第二章
~第二章~
寿司を食べ、報告書を書き終えた前村は午前3時に帰宅した。
少し仮眠を取り午前7時に家を出る。
大きな事件があった時はこんな生活が続く。
目にクマが浮かぶ。
しかし、その時の前村には体の疲労感より脱税の8億の行方の方が重要だった。
当初の取り調べはcellGのトップ『渡辺耕平』と行っていた。
研究費という言葉にかき消された違和感が今になって顕著に表れる。
もう一度話を聞こうと渡辺が拘束されている刑務所に向かった。
面会室に現れた渡辺は不思議と安らかな顔をしていた。
「刑務所の居心地はどうだ?」
前村の言葉で面会室がピンと張りつめた。
「案外悪くないですよ。」
少し口角を上げた渡辺が返す。
「そうか。」
「取り調べも終わり、刑も確定している私に何か用ですか?公安も暇な仕事なんですね。」
「なに?」
普段冷静な前村が少しイラついた。
「何か他に進展でもあったんですか?私が無実になるような事とか?」
「あるわけないだろ。自分が何をしたかもう一度思い返したらどうだ。」
「ふん、結局政治家の無駄遣いに使われる金でしょう?それを世の中の為の研究に使っただけですよ。悪いことだと思ってはいない。」
「なんだと。」
「結局あなただって人の払った税金で生きてるんじゃないですか。むしろそれを支えてやっている会社の代表達に敬意を示したらどうですか?私を含めてね。」
「そうだな。有り難う。」
思ってもいない感謝とはこんなに虚しいものかと実感した。
「それよりなんの用ですか?」
「当初8億もの大金を研究費と言っていたがなんの研究をしていたんだ。」
「まだそんなこともわかってないのですね。」
「なに?」
再度イラつく。
「それを調べるのが貴方の仕事でしょう。人に聞いてばかりではいつまでたってもノンキャリのままですよ。」
「やはり素直に話してはくれないか。」
怒りをグッとこらえ冷静を装う。
「当然でしょ。研究者は実現しなかった研究成果を軽々しく口にはしませんよ。恥ですから。」
「なら、結局失敗に終わったということか。」
「おしい。半分正解で半分不正解ですね。」
「どう言うことだ。」
「んー。暇なお仕事でさぞ困っているでしょうから少しだけお話ししてあげますよ...。今回の研究は実のところ成果は出ています。ですが、100%にはならなかった。私が捕まってしまったからね。」
「つまりその研究で何かしらの動きがあったと言うことか。」
「そうですね。その欠片を全て集めて平和な世の中の実現を志していたのですが、志半ばでこのような結果に。」
「その欠片とは一体なんなんだ?」
「これ以上は私からはお話しできません。ご自身でお調べになってください。」
「ふざけるな!遊んでるんじゃないんだ!」
前村は淡々と話す渡辺に対し遂に憤怒した。
「おぉ...怖い。自分の仕事の出来なさで人に当たるなよ。」
渡辺の口調が変わった。
「真実を追求するために話を聞いているんだ!政治家の無駄遣いは俺だって認識している!それでも税金というのは様々な所で使われ人の役に立っている!それも8億という尋常じゃない大金を自らの研究費に使っただと!?ふざけるのも大概にしろ!」
前村の憤怒リミッターが振り切った。
「ふん。無駄遣いが大半ではないか。何を偽善者ぶってるんだ。」
渡辺が続ける。
「では、そこまで感情を露にしてくれた君にご褒美だ。最後に最大のヒントをやるよ。」
「なんだ。」
前村が冷静さを取り戻す。
「その無駄遣いを無くしてやろうと思って実施した研究だよ。先程も言ったがこの研究......いや、計画は100%ではないが既に実行されている。これより先は頑張って調べてみるんだな。」
「計画......」
防弾ガラス越しの渡辺に聞こえるか聞こえないかという声で呟いた。
「面会時間終了します。」
面会室の担当警官が終止符を打つ。
「次は確証をもって来てくださいね。」
「必ずお前の口から今回の研究...いや、計画か...吐かせてやるよ。」
「楽しみに待っています。」
その言葉を最後に前村は面会室を出た。
所に戻る道中目にする駅の電工掲示板。
見慣れた政治家が映っている。
過去に暴言や収賄、不倫騒動でかなりのバッシングを受けた有名な政治家だ。
その政治家が心変わりでもしたのかという程最近はボランティア事業に精を出している。
「政治家の無駄遣い......確かに思うところはある...。しかし、それを無くすための研究?計画?そんなこと出来るわけがない。どれだけ大金を叩いても人の心なんて一研究者が変えるなんて事出来やしない...。だが、この政治家...心変わり...何か、あるのか...。」
~第三章予告~
昨日より少し進展を見せた汚職事件の真実。
研究を計画と言い換えた渡辺の真意。
帰路で見た有名政治家の違和感。
ここからどんな展開になるのか第三章乞うご期待!
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