第9話

「そこの御二人方、少々宜しいでしょうか?」

 服屋に到着して服を見て回っていると、誰かに呼び止められた。二人してそちらを振り向くと気立ての良さそうな人が一人立っている。

 それを認めた美咲が動揺したように震えた。あちらには気付かれていない。

「何でしょうか?」

声からすると初老に差し掛かりそうな女性だ。美咲に害を無そうとしても返り討ちに逢うのが関の山で、どうして美咲が動揺したのか解らないが、美咲の前に一歩出て俺が応じる。

「私は此処の店の店主、マリーベルと申します。長年服飾を専門にしております」

「はぁ・・・・・・」

話が見えない。此処の店主に声をかけられた。それだけではただ単にそれだけだが、初めて此処を訪れた俺達に声をかける理由が見当たらない。

「率直に言いましょう。あなた方御二人に私の服のモデルになっていただきたいのですわ!」

ズドォン。と声が雷のようになって美咲に打ち据えられ、美咲は感電でもするかのように身震いした。

「えぇ、良いですよ。恥ずかしながら、私達は服の見る目がなくてですね。助かります」

対する俺はマリーベルさんの申し出に快く応じる。せっかく専門職の方からの申し出だ。有り難く見立てて貰おう。

 そう、この時は軽い気持ちだったのだ。この後の地獄のような数時間が待っているとも知らずに・・・・・・。



 服屋から出ると、陽は大分傾いていた。ボロボロになって打ち捨てられた雑巾の如くすっかり窶れた二人は、満面の笑みでホクホク顔のマリーベルさんに見送られる。

 店内にあったいくつもの服を目まぐるしく着せられ、息を付く間もなくその場で仕立てられた服を何着せられ、ほとほと疲れてしまった。その中でわかったのは、美咲は黒と黒い赤のツートンカラーの服を良く着せられ、俺は黒か白と暗い青のツートンカラーを良く着せられていた点だ。他はよくわからない。

仕立てられた服はタダで良いと言って押しつけてきたが、そんな訳にもいかないので最低限の金額を支払い、互いが互いの気に入った服を二割引で購入した。下着はしっかり確保した。

 黙って活気のある大通りを通っていき、どちらからとなくアモンドさんの木の実店で一息付くことになった。

「はっはっは!マリーベルも変わらんな!あいつは昔からああいう奴なんだよ!」

疲れ果てた俺達に理由を聞いたアモンドさんは俺達の答えに笑っていた。どうやら近い年代で知り合いだったらしい。

 知り合いが粗相をした詫びだとベリナナを十個、ナシリゴーを二個いただいてしまった。

「んー、ベリナナはチョコレートソースがほしくなるねー」

ベリナナを口に入れた美咲は俺と同じ事を言う。その事にアモンドさんは笑ってまるで夫婦か兄妹のようだと言ってくれた。

「よく言われますー」

と嬉しそうに応えたのは美咲だ。

 今日はもう遅いから雑貨屋は明日にすることにして、今日は枝豆、大麦、小麦、家畜の飼料として売られていた米と見知ったハーブ、見知らぬハーブ、塩を購入して宿に戻った。

「いやぁ、こっちに来た初日から色々あったねー」

部屋に入るなりベッドに身を投げ出した美咲は、疲れを見せるものの溌剌とした声音で今日を振り返っていた。

「明日はどうするの?なんか予定在る?」

「明日は雑貨屋に行こうと思う。ランタンにロープ、テント用の布なんかは買ってバックパックに入れておいたが美咲の皿の好みはよくわからないからな。あえて買ってない。後は、午後からになるかも知れんが採集系の依頼でもこなそうか」

旅に必要なものと、ギルドの一連の流れを体感しておくのはこの先役に立つだろうと思い、明日の算段を立てる。

「あぁ、それから、教会に行ったときにシミュリストルに聞いたんだが、この領地が戦場になるらしい」

「ふえ?唐突だねぇ」

「俺個人としては此処の領地に来て日が浅いが、既に結構気に入っている。美咲が嫌でなければーー」

「此処の人たちって良い人ばっかりだよねぇ」

俺の言葉を遮って、美咲はベリナナの実を一つ摘まんで眺めている。

「だって、一が全然警戒してないんだもん。びっくりしたよ?あぁ、此処の人たちは悪意が全くないんだなぁって感心しちゃった。・・・・・・ナシリゴーある?」

独白のように言葉を重ねていた美咲は、不意に仰向けだった体を反転させてナシリゴーを強請ってきた。苦笑しながら自在倉庫からナシリゴーを取り出して放ってやる。

「ありがと。・・・・・・んーっ、やっぱり不思議っ!・・・・・・私はね?どっちでも良いと思うんだよ。一がこの町を捨てて他の場所に行くのも、この町に残って加勢するにしても。誰も一を責められない。誰だってそうするから。私は一の側にいる。だから悩まないで?一の好きにするといいよ。今までわがまま言えなかった分、こっちでは我が儘を押し通しても良いと思うの」

それにね?と、美咲は続ける。

「一が持っていた懸念って、目が見えないことでしょ?それが解消されたんだから、一が想うように動いても、何の負い目も無いはずだよ?」

「わかった。俺は此処を守るために残る。美咲もついてきてくれ」

「どこまでもついて行くよ」

俺の意志を伝えると、美咲は微笑みながらナシリゴーを頬張った。



 そこからは、取り敢えずガンジュールさんへの連絡をシミュリストルに任せ、夕食を食べながら必要な物や自分達がどれだけできるかを話し合った。

 取り敢えず、部屋に戻ってから現状の把握を進めようと言うことになり、部屋に戻った。







コガラシ・ハジメ(18)

能力値:

HP:一五〇,〇〇〇

MP:三〇〇,〇〇〇

STR:五,〇〇〇

STA:五,〇〇〇

CON:五,〇〇〇

AGI:五,〇〇〇

DEX:五,〇〇〇

KNO:一,五〇〇

WIS:八,五〇〇

スキル値:

気配察知:七〇〇

剣術:八〇〇

拳術:五〇〇

調理:四〇〇

代用調理:一

鑑定:六〇〇

想像:一五,〇〇〇

心理把握(接触):三〇〇

称号:

座頭市







イバラキ・ミサキ(18)

能力値:

HP:三〇〇,〇〇〇

MP:一五〇,〇〇〇

STR:五,〇〇〇

STA:五,〇〇〇

CON:五,〇〇〇

AGI:五,〇〇〇

DEX:五,〇〇〇

KNO:八,五〇〇

WIS:一,五〇〇

スキル値:

剣術:五〇〇

拳術:八〇〇

槍術:四〇〇

棒術:七〇〇

体捌き:六〇〇

見切り:七〇〇

調理:九〇〇

代用調理:一

調合:一〇〇

代用調合:一

鑑定:一二〇

手芸:二〇〇

工芸:一七〇

演奏:一八〇

歌唱:二二〇

修理:二七〇

読み聞かせ:二五〇

表現:六〇〇

称号:

拳闘士

癒しの歌い手

活力の歌い手





 これが現在の二人の状態だ。シミュリストルの加護(?)のおかげで大体二倍になっているらしいが、それでも凄まじい。

 スキルの数値だが、美咲の又聞きだと百で達人だと言う。・・・・・・美咲の調合が達人級だ。だが、このスキルレベルも文明力如何によって平均値が上下するそうだ。地球の文明力だと、三〇〇位が達人域だと言っていた。



 さて、次の日になった。あの後、「ラブラブイチャイチャしたーい」と美咲は言っていたが、ベッドに入るなり俺に抱きついて眠ってしまった。俺も似たようなものなので構わないが。

 朝食を済ませた俺達は一応の確認として教会へ赴く。あちらからの連絡が無いためだ。もし、こちらの状況が伝わって居なくともこの時点で伝えれば何の支障もない。

 そう思って教会へ到着すると、今日もガンジュールさんは講堂の中央で熱心に祈りを捧げている。これなら、直接話した方が良さそうだ。

 と言うことでシミュリストルへの祈りは後回しにしてガンジュールさんに話しかけた。

「紹介します。俺の連れの、茨城 美咲です。美咲、この方がこの地の領主、ガンジュール=レインフェルトさん」

「は、初めまして。ご、ご紹介に預かりまちた茨城 美咲です。こ、今後ともご贔屓に?お願いいたちまふっ!」

「はっはっは、教養のあるお嬢さんだ。見目も麗しい。もう少し場数を踏めばどこに出しても恥ずかしくない令嬢になるだろう。精進したまえ」

あらやだ格好いい。

 じゃなくて。美咲のギャグのようなコテコテの自己紹介を笑って受け流したガンジュールさんは、さて、と俺に目を向ける。

「シミュリストル・・・・・・様からこの領地の危機と言う事を伺いました」

「そ、それは・・・・・・」

俺が口にしたのは機密情報だろう。ガンジュールさんは俺がシミュリストルの名を出したから情報の出所を疑う様子はなく、辺りを憚る様に見渡すだけだ。そして、この場には俺たち以外誰もいない。

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