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 「あ」らゆきと「う」じの頭文字をとって―――というのは表向きにして、実際は二人の名前から取った「AA《ダブルエー》」というグループ名まで考えて。最初こそ暴走する緑の手綱を握るので精一杯だったが、最近ではかなり板についてきた。

 面白そうなゲームを探すのは宇治野の仕事だ。目利きがいいわけではない、単純に自分の好みに合うゲームならば実況がしやすそうだと、たったそれだけだが。ただ、自分が楽しそうにしていれば、自然と緑もノってくれる。緑がノれば、会話が弾む。ゲーム自体の面白さは緑の下手な動かし方と自分の解説でどうにかして、段々と実況自体も楽しめるようになってきた。

「……………」

 編集は緑が率先してやった。宇治野こそ知らなかったものの、元々MADや映像制作などが趣味だったらしい。その手の知識はもはや趣味の範疇を超えており、たまに話を聞くと喋っている言語が日本語なのか怪しくなってくる時もある。緑自身の斜め上を行くセンスも相余り、相方としていつも胸を張って投稿していた。

 アクションゲームが得意な宇治と、謎解きやパズルが得意な新雪の実況者グループ、AA。ゲーム実況というジャンルが盛り上がっていくと同時に、二人の人気も少しずつ上がっていった。

「…………………まずい、なあ」

 穏やかな口調で、時折コメントがざわつくほどえげつない言葉を発する常識人ツッコミの新雪。強めの口調や騒がしい言葉尻だが、なんやかんや新雪の後処理をしたりフォローに回ったりと世話焼きな一面もあるボケの宇治。バランスが取れていると言えば取れているだろう。たまに緑の手がつけられなくなるが。

 ゲームが全く絡まない実写も録るようになり、同郷の友人にバレるのを覚悟で顔出ししたりなんてして。ランキングにちょくちょく姿を現わしたり、イベントの出演も誘われたりもあって。

 順調、だったのに。

「……………ごめんな、緑」

 かち、と、検索キーを押した。

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