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 上演会は一週間行われ、日が経つにつれ少しずつ人数が増えていった。ただ金屋敷以外全員キャスト志望だった、というのが少し痛いが。まあこればかりは変更できないので、同じサークル内の仲間として接していくしかあるまい。

 そしてなんとなく内情もつかめてきた。部長は三年、先輩の路悠は二年。四年生はすでに就活が始まっているので参加しておらず、部長含む三年生たちも夏を過ぎるあたりからあまり来られなくなるらしい。そこで行われるのが、三年最後の演目と役職の引き継ぎなのだそうだ。

 部長、副部長、会計。部長と会計は次期三年生───つまり現二年生から。副部長は現一年生から選出されるらしい。裏方の各班長についてはその役割とはまた別に選出されるらしく、詳しい話はその時期になったら話されるとのこと。そして副部長とは実質次の部長候補であり、指名されたら次の年の部長はほぼ確定すると……。

 ただその副部長は、本来は路悠がなるはずの役職だったらしい。

 どんなに楽しそうな集団でも、見えない場所に必ず影がある。このサークルではそれこそが路悠なのだと、仲良くなった音響班の先輩が小声で教えてくれた。あまり窮屈な思いをさせるのは忍びないんだけど、知っておいた方が地雷を踏み抜かずに済むだろうから、なんて。

 舞台上では大人気な路悠だが、普段の生活では先が読めないほどおちゃらけている。それがまるで自分の活躍を何とも思っていないようで、腹立たしく思う部員も少なくないのだとか。教えてくれた先輩自身は特に何も思わない派らしいけど。

 自分は練習に真摯に向き合うが、他者には気楽でいいと助言する。単に人それぞれ頑張ればいいという意味で言っているのだと金屋敷も思ったものの、他のキャストを蹴落とすためとも捉えられているようだ。まぁああいう先輩だし、行動の全てを裏目に取られてもおかしくはなさそうだけど…。それにしたってほとんど恨みのようだと感じていれば、まさしくその通りだった。

 行動の全てが全て自分のためだと思われていた路悠。当然目標は部長になることだとも思われていたし、疎んでいた周囲ももはやどうでもよくなっていた。そこで指名された副部長の謙遜でもなんでもない本気の辞退、である。路悠を理解していたメンバーはやっぱりなという感想を抱く反面、疎んでいたメンバーからすればもう何がしたいのかわからない。人間は「理解のできないもの」に恐怖し、毛嫌いする生き物だ。路悠もその例外ではなく、さらに溝が深まる結果となった。

 よくある話なんだろうな、とも思う。過程が違うだけで、よくわからない誰かはどこの集団にもいる。病弱が理解されず、自分もかつてその一人だった時があるし……。その時はただのクラスだったから一年でまた組み変わったものの、サークルは三年続く。溝は深まれば深まる一方だろう。

 申し訳ないけれど、ただの新入生である自分に何ができるわけでもない。ただ普通に接して、部内の事情を知らない中立派を演じるくらいしか。それになんとなく───本当になんとなくだが、路悠自身が積極的に関わってこないよう立ち回っているような気がするのだ。

 何を考えているのかわからないし、外見のインパクトが強すぎて底が見えない。ただ、悪い人ではないと断言できる。人を見る目があると自負するわけではないけど、重いものを持ってくれたり、一緒に帰ってくれたりとしてもらったことは多い。その分奇想天外な言動に驚かされる回数は増えるけど…。でもまあ、それだって嫌なことをされた記憶ではないのだ。

 教えてくれた先輩は名前をぼかして言っていたが、特に路悠を嫌う人たちも大体目星がついてしまった。意外にも同年代より三年生の方が多く、特に何もしていない時まで突っかかっている人たちまでいた。ここまで来るといじめのようにも思えるが、うまく立ち回ってくれるおかげで火の粉がこちらに飛ばずにいる。きっと多分、こういったことに慣れているのか───慣れてしまったのだろう。

 部活のある日は、活動が終わったあとに交代で掃除当番がある。新入生の金屋敷たちはまだ無いが、いずれ任されるようになるのだろう。今日当番だから一緒に帰れないわ、なんて隣に誰もいない帰路に着きながら、長い道のりにぼんやりと考える。

 いい先輩、だと思うんだけどなあ。

 三年生が引退して路悠が最上級生になったとき、また雰囲気も変わるのだろうか。金屋敷の同級生、つまり新入生たちへの印象は特に悪くない。むしろ金屋敷同様いい先輩という認識でいるぐらいだ。どうせなら居心地よくいてほしいしね。明日も授業と練習頑張らなくちゃと、陽が延び始めた道を歩いていく。

 これが単なる嵐の前の静けさだとは、気づかないまま。

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