save24 回想 ルミランスター



   ■2■



 ルミランスターのリーダーと副リーダー、クリスとカーティスが、ダンジョンを歩いている。


 天然の洞窟は岩肌がむき出しで、ひんやりと冷たい。

 照明は、ダンジョンが誕生した時から変わらず壁面に埋め込まれている魔宝石。極めて明るく、周囲を照らす。通路によって、明度の差はあるが。


「あれ、ほじくり出して売ったら、ひとつでも一財産なんだよな」

「……重罪だぞ。あの時の飴玉とはわけが違う」

「冗談だよ」

「――長く付き合っていて、未だにこういうときの君の真偽が見抜けない。と思っていたんだが……最近思うんだ。要するに、全てただの本音なのではないか、と」

「…………」

「そこで沈黙しないでくれよ」


 軽口、というわけでもない、会話を滑らかにするための潤滑剤。

 カーティスが、装いを変えた口調で話し始めた。

「あの坊主――、マルコについてなんだが」


 マルコは、ロイドが、メンバーに加えることを決めた。

 勇者であることを明かし、作戦への協力を要請した。

 そのマルコは、ロイドに連れられ、ドラゴンを見に行っている。

 そう、見に行っている。文字通り、ロイドが自分の目で見て、確認するために。その付き添いとして。

 ザスーラとユキも、そこに加わっている。


「なんであの子供を加える必要があるのか。

 勇者さんには、果たしたい目的があると。それは叶うかどうかギリギリのものだと。

 だからこそマルコの力を借りたい。長い直線の通路、そこで足止めをして欲しい。――という理由。だが他になんとでもできるだろう。あんだけの用意があるんならな。

 攫われたフェリエって娘のことも、大丈夫だと言い切っていた。

 うちのお姫さまのこともだが。

 …………。

 俺は正直、あの人のことも、ちょいと不審に思っている」


 クリスは、黙って聞いている。

 カーティスはパーティーの中で、皆が肯定するなら自分は否定する。またはその逆も。そんな位置に、自分をおいている。

 斜に構えた彼自身の性格もあるだろうが、本来の自分の好き嫌いがどうであれ、その視点を貫く彼の姿勢には、助かっている。

 そのカーティスは一つ息を吐き、口の端をわずかに曲げて、言った。


「まあ、そうは言っても、あの人のこと、ほとんどまったく知らないからな……」

「ああ……」

 クリスは、思う。

 勇者になったばかりと言ってはいたが、そういうことだったとは。

 レベルが1。

 出身地はおろか、出生地を持たぬという、大勇者アルドと同じ特徴を持っていたとは。


 クリスはロイドと初めて出会った日のことを、思い返した。



    ◆ ◆ ◆



 はあ…………。


 ため息が見えない霞のように、部屋にただよっていた。

 ルミランスターの四人は、憂鬱な気分を抱えて、それぞれの席に腰を下ろしていた。

 場所は、王都ルミランスにある彼らの事務所。その一室。


 王都に所属する公務冒険者唯一のAクラス。並びに、これまでの貢献を称えて。そうした理由で、王室より直々に、パレードの先導を任された彼ら。

 皆、光栄に思わないはずもなく、特にリーダーのクリスが、張り切っていた。

 だが、突然の魔王襲撃により、なにをすることもできずに蹴散らされた。

 目の前で姫をさらわれ、彼女と共にいた国王陛下も、気絶させてしまった。


 その、直後の現状である。

 特にひどい落ち込み方をしているのが、クリスだった。そのような彼だったが、リーダーとして、仲間を気遣う気持ちで、重い目線を上げる。

 ザスーラ。ユキ。

 二人はそれぞれの様子で、忸怩たる思いを、あるいは噛み締め、あるいは涙に浮かべている。

 カーティス。 ……幼馴染で、頼れる副リーダー。彼はなにか真剣な様子で、黙り込んでいる。

 その様子がふと気になり、クリスはカーティスに声をかけた。

 カーティスは、物思いから覚めたようにして、

「ああ……」

 漠然とした口調で答えた。

「……なにを、考えていたんだ?」問う。

 カーティスは、少し間をおいてから、口を開いた。


「そうだな……。

 俺は正直、このパーティーがいまいちパッとしないのは、クソダサいパーティー名と、その活動方針のせいだと思っていたんだ。

 けど、要は俺が拗ねてただけだってことが……、だけってことはないにしても、よくわかった。

 少しばかり気合を入れ直すかな、と。そんなことをな。思っていたところだ」

 ……ただ、パーティー名へのヘイトを改めるつもりは毛頭ない。

「――そうか」

 クリスは、苦笑して答えた。


 その数日後。


 ルミランスターは一つの仕事を終えて、事務所にて後処理を行なっていた。

 プロとして、気持ちを切り替えてはいる。

 ただ、どうしても、晴れない気分は残っていた。

 雪辱の機会を得たいとは思う。だが、特殊な事情ゆえにそれもできない。

 そんな難しい気持ちを抱えているクリスのもとに、一人の事務員が足早に近づいてきた。


「クリスさん、ただいま玄関に、アルカディア商会の方が見えています。

 その方から、こちらの手紙をお預かりしました」

 手渡された封筒、押してある印は、王家御用達の名のある商会のもの。

 そして差出人の名前を、正しくはその肩書きを見たとき、クリスの目は見開かれ、心臓は跳ねた。

 すぐさま封を開けて、内容を速読する。そしてパーティーの三人にも声をかけ、そのことを伝える。

 四人、揃って玄関まで向かう。

 一流の礼儀と作法を持って、待っていた男性に迎えられる。

 そうして、停めてあった馬車に彼らは乗り込み、目的の場所に向かって運ばれ始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る