第4話 一人も良いけど、二人はもっと良い…はず

 昨夜は由美をベット、自分は床にクッションを置いて寝た。

少し期待していたが、どう切り出したら良いか、タイミングもつかみきれずそうすることになってしまった。

由美の寝息が気になり、なかなか寝入ることが出来ず少し寝過ごした。

朝食と昼食も兼ねて渡辺の自宅で済ませた。

いつもならしっかり食べるが、由美に合わせパスタにしておいた。

食後、作業場へ由美と共に向かう。

作業場に着くと、キッチンに誰かがいるようだ。

「ちょっと待ってて、誰かいるみたいだ」

由美が頷く。

少しだけドアを開け、中の様子を確認する。

山本刑事が椅子に座っていた。

そうか、いつもの時間か。

ふう、と息を吐きドアを開ける。

「何だ、山本さん。もう来てたのか、って鍵してなかったっけ」

「あんなもの、鍵の内に入らん。ところで由美は一緒か」

今にも彼を殺してしまいそうな鋭い目でにらみつける。

「あ、ああ」

「おまえ、由美に変なことしていないだろうな」

「…はずです。多分」

「何だ?その言い方。おまえまさか」

「ちょっと、浩二叔父さん。変な事って何よ」

「由美、おまえ大丈夫か?こいつに変なこと、されなかったか」

「だから変な事って何よ」

「それは、だな。つまり、その、何だ」

「私はもう大人よ。健一さんとどうなろうと、私の自由よ」

「け、健一さんて。渡辺、おまえ」

さらに鋭い目でにらみつける。

(記憶がないからはっきりとは言えないし、でも、裸は見たし。形の良いバストだったな)

ちょっと呆けた顔になってしまう。

「どうせお母さんから何か言われてきたんでしょ」

「姉貴から言われなくても、おまえが家を出ていたと聞けば心配するのは当たり前だろ」

「だから心配しなくてもいいって言ってるの。健一さんと暮らすんだから」

「それが心配なんだ!渡辺、由美をおまえのところに置いてくれって、そう意味じゃないことぐらい判るだろ。どういうつもりだ」

「由美さんが家に居づらいって言うから」

今日は朝から二人には押され気味だ。

「由美はまだ未成年だぞ」

「あら、もうすぐ二十歳になりますよーだ」

「だからまだ未成年だろうが」

ちなみに私はもうすぐ二十五になります、とは言えない雰囲気だ。

気を取り直し

「山本さん、由美さんが今すぐ帰っても、お母さんと気まづいでしょう。しばらく時間を空けた方がお互いの為になると思います。俺が責任を持って預かります」

「それなら俺のところが一番適所だろ」

当然のことを山本は言う。

そりゃそうだと、思いつつ。

「山本さんのところだと、お母さんがすぐに連れに来るかもしれない。やはり俺のところの方が」

と一応の反論を試みる。

「だからそれが心配だと言っているんだ。阿呆か、おまえは」

「もういい。私と健一はもうそう言う関係なの。どこに行くかは私が決める。私は健一さんと暮らす」

「由美、おまえ。…渡辺ぇ、おまえ」

今にも首を絞めそうな形相で渡辺をにらむ。

(ええ?やっぱそうなの?記憶ないよ、俺)

と由美の方を見る。

すると由美が腕を絡ませ

「そういうことだから。お母さんに伝えておいて」

はぁ、とため息をつき、再び渡辺をにらみつける山本。

「まあ、今日のところはそういうことにしておこう。由美。少し時間をやるから頭を冷やせ。冷静に考えれば正しい答えを出せるおまえだ。それと、ちょっと席を外してくれ」

そう言って由美をキッチンから出させる。

「…渡辺、おまえどうやった」

「え、どうやったって、何を」

「西川晴彦だよ。おまえが殺したんだろ」

「何言ってるんだよ。一緒に居て俺を見ていたろ」

「だからだよ。あの時おまえが手洗いに行き、その後西川が入った。そして後西川が死んでいるのが見つかった。西川と最後に接触したのはおまえしかいない」

「刑事が目の前に居るのに、人殺しするやついるか?俺が手洗いから戻る時にはまだ生きていた。俺じゃない!それに最後に接触したのは倒れている西川さんを見つけたやつだろ」

「そいつはもう取り調べた。なあ、どうやって殺したんだ?解剖結果も心不全に間違いないそうだ。薬等の残留物もない。事件性は無いと判断された。…前の時も心不全だった。これは偶然か?」

「だから前も今回も俺じゃない。何ならとことん調べてくれて結構」

「大した自信だな。まあいい。必ず尻尾をつかんでやる」

「だから俺は関係無いって」

「それと由美に手を出したら。判っているな」

(いや、もう出したみたいだし。記憶ないけど、その自信ないし。とは言えないよな)

「渡辺、返事は」

「あっと、コーヒー飲むか。今から入れるけど」

「飲む」

まだ健一をにらみつけている。

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