第三章
第32話
お世話になったところへ挨拶を済ませ、レインフェルト領ファルムットを出た。
向かうは東。ガンジュールさんに海は無いかと聞くと一番近い海は東にあるというのでそれに飛びついた形だ。イッカクさんは西から来たから大陸横断だなと笑っていた。
食料として野菜、果物、菌類、山菜は大量に確保してあるし獣肉、魚の確保も少々ある。肉はその場で取ればいいし、そこまで確保していないが、イッカクさんやホルエスさんが言うには十二分以上確保してあるから少々と銘打つには抵抗があるらしい。・・・・・・野菜などに比べれば全然確保していないから少々だ。
「ここいらに、魔物の群れが、出るのも珍しいな」
町から出て半日。コーンディッチの群生地より先に進んだところでウルファングの大所帯と遭遇していた。ウルファングを切り払いながら、緊張も何もない声で述べるのはイッカクさん。
「あっちでは、マルディンの群れが、西に向かって走ってるぞ」
「ないと思うけど、あのままファルムットに行かれたら、大変そうです」
「あ、じゃあ私、間引いてくるわ。マルディン、美味しいしねー」
「間引き過ぎるなよー。肉が近寄ってくるんだ。ファルムットも待ちかまえてるだろうからな。・・・・・・ん?ミライちゃん、南にクラブバードの群が北西に進んでいる。あれもファルムットが進路上にあるかもしれないから間引いてくれるか?マサツグ君も魔法で援護するといいだろう」
「「はい!」」
「んー?北の方にレッドウルフか。南西に移動中・・・・・・。これも狩っておいた方が良いな。・・・・・・イッカクさん!ちょっと北にレッドウルフ見つけたのでここは任せます!」
「おう!行ってこい!」
全く、なにがどうなってるんだ。魔獣の群が一纏めにファルムット目掛けて大行進するなんて。
向かった先のレッドウルフの群は思った以上に多かった。見た感じ、数十匹の群が統率の取れたような動きで西南西に一心に向かっている。
それなりの力を込めて水球を作り押し止めようと先頭に向けて放つも勢いは止まらない。
「物理的に押し止めるべきか。『ストーンウォール』」
まずはレッドウルフの進行方向、進行方向から向かって左右に『ストーンウォール』で壁を作り、最後に後方へもストーンウォールで蓋をする。これでファルムット行きは防いだ。・・・・・・まあ、何匹はこぼれたがそれぐらいは良いだろう。
処理はどうしようか。
取り敢えず鑑定してみると状態異常、赤い満月(レッドフルムーン)というモノに全ての個体が犯されている。
聞いた事がないな。まぁ、この世界特有の現象だろう。成獣しか居ないのが幸いだと思うことにして、水没させてストーンウォールで蓋をし、溺死させてから自在倉庫へ回収。帰る途中でビッグフットラットの群に遭遇したのでそれも処理しつつウルファングに遭遇した場所へ戻った。
「おう!お早いお帰りだな!手伝ってくれ!」
俺の姿を見止めると、イッカクさんは面倒くさそうな声音を若干滲ませつつ言ってきた。立っているウルファングは居ないものの、ビークスパイダーという蜘蛛の魔物がイッカクさんとホルエスさんを囲んで糸を吐いている。
糸はイッカクさんとホルエスさんに当たっていないものの徐々にイッカクさんとホルエスさんの行動範囲を狭めているのでそれを回収するか、加勢した方がいいだろう。ビークスパイダーの糸は軽く丈夫でしなやか。回収しない手はない。
「糸の回収と加勢、どっちがいいですか?」
「そりゃおめえ、回収に決まってら!ビークスパイダーそのものに脅威はない!」
言いながら、顔より一回り大きいビークスパイダーを切り伏せるイッカクさん。自分の実力と相手の実力、それから素材の価値を天秤に掛けて言っているのだろう。ホルエスさんも同意見だ。
素早く回収に回って二人の足場の確保に尽力し始める。いい素材が手に入ってウハウハだ。
「ただいまーって、気持ち悪っ!糸の回収に回りまーす」
マルディンの間引きに行った美咲が帰ってきた。ビークスパーダーの群れを見るなり体を震わせ、俺がやっている行動を見て取るとそちらへ加勢に入る。どんどん足場が増えていくと、イッカクさんとホルエスさんの討伐スピードが見る見る速くなっていった。
ビークスパイダーの討伐が終わり、糸の回収も済むと、あたりが濃い血の匂いに包まれていることに気づいた。多分、ビークスパイダーはこの匂いにつられてきたのだろう。
風魔法を使って上昇気流を発生させて匂いを上空へ飛ばしても、血がそこかしこに飛び散っているので効果は薄い事がわかった。
「水魔法で洗い流してからの方がいいんじゃない?」
美咲の提案にそれもそうかと思い、ウルファングの死骸を回収してから水魔法を使って血を押し流し、もう一度風魔法を使って血の匂いを上空へ飛ばす。聞くと、美咲もマルディンを間引いたところをそのままにしてきたとの事だったのでそちらに移動して同じ事をする。水で溺死させたのは正解だったな。
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