――以上が、今次のOS能力検証実験についてのデータです。


 うん。


 ……実験参加者として、今回、わたしは初めて彼と直に接して、テストを行なったのですが……やはり驚きました。

 彼の、正否の判断能力は、信じられない……いえ、驚異的なものです。所感ですが、対面で、彼に嘘をつける人間は、いないと感じられました。


 ――彼にとって、魂は〈視覚化〉された情報だ。

 精神の根幹となる魂を見て、彼は判断をしている。

 人の魂の動きは、けして同一のものではない。

 ただし、共通する部分はあるという。

 彼は無数の人間の、それこそ出会ったすべての人間の、魂の動きを観察してきたそうだ。

 そのデータを元にして、彼は正否の判断をしている。


 はい。

 ただしそれは、「人の思考が読める」というわけではありません。

 今回行われた実験の中では……こちら、わたしが読んだ文章の内容を当てられるかという実験で、正解率はゼロです。

 彼の能力が、テレパシー――あるいは思考転写ではない、ということが、わたしにもよくわかりました。


 ……しかしながら、特定の条件下では、彼はまるでそのような能力を持っているかのように、人の反応を、読む……こともある、が、いまはおいておこう。続けて。


 はい。

 ――加えるならば、今回は、彼が魂を見る感覚についても、一定の理解を得られたと思います。 

 その感覚は、五感の延長のようなもので、彼は特に視覚を頼りにしています。また、聴覚や、嗅覚を使って――〈見る〉ことも、彼にはできるようです。


 うむ。

 ……しかし、その感覚の根が、ただしく五感にあるのかどうか、断定はできない。

 既知の言葉で言うなら、第六感。

 あるいはそれよりもっと、上位的な何か。

 ――人智を超えたような。

 実際には、そのようなものかもしれない。


 わたしは、その感覚は、人としての五感に根ざすと考えます。視覚というのは、文字通り視覚ということです。なぜならば、〈魂を読む力〉を、五感の延長として表現するのは、〈彼ら〉に共通しているからです。さらに具体的には、ライリー博士との共同実験の際に、彼らから得られた証言がその裏付けになるでしょう。

 

 ふむ…。しかし、〈彼と彼女〉に関しては、生を受けたのは元世界でだ。

 超常的な感覚を得ていたとしても、その表現にまずは五感的な解釈が行われることはむしろ当然だろう。

 というよりは、その感覚を表す言葉自体が、彼らの周囲に存在していたかが疑問だ。

 あくまで代用としての表現だった──しかしやがて、感覚的にそのようなものとして根付いてしまった。そんな可能性も否定はできない。

 共同実験のときの、テスト28番のデータを見てみよう。このとき彼女は――――――――――――



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――。



 ……うん。

 今回もいい議論ができたよ。 少し喉が乾いたな。


 お茶をお淹れしましょうか?


 いや、水でいい。取ってくるよ。 ――――――――――――、 ふう。


 ……あの、博士。


 なにかな。


 議論のために、断定的に話しはしたのですが、

 わたしにはまだ、視覚化された魂――少なくとも、何らかの形で、彼が捉えている魂の形、というものについての、実感がありません。

 それは実際に、彼にはどのように〈見えて〉いるのでしょうか。


 ふむ…………。

 彼自身にも、上手く説明はできないことのようだから……難しいね。

 彼の言葉を借りれば、

「このぐらいのなにかが そこにあること」 だそうだが……。

 私としては、彼が見ているものは、多分に数字的なものだと思う。

 あるいは、0か1のようなものを。

 彼が口にした中でもっともわかりやすい表現を取り上げるなら、

 点滅。であると。 彼はそう、言っていた。


 点滅……。 光の──でしょうか。

 ……ずいぶんと昔の詩人に、なにかあったような。

 言惑的な……。


『わたくしという現象は……、』


 そう、

 ケンジ、でしたか。


 ふむ…。日本の詩人かな? 君の母国だね。


 あ、いいえ、わたしは、新中央の生まれです。


 おや…… そうだったのか。それはすっかり勘違いをしていた。すまない。


 いえ、両親は、ともに日本人ですので。 …疎開先で、わたしは生まれたんです。


 なるほど。




 ――先程、多分に数字的なもの、と私が言ったのは、

 彼の運動機能を見て、その説明として相応ふさわしいと思ったからだ。

 そもそも、彼ら――OS能力者たちは、動作の精密性が高い。

 中でも彼は、特にその面で、頭一つ抜けている。

 特徴としては、「動作の再現性までが高い」ということだ。……いや、高いというよりは、完璧だ。環境さえ同一ならば、位置取りも含めて、彼は完全に同じ動きを繰り返すことができる。

 ――プログラム、という概念が、一番近いと思うんだ。

 OS能力者たちは、自らの魂を通じて、自分の肉体を動かしている。

 いや、大なり小なり、この世界では、我々もそうだ。よって、これは程度差でしかない。 ただし、彼の特性は、この範疇に収まらない。

 我々の動作こそが、肉体感覚の延長上にあるものだとするならば、彼の動作は――そうだな――いい例えではないだろうが、産業用ロボットを、PCを通して動かすようなものか。

 OS能力の、深度――練度の差によるものなのか、あるいは特異体と呼ばれる彼独自のものなのかは、わからないが。

 ともあれ、彼は魂を数字的な特徴を持ったものとして捉え、自らのものについては操作することもできる。

 以上が、彼の動作に関する、私の意見だ。

 加えるならば、膂力りょりょくの強さ、思考の速度と方法、念動力等の超常の力に関しても、彼のこの〈操律コントロール〉とでも呼ぶべき能力は、関わっていると思う。

 とはいえ、単純な力の強さとしては、能力者たちの中で彼が最弱、というのは興味深いところだ。

 が、その辺りの――「強さの理由」に関しても、徐々に明らかになってきている。


 はい…。

 二人と比べたとき、彼の力は、数段弱く映ります。

 これは、「達成するための力」には、その人の意志が、とても強く関わるから、と考えられています。


 そうだな。

 実現力。

 というものが、この世界では大きく変わる。

 行使できる力の質――が変わると言えようか。

 根源たる魂より、〈力〉が直接発されたとき、

 通常を超えた手段を用いて、目的を達成することができるようになる。

 その最高に位置するのが、彼らOS能力者たちだ。

 彼らは例外なく――異常な存在だ。

 その中において、さらに彼には――他とは異なる特異性が見られる。

 …………では、彼らのデータも参照しながら、もう少し彼の力に関する考察を発展させてみよう。


 はい。

 それでは、第二回共同実験の、フィジカルに関する試験データから――――。


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