第10話 戦うんだ!寺内敦子!!!

 内野井駅を星奈と肩を並べて歩いていると、駅舎をオレンジ色に照らし出す夕焼けの中、向こうから翠ちゃんが一人で歩いてくる姿が見えた。

 眉間に皺を寄せて険しい顔をした翠ちゃんは、いつもにこにこしている印象からかけ離れていた。


「……翠ちゃん!」


 私の呼び声に気づいた翠ちゃんは、一瞬ハッとした顔をしたものの、にこりとすることもなく、プイッとそっぽを向いて黙って私の横を通り過ぎようとした。


「……みっ!翠ちゃん!」


 私は翠ちゃんのところに駆け寄って、その肩を掴んだ。


「翠ちゃん!……なんで私のこと無視するの?なんか私、悪いことした!?」


「別に無視してないし」


 翠ちゃんの正面に回って両腕を掴んで、真剣に話しかける私から、翠ちゃんはなおも顔を背けていた。


「無視してるじゃん!……私、嫌われたんなら仕方ないけどさ」


「……寺内さんは、別に嫌われてないよ。自分で気づいてないだけで好かれてるよ」


 翠ちゃんは言葉を切って、続けて話すべきか躊躇とまどったそぶりを見せたものの、俯いたまま続けた。


「龍紀だって寺内さんのことが好きだって言ってたし」


――え……今の何?


 衝撃的な一言だった。


――相宮くんが、私のことを好きだって?翠ちゃんじゃなく?


 耳を疑う。

 聞き直そうかと思ったその時、翠ちゃんが私をキッと睨んだ。


「人に好かれる努力もしてないくせに!……なんで好かれんの!?……ズルいよ!!!」


 翠ちゃんが私の手を振り払おうとした。


「みんなに好かれたくて努力してる私からは離れていくのに!なんで!?……もう!放してよ!!!」


 相宮くんが私のこと好きだとかいう、本人に確認できてない事実は、私にはどうでもよかった。私は、私の知らないところで翠ちゃんが勝手に自分一人で傷ついていたことにものすごくムカついた。


「……私が離れてないじゃん!」


 私は一瞬放した翠ちゃんの腕を掴みなおした。


「私、翠ちゃんのことムッチャ好きなのに!!!」


 翠ちゃんがびっくりして目をぱちくりさせた。


「勝手に嫌いになるなんてズルい!!!」

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