第33話
最終的に、ビークスパイダーの糸は三メートルを七十四本手に入れた。これなら外套に縫いつけることができそうだ。それに、赤い満月(レッドフルムーン)と言う状態異常。何かあるかもしれない。
その場で全員で話し合い、ファルムットに戻ってこの異常を報告することになった。旅は急ぐものでもないし、それもいいだろう。
とって返して夕方くらいにファルムットにつくと、なぜか大勢の騎士と冒険者に出迎えられ、その中にはヤイガニーさんやガンジュールさんも見受けられた。
「無事か!?」
ガンジュールさんは俺たちの姿を見止めると慌てた様子で駆け寄ってくる。
「あぁ、ガンジュールさん、途中で赤い満月状態の魔物の群れに遭遇したのでその報告に戻ってきました」
俺が代表して報告すると、ガンジュールさんは解っていると言うように何度も頷き、お俺たちの様子を具に観察してくる。
「ウルファングとレッドウルフ、それからクラブバード、マルディン、ビークスパイダーに遭遇しましたが討伐しておきました。・・・・・・こぼれたのがこっちに来たと思うのですが、大丈夫でしたか?」
「あぁ、それで・・・・・・。こぼれた奴らはこちらで処理をした。被害もない」
俺が聞くとガンジュールさんは持っていた疑問が晴れたような声音で返してくれた。
「赤い満月と言うのは毎年この時期に大陸のどこか一カ所で起きる現象でな、三日続く。人の多いところへ向かってきて、一日目はこの地に生息している魔物、二日目はもっと広範囲に渡る魔物が押し寄せてくるのだ。三日目はその中でも足の遅い個体がやってくる」
三日後までか。俺がその説明を聞いた後に振り返ると、後ろで聞いていた五人は無言で頷いた。
「わかりました。赤い満月が終息するまで、微力ながら助力しましょう」
「本当か!?」
「えぇ。今までだいぶお世話になりましたしね。恩返しという事で」
言った後もう一度確認のために振り返ると、五人は大きく頷いていた。
「第二陣!来たぞ!」
誰かが城壁の上から叫ぶ。俺達は各々殺傷力の高い武器を取り出し、方々へ散る。そう言えば、ここは東だから他の門の方はどうなっているのだろう?
それは後でガンジュールさんに聞けばいいかと頭を切り換え、どこで合流したのかマルディンとレッドウルフの混ざった群へ美咲と一緒に突っ込んでいった。
先頭を走るマルディンの首をすれ違いざまに魔力を込めた剣で斬り飛ばし、その後ろに着いてきていたレッドウルフを勢いの侭に蹴り上げる。そこでマルディン達の足並みが乱れたので、すかさずに蹴り上げた足を戻して軸足にして踏み込み、裏廻し蹴りで手近のマルディンをその後方に向かって蹴り飛ばす。何体も巻き込んで倒れたそれは起き上がる様子もない。
一番槍を俺に取られた美咲はすでに後方へ間合いを詰めており勢いの乗ったマルディンの巨体を正面から棍で受け止め、あまつさえ頭蓋骨を砕きながら棍を振り抜いた。飛ばされるマルディンはレッドウルフを押しつぶして止まり、その頭を踏み抜いてから手近のマルディンの頭を鷲掴みにして片手で持ち上げ、遠心力でそのマルディンの首を折ながら魔物が固まっている所へ放り投げる。
俺が蹴り飛ばしたマルディンをひらりと避け、棍を仕舞ってから戦闘用の大型ナイフを取り出し、十二分以上の魔力を放出して切っ先に変え、たたらを踏んでいたレッドウルフに切りかかって鮮やかに首を両断する。返す刃で更に踏み込んでマルディンの首を斬り飛ばし、伸び上がった体をそのまま回転させてバク宙を決める。身体が在ったところへレッドウルフが噛みついていた。
そのレッドウルフを正面から捉えていた俺は閉じた鼻先へ拳をたたき込み、めり込んでしまったので近くのレッドウルフに目掛けて振り払う。それで二体のレッドウルフは動かなくなった。
蹴り飛ばしたマルディンに巻き込まれた魔物たちが起きあがり始めたのでそれらの首を刈り取りもういちど寝かす。
それが終わるか終わらないかのタイミングでレッドウルフが前脚で攻撃してきた。その腕を取り、捻りあげようとすると勢い余ってゴキゴキと関節の外れる音、骨の折れる音が響きそれ相応の手応えも感じる。悲鳴のような咆哮はそれが地面に叩きつけられると共に途切れる。
もっと力を抜いて早く動いても良さそうだと感じた俺は目を閉じ、周囲の状況を確認すると早さ重視で蹴りを放つ。
棒立ちだったマルディンは首に俺の足を受けて俺の足に不快な感触を残しながら吹き飛び周りを巻き込んで倒れた。これも起き上がる気配はない。その横で難を逃れ、倒れたマルディンを呆然と眺めているレッドウルフに切りかかって首を落とし、吹き出す血糊を避けるようにバックステップ。片足で地面に着くと勢いの侭に俺の後方へ蹴りを放った。
狙い違わずレッドウルフの頬を蹴り砕き、勢いの侭に再び跳んで奥のレッドウルフに上体を捻って下段へ拳をたたき込む。
頭蓋を砕いた感触を置き去りに剣を振ってマルディンの頭を切り払い、サイドステップで剣を固定したまま更に上体を捻って剣を巻き込み、振るう刀で一度に三体のマルディンを斬り伏せた。
美咲はその間に五体のマルディン、十体のレッドウルフを、首を落として倒している。
それでこの場に立っている魔物は居なくなった。それを確認した俺達は手早く魔物の死骸を回収し、あたりを見渡す。
城壁に上った者達は懸命に矢を射ってクラブバード、ボウイーグル、ビークコンドルの群を町に入れないようにしており、中でもミライちゃんが放つ矢が良く撃ち落としていた。底へ俺達は金属性で作られた魔法の矢や土属性で作られた石つぶてを放って加勢する。
その他にはイッカクさんが他の人たちと共にビークスパイダーを相手にし、ホルエスさんは他の人たちと共にウルファングを、マサツグ君はイルーンを相手取って善戦していた。
俺と美咲は上空の魔物をほぼ一掃した時点で休息に入った。ミライちゃんも一緒である。
俺たちの活躍で休息に入っていた人達の士気は鰻登りだった。二人でアレだけの魔物を相手取った記録はないとも言っていた。
ガンジュールさんはその事もあって俺達に手放しで感謝を述べてくれた。総指揮にあたり、怪我人が出ないことは嬉しいようだ。
赤い満月は満月と銘打っているくせに昼行性の魔物が良くかかるらしい。転じて、夜間は見張りと数人の警備が居れば対処でき、是非とも明日に備えて休んで欲しいと言われた。
その事を帰ってきた三人に伝え、家に戻る。
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