第八章
~第八章~
白骨死体の身元が判明した。
それは上倉のものだった。
「上倉が死んでいる?」
なるべく理解できるようもう一度児島に問う。
「どういう事か分かりませんが本部も相当バタついているようでした。」
「上倉は生きている。」
「それは誰もが知っています。だから理解が出来ないんでしょう。」
「そ、そうだな。」
「取り敢えず本部に向かいます!
前村さんはここに居てください!」
「いいのか?」
「はい!ある程度の食べ物飲み物は冷蔵庫にあります!」
「お、おう。有り難う。」
「では、行ってきます!」
児島が家を出てから4時間ほど経った。
時刻は朝の2時だ。
その間テレビで上倉宗治の連行が速報された。
それ以上の報道は出ていなかった為気になって仕方がなかった。
そう思っていると児島が帰ってくる。
「どうだった?」
眠気眼の児島に帰宅して早々に問いかける。
「さすがに疲れたので概要だけお伝えして寝させてもらいます。」
「あぁ。済まない。」
「身元が判明した死体はやはり上倉のもので間違いありませんでした。
どこの骨から採取をしても全てDNAが一致しました。」
「上倉を連行したと出ていた。」
「はい。連行したまでは良いのですが何せ本人が何も覚えていないとのことで...。」
「成りすましているという事は?」
「いえ。生きている上倉のDNAを採取しましたがそれも完全に一致しました。」
「意味が分からないが単純な回答をするとすると世の中に上倉が二人存在していたという事になる。」
「それでしか説明は付きませんね。
上倉がそんな事なので捜査は難航しています。」
「そりゃそうだ。......分かった有り難う。
休んでくれ。」
「はい。お先です。」
そういってシャワーを浴びた児島は自分のベッドに横になりすぐに眠りについた。
『上倉が二人......。そんなことがあるのか...?』
どれだけ考えても最適な答えが出てこない。
二人の上倉が存在していたという事実だけが前村を襲う。
『ドッペルゲンガーというのは聞いたことがあるがそんなのただの神話だ。
それに、仮にそうだとしてもDNAまで一致するようなものなのか...。』
ふと気が付くとカーテンから光が差し込んでいる。
大きい事件の時は日常茶飯事なので前村は気にしない。
その時、一つの仮定で点が線で繋がることが分かった。
それは、セルジーの研究...いや、計画だ。
スマホを手に取り佐伯に連絡をしようとする。
が、児島の言葉が甦る。
『佐伯さんか課長が真犯人なのではないか。』
前村は悩んだ。
だが、その考えは捨て佐伯に電話を掛けた。
『ブルルル...』
「もしもし...?」
いつもの佐伯では想像がつかないほど弱々しい声だった。
「朝早くに済まない。俺だ。」
「あぁ、修平か。そういえば...」
「知っている。白骨死体は上倉のものだった。」
「お、何で知ってるんだ?」
佐伯の声が少しいつもの調子に戻ってきた。
「実はあの後児島の家に行って渡辺との面会の事を聞いた。
アイツは白だった。
その流れで児島の自宅に居候させてもらっている。」
「そうだったのか。よかったよ。
外で凍え死んでたらどうしようかと思ってた。」
冗談混じりで言う。
「そんなはずないだろ。最悪お前に借りている金でホテルにでも泊まるよ。」
「あぁそうだったな。」
「それより、セルジーの計画が分かったかもしれない。」
「本当か!?」
「あぁ。」
「で、何なんだ?」
「それが...」
説明をしようとした途端電話を奪われた。
振り返るとそこには目を見開いた児島が立っていた。
「お、おい!なにするんだ!」
「セルジーの計画が分かったんですか?」
「そ、そうだ。あくまで仮定の範疇だが...。」
「誰に電話をしてたんですか?」
「佐伯だ。」
「そうですか。」
そういうとキッチンの方に歩いて行く。
「お、おい!」
返事がない。
不審に思いキッチンを覗く。
そこにはナイフを持った児島が立っていた。
「お前!まさか!」
児島がクスクスと笑う。
~第九章予告~
上倉の連行も虚しく何も手がかりを掴めない捜査本部。
状況を聞いた前村が一つの仮定で辿り着いたセルジーの計画。
電話を奪い、無言でその場を離れた児島。
ナイフを持つ児島の笑いに隠された真実とは。
第九章乞うご期待!
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