第8話 募集には気をつけろ
ホテルのロビーに着くと、太田が先に来ていた。
「今日は何だ」
「例の銃、処分されたみたいですね。とても残念です、と言っても諦めたわけではありませんよ」
「諦めろ、もう作る気は無い」
「いえいえ、あなたはまた作る。…私の楽しみ、判りますか?」
ぞっとする目つきで渡辺を見る。
「殺人IQの高いあなたならおわかりのはずだ」
(…そうか、この男、世界に一丁しかないハンドメイドの銃でその制作者を撃ち殺すつもりだ。唯一無二の一丁にするため)
「多分あなたのお考えは当たっていると思いますよ、渡辺様」
「ならば余計に作るわけ、無いだろう」
「あなたはまた作る。賭けても良いですよ。ただ、賭けるのはお互いの命になりますが。それはそうと、コンテナ貸倉庫、私どもで手配しておきました。お忙しいようなので」
そう言ってその場所の地図と鍵を渡される。
「今回もお見事でした。次の依頼もしたいもので、早めに手配させていただきました」
「受けるとは限らないだろう」
「それはそうですが、気が変わることも良くあることですので」
主導権は自分たちにあるようで実は組織の方にある。
組織に登録する羽目になったのも太田の仕業だ。
大手雑誌社の懸賞に応募したのがきっかけだった。
”ミステリー作家が思わず書きたくなる手口募集”というものだった。
登場人物の細かな情報があり、その中の一人をその中の誰かが殺すと言う条件で、情報から誰が誰を殺すのか。
その日時、場所、最良な殺し方、それに合う凶器を考えて具体的に書いたものを送る。
ミステリーファンで、そういったことが元々好きだった渡辺は応募した。
数ヶ月後、全く同じ手口で実在していた登場人物が殺害された。
そして太田が現れ、応募した原稿は計画書とされてしまった。
殺人教唆犯にされたくなければ組織に登録しろと、言われるがままそうしてしまった。
募集はスカウトする相手を選ぶ手口だった。
最もスカウトというよりは強要、いや、脅迫と言った方がいいだろう。
『誰が誰を殺すか、その手口は』
で、”殺人IQ”を決めるらしい。
その時の応募で渡辺が最も高かった様だ。
スカウト料が高額だったのは、賞金の代わりと言うことらしい。
そのお金であの作業場を購入したのだが。
すぐに抜けられると高をくくっていたが、知れば知るほど組織の巨大さを知ることとなり、抜き差しならなくなっていた。
それがずるずると今日まで続いてしまっている。
由美と暮らす為にはなんとか組織を抜けなければ、それもその後の心配が無いように。
それには組織の全貌を知らなくてはどうしようも無い。
渡辺には無理だろう。
下手に探れば”始末屋”に処分されてしまう。
起死回生の何かが欲しかった。
渡された地図で貸倉庫に行き、鍵を開け中に入る。
自動的に明かりがつく。
エアコンも効いている。
ちょっとした事務所のようにすでに必要なものが揃えられたいた。
一応組織からは優遇されているようだ。
隠しカメラやマイクなどの心配は不要だ。
万が一不法に侵入され、組織に繋がるものが漏れる事を最も嫌うだろう。
念のため、確認する。
(振りをするだけで、もしあっても判らないだろうな)
一通り探しながらそこの使い勝手も確認する。
ソファーの座り心地は素晴らしい。
自宅に持って帰りたい程に。
プチ隠れ家としては最高だ、殺しの依頼さえ無ければ。
入札がある時と落札してしまった時、これまでは自宅に対象の情報が送られた。
それで判断できたが、今後はどうするのだろう。
毎日ここに来るわけにはいかない。
たまに来れば良いかぐらいに思っていたが、出来れば一生来たく無い。
忘れていましたで通用するとは思ってもいないが、ほおっておくのも面白そうだ。
組織はそれほど甘くは無かった。
多分、同じ様な状況の殺し屋が何人もいるのだろう。
数週間後、早々に連絡が来る。
携帯にメールが届く。
『ネットオークションのご案内。フォローしている商品の情報が更新されました。
渡辺健一さんのMYページで確認をお願いいたします』
その日の午後、例の貸倉庫にゆく。
中に入るとデスクを兼ねたテーブルにラップトップ型のパソコンが置いてある。
いつの間に引いたのか、有線のネットワーク回線が接続されている。
パソコンを立ち上げると、新しいパスワードへの更新を求められる。
パスワード条件によくある説明がしてあり、10文字以上となっていた。
新しいパスワードを打ち込む。
確認の為、再度打ち込む指示が出る。
もう一度打ち込むと、自動的にログオンしファイルが開く。
入札時送られてくるいつもの情報だ。
今回の仕事も、最低価格500万、最高価格は1000万。
当然彼は1000万で請け負うと返事をする。
さらに数週間後、再び携帯にメールが届く。
『落札のご案内。ご希望されていました商品の落札が確定されました。渡辺健一さんのMYページで確認をお願いいたします』
まさか続けて最高額で請け負うことになるとは。
仕方なくまた例の貸倉庫にゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます