第9話 喪女、ギャルに懐く

 星奈は駅前のマンションの一室でひとり暮らしをしていた。ひとり暮らしとは言っても同フロアには家族が住んでいるとのことだった。マンション自体がご両親の所有物なのかなと思う。高校に行きたがらない娘の学費を出し続けているあたり、お金持ちなのかもしれない。


「まぁ、座ってよ。適当にクッションとか使っていいから」


 白く毛足の長いふかふかのラグの上に私は座った。ラグの上には白いこたつが置かれていて、ピンクのクッションが転がっていた。正面には19インチのテレビが置かれている。


「どのデザインがいい?」


 奥の本棚の最下段から、星奈はネイルのデザイン画がびっしりと描かれたノートを取り出してきた。


「すごいねー……。デザイン自分で描いてるの?」


「まぁね。……これ、かわいくない?敦子に似合いそう!これにしよっか?これにしよう!……と、その前に。敦子に似合う服を……」


 星奈は私に手持ちの服を出してきては、いろいろ押し当て、ああでもない、こうでもないと言い始めた。着せ替え人形の気分だと私は思った。




「……私ね、漫画家になりたいんだ」


 白地に赤のステッチが格子状に施されたセーターに、焦げ茶色のコーデュロイのミニスカート、それから焦げ茶色のタイツを選んでくれた星奈は、真剣な面持ちで私のアイメークに取り掛かっていた。白のハイライターを塗るとアイシャドウの発色が良くなるというようなことを話したのを最後に沈黙が続く。

 黙っているのが何だか気まずかったというのもある。

 それに、好きなことに没頭している星奈の真剣な眼差しを見ていると、彼女には、正直な自分の気持ちを話しても笑われたりしないんじゃないかなと思った。


「……へぇ!漫画家?……眼、もっかい閉じてもらっていい?そー。……どんなん描いてんの?ムッチャ見せてほしいんだけど~」


「うーん……恥ずかしいなー」


「大丈夫!私、漫画とか『浦安鉄筋家族』以外読まないから分かんないし!」


「何それ!?」


「『浦安鉄筋家族』!知らない?」


「ハルマキでしょ!?」


「そー!敦子、ムッチャ笑うじゃん!ヤバッ!!!」


 私は、星奈コーディネートの服を借り、星奈にメークをしてもらって、星奈にネイルを塗ってもらい、星奈とハルマキの話題で盛り上がった。

 星奈の仮眠中は、テレビを見てゲームをしていた。

 私たちは午後から街へ繰り出した。


 普段学校に行っている私にとって、午後の内野井駅周辺は新鮮だった。

 星奈と一緒にいることも新鮮だったし、学校休んで、おしゃれして、メークして……なによりもこんなにも笑っている自分自身が新鮮だった。

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