊下を歩いていると急に目の前に誰かが飛び出してきて誠一郎のカバンにぶつかった。
「ごめんなさい」
「こっちこそ」
お互いぼそぼそと言葉を交わし相手の女子生徒は去っていく。
シャンプーの香りだろうかいい匂いだなと思っていると後ろから声を掛けられる。
「誠一郎、部活の届け明後日までだよ」
声の主は葛城のクラスを受け持つ桜井太一という数学の教師だ。
この桜井という男、顔も良く性格もいいようで生徒から人気があるのだが困ったことに誠一郎とは家が近く昔からよく知っている。
母もこの高校に進学が決まった時は彼がいるということで大いに安心していたが残念なことに息子はボッチだ。
「分かってるよ太一君。でも決められないんだよ」
この高校は生徒は全員、どこかの部活に所属しなければならず誠一郎は今まで騙し騙しかわして来たのだがどうやらタイムリミットらしい。
「ここでは桜井先生だろ?お前、ずっとそれ言ってるぞ。なんでもいいんだぞほんとに」
「自分だって下の名前で俺のこと呼んでるじゃん」
「先生はいいんだよ。それよりちゃんと届け出せよ。職員会議だから俺はもう行くけど」
「わかったから行って怒鳴られて来い」
しっしと追い払うようなしぐさをしながら彼に背を向け帰ろうとすると今度は違う声に呼び止められる。
「あなたまだ部活決まってないの?」
別の教師だと思い振り返りながら答える。
「明後日には決めますよ。」
するとそこには学生服を着た女子生徒が立っていた。
「どちら様ですか?」
「私?そんなことはいいから部活まだなのよね?」
「そうだけど。それが何か?」
見ず知らずの女子生徒に話しかけられる。これはリア充っぽいと見せかけてカツアゲパターンを警戒する。
「実は私、入りたい部が無かったから作ったんだけど。部と言っても正確にはまだ同好会(仮)だけどその(仮)をとるためには5人集めないといけないの」
「そうですか。まぁ頑張って下さい。」
そのまま帰ろうとするとカバンを思いっきり引っ張られて後ろにコケそうになる。
「何をするんですか」
「話は最後まで聞きなさいって習わなかった?あなた私の為に同好会メンバーに参加しなさい!!」
なんだこれ、夢なのかボッチ生活がいきなり女子生徒に話しかけられて、しかもちょっと可愛いしリボンの色を見た感じ同級生だな。しかも同好会に参加しろってなんだか漫画や小説みたいだ。
起こりえないであろうイベントに心臓の音が早くなるのが聞こえる。
「参加するでしょ?」
これはもう選択肢は見えている。頭の中にシミュレーションゲームのコマンド選択が浮かび上がる。
「ねぇ!!答えなさいよ!」
勢いよくAボタンを押す!!
「すみません。お断りします」
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