第2話 分岐
「勢いで選択ミスをしてしまったような・・・」
家に帰り風呂につかりながら今日あった不思議なルート、そして自分の情けなさを反省する。
顔を湯舟につけブクブクと泡を立てる。
不思議な体験だった。まるで自分がゲームの中にいるような。まだ始まったばかりの人生だがあれがピークの予感がしてならないほどに。
そう考えるとこのルート選択ミスはバットエンド直行便ではないだろうか。
考えれば考えるほどモヤモヤは大きくなっていきこの狭い風呂場を占拠し始める。息が詰まる。風呂から出て鏡を見つめる。
どうしようもないくらい普通の高校生が素っ裸で立っている。
「うわっ!きもっ!」
声に驚き振り返るとそこには扉を少し開けて覗く姉がいた。
「弟の裸を盗み見している姉よりはましだと思うぞ」
「誰もみてねーし」
そう言って顔面にバスタオルを投げつけて去っていく。
そういえばタオルが見当たらなかった。優しいところもあるのだが残念なことに口が悪い。
俺にだけ・・・・。
どこでルートを間違えた。
本当なら可愛くブラコンな姉が自分にはいたはずなのに。
ルートを間違えたなら仕方がない。隠しルートを探すとしよう。
脳内を腐らせながら部屋に戻ると本来の電話機能をほぼ持ち主によって殺されたスマホが音をたてている。
「こんな時間に誰だ?」
と言っても俺の電話番号を知っている人間なんて知れている。家族か太一君ぐらいだ。つまり太一君一択。
迷惑電話すら拒否するこの電話番号。画面を確認することなく電話に出る。
「ヤッホー元気?ごはんちゃんと食べたー?」
電源を切る。
再度、音が鳴り響くが今度はちゃんと画面を確認する。知らない番号だ。
間違い電話に違いがない。そう思い放置するがしつこい。便器にこびり付いた尿汚れ並みにしつこい。
仕方がないので電話に出る。
「酷いなーそんなに怖がらなくていいよせーちゃん」
誠一郎の名前を知っているということは一応、間違いでは無い様だ。しかし馴れ馴れしい声だ。
「どちら様ですか?番号、間違えてませんか?」
「いやいや、間違いなく葛城誠一郎君の番号に掛けてるよ」
「どちら様ですか?」
「嫌だなー。今日、私の告白を振っておいてそれは酷いんじゃないかな」
何を言っているんだこの声の主は。振るも何もそんなイベントはこの人生において一度も発生したことは無いぞ。
「私だよ。ほら帰り際、あなたに振られた」
あっ・・・思わず声が漏れる。
「思い出してくれたみたいだね。お姉さん嬉しいよ」
「思い出しました。それはさておき何故この番号を知っているのですか」
「私の情報網を舐めないで欲しいな。こんなもの職員室に行ってたこ焼きを献上すればいちころさ」
そうか太一君か。俺の個人情報はたこ焼きと等価交換らしい。
「まぁ先生を責めないであげてよ。そもそも君、友達いなさ過ぎでしょ。誰に聞いても知らないって言われてクタクタだよ全く。責任取ってよね」
最後だけ聞くとなんだかラブコメっぽいが残念ながら微塵も感じられない。
「それはそうと何で俺の携帯番号なんか調べたんですか。そもそもこの電話何なんですか」
「何って同好会への勧誘だけど」
あれ?フラグ回収失敗したはずなんだけどな・・・
「それは断ったじゃないですか」
「いや、今頃綺麗なお姉さんの誘いを断ったことに紋々としているころじゃないかなと。そしてその迷える時間に再度の問いかけ!これはもう運命だ!入るしかない作戦の実行中でして」
「作戦駄々洩れですけど・・・」
「あっ・・・聞かなかったことにしようか?」
「やぁ誠一郎君!私の同好会に参加しないかい?」
いや、仕切り直しをこの状況で進める度胸に感心するよ。
「そもそも何の同好会なんですか。それすら聞かずに参加はできませんよ」
「おや?興味が湧いてきたかな?そういうことなら特別に話してあげよう」
「いや、別にいいですけど。切りますよ」
すると今までの余裕な話し方と打って変わって本気で止めにかかってくる。
「ちょっと待って。ほんの5分でいいから話を聞いて!それから判断しても遅くはないでしょ?何なら今なら私の生写真つけちゃうよ」
「・・・」
「今ちょっと考えたでしょ」
よく気が付いたな。この人。
「分かりました。聞くだけですからね」
この強引な勧誘を断れなかった心の弱い青年は可哀そうな女性の話を聞いてあげることにした。決して写真につられたわけではないことを念押ししておく。
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