第七章

~第七章~


情報の交換を始めた。

まず児島が話し出す。


「セルジーの汚職事件を調べ始めた経緯から話します。」


「あぁ。」


「セルジーの汚職事件が発覚したのは3年前です。その当時はまだ公安に入る前で、最後の学生生活を楽しんでいました。

そこで報道されていたのは8億という多額の脱税。それを研究費に使ったと。

少し違和感を持った僕は

昔から推理小説の類いが好きだったこともあって趣味の範囲で汚職事件を調べ始めました。」


「そんな事をしてたのか。」


「はい。そこで分かったのは、

株式会社cellGの設立が2021年。今から11年前です。それと設立時のメンバーは捕まった渡辺と久留米大翔(くるめたいと)の二人でした。

様々な細胞研究を行っており渡辺は6年前ノーベル化学賞にノミネートをされるほどでした。」


「そこは俺も知っている。」


「ですよね。でも、僕が驚いたのは久留米大翔の方でした。」


「久留米大翔は当時調べてみたが特筆すべき事はなかったと思うが...。

居場所も特定できなかった。」


「それが......、久留米大翔は僕の父でした。」


「何だって!?でも、お前は児島...だろ?」


「はい。僕が幼い頃に両親は離婚しており母方の旧姓を貰っているので児島になっています。」


「そうだったのか...。」


「はい。ですが物心がついた頃には父は事故で亡くなったと聞いていたのでとても驚きました。」


「と言うことはお前の父親も今回の研究に携わっていたってことか?」


「学生だったという事もあり当時はそれ以上調べることができなかったんです。

でも、大学を卒業して公安に入ることになって改めて調べてみました。

すると、久留米大翔は5年前行方が分からなくなり捜索願いが出されていました。」


「まだ見つかっていないのか。」


「はい。そこで当時捜索願いを出した人物に話を聞こうと記入されていた住所に行ってみました。」


「その捜索願いは誰が出したんだ?」


「久留米大翔の母...つまり、僕の祖母です。」


「そうだったのか。それで...?」


「その住所には祖母は居ませんでした。

近隣の方に聞き込みをしてみましたが近隣付き合いを全くしておらず更に久留米大翔が行方不明になってからは鬱のような状況で誰とも関わりは無かったようで...。」


「そうか...。」


「それでも諦めきれなかった僕は最近単独行動が許されたので渡辺の面会に行き、久留米大翔が僕の父であることを明かしました。」


「それがこの前お前の面会届けを見たあの日か。」


「そうです。最初はセルジーの8億の用途が研究費だけだとは信じられないと話すと、同じ話を前村さんにもしたと言われました。そこで前村さんがセルジーの捜査を単独で行っていることを知ったんです。」


「言っても俺も単独捜査を始めたのは3日前からだが。」


「そうなんですか。ずっと捜査をしているのかと思っていました。」


「当時、指揮官の『田端さん』が研究費だったという供述を飲み捜査本部を降ろしてから特に気にしてなかったからな。」


「なるほど。......最初はそうやって話をしていたんですが、久留米大翔の名前を出し父親である事を伝えたとたん渡辺が何も言わず面会室を出ていき強制的に遮断されたんです。」


「そうなのか!?と言うことは久留米も関与している可能性が高いな!」


「だと思います...。仮にも父なので信じたくは無いですが...。」


「そうだな...。」


「今僕が知っている情報はここまでです。前村さんは?」


「俺も渡辺と話をした。その時の内容は、当時の研究は一つの計画を成し遂げる為の研究だったと。」


「計画?」


「あぁ。まだ計画については何も分かっていない。だが、その計画は世の中を良くするための計画だって事ぐらいだ。」


「何の計画でしょうか...。」


「そこで話題に上がったのは政治家の無駄遣いだった。」


「政治家の無駄遣い...?」


「そうだ。渡辺はそこを無くしていくと考えたらしい。」


「そんなことどうやって...。」


「それが計画の核になる部分だと思う。」


「無駄遣いの政治家となっては対象が多すぎます。計画に関与している人間を洗い出すには特定が難しいですね。」


「それが、丁度面会の帰りに見た記者会見でふと気になったことがあった。」


「何ですか?」


「上倉宗治の事だ。

散々な騒動を起こした上倉だがここ最近は人が変わったかのような行動をしている。」


「...確かに。」


「そこで俺はこう思った。

計画とは人の心を左右するようなウィルス性の細菌でも作っているのではないかと。」


「なるほど!その線はなきにしもあらずですね。」


「そう。そう思って次の日上倉の自宅に行った。

そこで話をしてくれたのは上倉の奥さんだ。」


「何か分かったんですか?」


「いや、具体的には分からないが上倉が人が変わったような行動をし始めたのは名取綾子との不倫騒動のあとからだ。

その当時一週間ほど行方が分からなくなっていたようでな。」


「と言うことはその時に注入されて...。」


「かもしれない。

いづれにしてもその一週間の間に何かあったのは間違いなさそうなんだ。」


「なるほど...。」


「その後渡辺に上倉の事を話そうと面会所に向かったときお前の面会届けを見つけて急いで二課に戻ると今回の白骨死体の山に巻き込まれたと言うことだ。」


「そうでしたか...。

そういえば現場に前村さんの財布が落ちていたんです。それで上が前村さんを重要参考人にしているのですが...。」


「それは犯人の策略だ。

財布は一週間ほど前に落とした。

それをたまたま犯人が拾って犯行を隠そうとしている。」


「やっぱりそうだったんですね。」


「あぁ。偶然なのか必然なのか...分からないが。」


「自分の財布を落として気付かないような人間が死体が白骨化するまで見つからないような完全犯罪はなし得ませんからね。」


「そうだな。今回お前と話せたのは不幸中の幸いだ。」


「そうだ!」


前村が続ける。


「俺が単独でセルジーの事件を追っていることは課長にはバレている。

お前も十分に注意するんだ。」


「わかりました。

僕からも一つ良いですか?」


「あぁ。なんだ?」


「今回の白骨化した死体は恐らく僕の父だと思います。計画に支障が出たからなのか何なのか理由は分かりませんが今まで一切行方が分からなかったんです。

恐らく父でしょう。」


「信じたくはないが、そうかも知れないな。」


「はい。そこに落ちていた前村さんの財布。

これは偶然では無いと思うんです。」


「必然?じゃぁ誰がどうやって...。」


「まだ白骨化した死体が誰のものかは分かってないですが、僕の父とも上倉とも接点がないのに前村さんが殺害する動機が一切ありません。

と言うことは誰かが意図して置いたとしか考えられないんです。」


「となると俺は犯人と接点があるということか?」


「恐らく...。

じゃなくても無くした財布が届けられるのは警察署です。

つまり...」


「警察の内部に今回の犯人がいると...?」


「僕はそう思っています。

それも前村さんの事を知る人物だと...。」


「それは考えすぎじゃないか?」


「だと良いんですが、そうとしか思えなくて...。」


「俺の事を知っていて単独捜査をしているのを知っているのは今目の前にいるお前と......課長...と...佐伯...ぐらい...。」


「僕は前村さんが単独捜査をしているのを知ったのは事件の日です。

僕を除くと課長と佐伯さん...です。」


「ま、まさか...。あの二人のどちらかが。そんなはず。」


「それを考えていたので前に佐伯さんと話していた時キツイ言葉を投げたんです。

それ以上は話さない方がいいと思って。」


「そうだったのか。

いや、でも佐伯はあり得ない。

今逃げているのも佐伯に促されたからだ。

それに逃げる間の資金まで用意してくれてる。

お前の住所を教えてくれたのも佐伯だ。」


「となると、怪しいのは課長ですか。」


「だろうな。

渡辺と面会したと言ったときも血相を変えて聞き出そうとしていた。」


「どこまで計画の事を知られているか確かめたかったんでしょうか。」


「恐らく。だが、最終的にその時は何も話はしていない。」


「と言うことは今回前村さんを重要参考人にして計画の真相を闇に葬ろうとしているということですか。」


「その線が濃厚だ。」


「わかりました。では課長の動きを注意して見ておきます。」


「あぁ。頼んだ。ぐれぐれも気を付けるんだ。」


「分かりました。」


時間も忘れて話していると40分が経っていた。

児島の家を出ようと準備をしていると児島のスマホが光る。


児島が電話に出た。

何かを話しているが電話を切る寸前明らかに児島の顔色が変わる。


「前村さん、白骨死体の身元が判明しました。」


「そうか!やはりお前の......」


「いえ、死体の身元は......上倉宗治でした。」


「は?」


理解ができなかった。

上倉宗治は生きている。

なのに白骨死体は上倉のもの。


『どういう事だ......。』


~第八章予告~

二人の情報を噛み合わせて推測する真犯人。

そこに入る一本の連絡。

それが白骨死体が上倉のものだったという理解不能な状況を生む。

ここから顛末が激動する。

第八章乞うご期待!

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