第9話 良くないと判っているけど…やめられない

 倉庫に行きパソコンを立ち上げる。

例によってファイルが開く。

ターゲットの詳しい情報だ。

半年先までのターゲットの予定が記載されたものがある。

今回の期限も半年のようだ。

詳しい情報に一通り目を通す。

今回のターゲットは個人宅配業者のようだ。

それにしては勤務が歯抜けになっている。

まるで趣味で個人宅配をしているみたいだ。

少し違和感を感じる。

今回も実行する振りをするつもりのため、ほっておくことにする。

由美との作品制作の方が今は最優先事項だ。


 落札から数ヶ月が経ち、制作していた作品も完成し一息ついていた。

作品の大きさが判るよう、メジャーをとなりに作品の写真を撮る。

ネット販売のサイトにアップする。

「ありがとう、由美さん。これで完了だ。後は誰かが購入してくれるのを待つだけだ」

「きっと良い価格で購入してくれるわ。だって、とっても良い作品だもの」

「ありがとう。もうお昼だね、食事にしよう」

「そうね、今日も浩二叔父さん、来るかしら」

「なんか、最近よく来るな。以前はコーヒーを飲むくらいだったのに、最近は食事までここで摂るようになってるからね」

(未だにすごい顔でにらむから、こっちはヒヤヒヤしながらの食事なんだよな)

「健一さん、お昼にしっかり食べるから、刑事としてはありがたいんじゃない」

山本刑事がここで食事を摂るようになって知ったのだが、刑事は昼をしっかり摂ることが多いらしい。

最も事件があると、食事も不規則になるようだが。

その日は山本は来なかった。

ニュースを見るため、テレビをつける。

『おととい、○○市○○町のマンションで、住人の木下剛さんが何者かに殺害されました。知人の男性が連絡が取れないとマンションに行き、昨夜殺害された木下さんを発見したとのことです。近所の住民は物音等は聞いておらず、不審な事は無かったとのことです。警察は監視カメラなどを確認していますが、まだ犯人の特定は出来ていないようです』

山本刑事が来ない理由が判った。

「物騒な世の中ね。家は大丈夫かしら」

「あれでセキュリティーはしっかりしているから、大丈夫だとは思うよ。絶対とは言い切れないけど」

「そうね、自分たちでも何か対策できるかしら」

「扉に人感センサーと、カメラを設置しておいたから。とりあえずはそれでいいと思う」

「じゃあ、安心ね」

答えながら渡辺は別のことを考えていた。

○○市○○町というのが引っかかっていた。

(どこかで見ている、しかも最近。…例の情報だ)

他にも気になることがあり、近々貸倉庫に寄ってみることにした。


 由美との愛の行為のあと、寝息を立てている由美の頭を撫でながらニュースの事を考えている。

おととい、○○市○○町、記憶が正しければ例の情報に関連性を見つけることが出来るように思えた。

もう一度情報を確認すれば、ある答えにたどり着くかもしれない。

緊張が伝わったのか、由美が目を覚ます。

「どうしたの?怖い顔して」

「いや次の作品、どんなものにしようか考えてた」

「女性の裸像なんてどう?」

そう言ってちょっとセクシーなポーズを取る。

見事なプロポーションとバランスの良い大きさのバストがまぶしい。

「ああ、そんなの見ちゃったら、また」

そして再び愛の行為が始まる。


 翌日、材料の廃材を取りに行くついでに貸倉庫に寄ってみる。

情報を確認する。

○○市○○町、3日前あたりの予定。

間違いない、宅配の担当エリアだ。

予定もその前後二日は未記入となっている。

確認と趣味の殺害計画を立てるため、対象者の行動を実際に見ることにした。

実際に実行することは無いが、これまでも振りをするためと、計画をより完璧にするためしてきたことだった。

コアなミステリーファンがする完全犯罪計画を立てるのだが、彼には実際にターゲットがいることと、依頼が来ていることを考慮すれば、悪趣味と言えなくは無い。

本人も自覚していたが、送られてくる詳しい情報から計画を立てる欲求は抑えることが出来ない。

救いようのない悪癖と言えるだろう。


 今回手に入れた廃材も、前回と同じ工作機械たった。

例によってばらし、分別する。

由美が手伝ってくれるため、ずいぶんと捗った。

廃材を溶かし、鋼材と鋼棒を作ることにした。

由美がやってみたいというので、そちらを由美に任せることにしてターゲットを見て来ることにした。

由美には次の作品のインスピレーションが湧くように外に出ると言い残しておいた。

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