第四章

~第四章~


ろくに睡眠が取れていない。

目を瞑っても真相が気になると全く眠れない。

結局いつもカーテンから差し込む光を見て時間を知る。


渡辺の面会の時と同じく所に行く前に例の政治家の家に来た。


総平米いくらだろうか。

とても前村の収入では叶わない立派な邸宅だ。

表札には行書体で『上倉』と書いてある。


『上倉宗治』

よくも悪くも記者会見の絶えない政治家だった。

2022年に国会での暴言騒動。

2027年には大企業デンホーとの収賄が露呈。

その2年後、美人政治家と謳われていた『名取綾子』との不倫騒動。

2030年からは積極的なボランティアの活動報告。


正直2030年からの上倉は人が変わったのかと騒がれていた。


その表札を眺めながらインターホンを押す。


『ピンポーン』


5秒程のインターバルを置いて声がする。


「はい。」


女性の声、恐らく奥さんだろう。


「公安二課の前村です。」


インターホンのカメラに向かって手帳を広げる。


「公安の方が何の用でしょうか。」


過去に騒動を起こした上倉の奥さんだ。

公安と聞いてピリつくのも当然だろう。


「朝早くに申し訳御座いません。上倉宗治さんについてお聞きしたいことが御座います。」


「主人がまた何か...。」


「いえ、決してネガティブなお話は致しません。むしろ今の上倉さんは立派な政治家だと思っています。」


「そうですか...。どうぞ...。」


ステンレス製の門が自ずと開く。


玄関に入るとまた驚いた。

自宅の一部屋程の玄関に毛並みの綺麗なシベリアンコリーが出迎える。

そこに上倉の奥さんも立っていた。


「こちらへどうぞ。」


「お邪魔します。」


子供の成長を追うように並べられた写真を見ながら歩く廊下の先に応接室がある。


「お飲み物はお茶かコーヒーどちらになさいますか?」


「お気遣いなさらず。」


「そうですか。」


そう言うと上倉の奥さんも対立する椅子に腰かける。


「お邪魔して早々不躾な質問ではありますが、ご主人様は不倫騒動を最後に人が変わったようにボランティア活動に勤しんでおります。何があったのですか?」


「いえ、デリカシーの無いストレートなご質問で。」


「申し訳御座いません。」


「いえ...。」


と言い数秒沈黙の後上倉の奥さんが続ける。


「主人は心底自分の過ちに反省をしたんだと思います。不倫騒動の時は家族の前で泣きながら土下座をしたほどです。」


「あの上倉さんが...土下座ですか...。」


「えぇ。世間のイメージでは想像も出来ないでしょうね。」


「失礼ですが、全く想像がつきません。」


「だと思います。それからというもの、過ちを償うかのように地方に出向いてはボランティアに勤しんでおります。最初は疑いました。地方に出向いてまた不倫でもしているのではないかと。ですが、テレビでの活動報告を見るたびにその疑いも少しずつ晴れていき今では主人を自慢にも思っております。」


「そうですよね。本当に上倉さんの活動は尊敬します。」


「ですので、何か特別変わったことはなく本人が心底反省した結果か今に繋がっているのだと思っております。」


「そうですか...。」


「でも...。」


何も情報が出なさそうだと悟った矢先、奥さんの逆接に敏感に反応する。


「でも?でも、何ですか?」


「2年前不倫騒動の後一度一週間ほど家を開けていた事がありました。」


「それは...どうして...。」


「いえ、私も詳しくは存じ上げません。一週間ほど音信不通で、警察に捜索願いを出した次の日にフラっと帰ってきたと思うと、途端に泣き崩れ土下座をし始めたのです。」


「なるほど。」


「正直私も驚きました。以前の主人は世間のイメージのままで、暴言騒動、収賄騒動の時も謝ることもなくいつもと同じような振る舞いをしておりました。それが今回は違ったので一週間で改心をして戻って来たのかと思っておりました。」


「その後も一週間の事についてはご主人と話はされなかったのですか?」


「一度聞いたことがあります。ですが、あまり覚えていないと言われそれ以降は一度も話をしていません。」


「そうですか。その一週間がとても気になりますね。」


「はい。ですが、あまり主人を刺激するようなことは止めてくださいね。今は家族揃って幸せな日々を取り戻しているんです。」


「勿論です。このお話は私の中だけに留めておきますのでご安心ください。」


「お願いします。」


「貴重なお時間を有り難うございました。」


「いえ。前村さんの方でも何か分かりましたらまた教えて頂けますか。」


「はい。ですが全ての真相が明らかになるまではお教えできませんのでそこはご了承下さい。」


「分かりました。宜しくお願い致します。」


「こちらこそ、宜しくお願い致します。」


応接室に入り約30分。

また真相に一歩近づいた気がした。

上倉宅を後にした前村はその足で再度渡辺の面会に向かった。


~第五章予告~

上倉の奥さんとの話でまた一歩真相に近づいた。

その後渡辺の面会に向かう前村だったが渡辺と面会をしているのは前村だけでは無かった事を知る。

面会をしたのは誰なのか。

その人物は今回の計画に関与しているのか。

第五章乞うご期待!


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