第六章

~第六章~


あの連絡が入ってから1時間ほど走っては歩きを繰り返し、見慣れない住宅街に身を潜めている。

周りではパトカーが右往左往している。


『どういうことだ。なぜ俺が重要参考人なんだ。』


いくら考えても理解が出来ない。

そんな折一本の電話が入る。

スマホの画面には『佐伯』と表示がされている。


本当に佐伯からなのか、本当だったとしても上からの指示で居場所特定の為に掛けているのではないか。


色々な葛藤と戦い前村は出ることを決意した。


「もしもし...」


「もしもし、俺だ、佐伯だ。」


囁くような声で佐伯が続ける。


「お前財布は手元にあるか?」


「いや、無い。むしろ一週間ほど前に財布を落とした。」


「そういえばそんなこと言ってたな。だが逃げるにしても金は要るだろ。」


「あるに越したことは無いが今は自宅にも戻れないだろう...」


「それでよ、今日の20時にいつもの喫茶店で落ち合おう。取り敢えずの金ぐらいなら用意をしてやる。」


「佐伯......悪い。こんなこと考えたくは無いが...」


「分かってる。俺が上からの指示で動いてるんじゃないかって心配してんだろ?それだけはねぇ。安心しろ!」


微かに聞こえるぐらいの声だが強く意思を感じた。


「分かった。本当に有り難う。」


「勿論だ!俺もたまには役に立つんだぜ!」


「確かにな。」


少し緊張が解れた。

それも束の間、佐伯との電話を切ると再度気を引き締めた。


結局あれから6時間、近くにあったショッピングモールの中を周回し時間を潰した。

約束の20時まで約20分。

喫茶店に向かうことにした。


喫茶店の前に着く。

『クレハ』という喫茶店。

ここは昔から佐伯と仕事の愚痴を溢し合っていた場所だ。

マスターは今年で80になる少し寂れた喫茶店だった。


ドアを開ける。

『いらっしゃいませ』の声もなく好きな場所に座る。

それがここのスタンスだ。


俺はいつも使っていた席に座る。

20時を少し回った頃佐伯が入り口から一直線に向かってくる。


「修平。」


「佐伯。」


佐伯の顔を見ると少し安堵した。


「修平、誰にも見つかっていないか?」


「恐らく...。お前こそつけられていないのか?」


「あぁ、大丈夫だ。」


「それにしても捜査本部が立ち上がった。総動員でお前を探している。」


「だろうな。」


「だから長居は出来ない。用件と金を置いたらすぐに出る。」


「分かった。」


「取り敢えず今回の山の背景だが、白骨化した死体は未だ身元が分かっていない。セルジーの本社近くという部分は特に不審に思っている人間はいない。」


「なるほど。不審に思う方がおかしいな。」


「そりゃぁそうだ。そこが気になるのは単独捜査をしていたお前とそれを知っている俺ぐらいだ。」


「あと児島だ。」


「そこの関係は分からないが...。続けるぞ。」


「あぁ。」


「お前が重要参考人になった経緯だが。死体の側にお前の財布が落ちていたらしい。」


「一週間前に落とした財布か。」


「そうだ。殺害した犯人がお前の財布を拾い放置したと思う。」


「それっておかしくないか?なぜピンポイントで俺の財布を拾う事が出来るんだ?」


「それはお前の考えすぎだ。たまたま拾った財布がたまたまお前のだっただけだろう。」


「そうなのか...。だが、そもそも俺がなくしたのは一週間前だ。死体が数年前に殺害されていたのであれば時間軸がずれすぎている。科捜研はそれぐらい分かるだろ。」


「細かく調べれば分かるだろう。だが、財布を購入したのは何年も前だろ?」


「それはそうだが。」


「それに中に入っていた免許証の更新がされているのも4年前だった。」


「確かにそれぐらいだったと思う。」


「時間軸のズレを証明する書類が何も無いんだ。」


「そんな事......」


「悪運が祟ったな。」


「いずれにしても科捜研が動くまでは疑いは晴れないって事だな。」


「そう言うことだ。」


「分かった。それまでは何とか逃げ切るよ。」


「あぁ。頑張れよ。......そうだ、これで当分は逃げれるだろ。」


佐伯が胸ポケットから少し厚みのある茶封筒を取り出した。

中には1万円札が20枚入っていた。


「助かるよ。解決したら必ず返す。」


「それはどっちでもいい。取り敢えず今は捕まらないことだけを考えるんだ。」


「分かった。有り難う。」


「よし!そろそろ行くよ。他に何か必要なものは無いか?」


「あぁ。大丈...。......いや、一つだけ。」


「なんだ?」


「児島と話がしたい。」


「バカ言うな!連れてこれるわけ無いだろ!」


「連れてこなくて良い。住所だけ...教えてくれないか。」


「児島が通報...いや、本人が捕えて来るかもしれないぞ。」


「その時は無理にでも逃げてやる。後輩に捕まるほど柔じゃない。」


「そうか。分かった。戻り次第連絡をする。」


「何もかも済まない。」


「俺とお前の仲だ。気にするな。」


そう言ってそそくさと喫茶店を出る佐伯。

コーヒーを飲み干して佐伯が出た数分後に喫茶店を出た。


15分後佐伯から連絡が来る。


『児島の住所だ。』

『東京都品川区○○○○』


書かれていたのはそれだけだった。

本当に申し訳ないと思う前村だった。


その連絡を貰ってすぐ前村は児島の自宅に向かった。

小綺麗なアパートの一階に児島の自宅があった。

表札は出ていない。


『ピンポーン』


応答がない。


『ピンポーン』


2度目も応答がない。


諦めて離れようとしたとき、

ドアが開いた。


「入ってください。」


「え、あ、あぁ。」


5メートル程の廊下を抜けるとワンルームの部屋がある。


「どうぞ。座ってください。」


「いや、立っておく。」


「心配しなくても大丈夫ですよ。誰も呼びませんし捕まえたりもしません。」


「本当か?」


「はい。むしろ前村さんにお話ししたいことがありました。」


「そうなのか。......なんだ?」


「セルジーの汚職事件の裏に隠された計画の事。そして今回の白骨化死体の山の事。」


「お前......」


「前村さんの情報と僕の情報交換しませんか?」


驚きで一瞬声が出なかった。

鼓動を落ち着かせ声を発する。


「丁度俺もその事で話がしたいと思っていたんだ。」


児島は知っていましたという風に頷いた。


~第七章予告~

逃げた前村に手助けをしてくれる佐伯。

そこから手にいれた児島の住所。

家に入るや否やセルジーの計画について話がしたいと言い出す児島。

一体児島は何を知っているのか。

第七章乞うご期待!

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