第24話 ヴァルプルギスへのチケット
ヴァルプルギスの夜
古来、ドイツでは冬の終わりの夜に魔女や
と、ここまでは人間の伝承まんま。
しかし悪魔の世界にも時勢というのがあってね。時間の流れと共にヴァルプルギスの夜も儀礼的な物に劣化していったんだわ。ま、分かり易く言うと週末にクラブで開いてたイケてるパーティが年に一度の町内盆踊りになっちゃったワケ。
続けるよ。
内容の変化に伴い参加者の数も年々減っていき衰退の一途を辿っていくヴァルプルギスの夜。裏腹に人間たちの世界ではいつしかヴァルプルギスの夜を楽しもうという風潮が現れ始めた。科学の発展で夜が明るくなったゆえである。そうしてあっと言う間にヴァルプルギスの夜は人間たちに横取りされてしまった。しかし悪魔の方でも嘆くものは数少なかった。そんな時、一匹の悪魔が立ち上がった。
通称「酔いどれキャレイド」である。
彼は人間たちからヴァルプルギスの夜を取り戻す為、
そこでキャレイドは、引退前の最後の仕事として開催日時の変更を発表した。その時からヴァルプルギスの夜は今日ある通り、十二月三十一日に行う様になったのである。
以上、アクぺディアより引用。
「とまあここまでが、自称宗教家のクセにろくにヴァルプルギスの夜の知識がないセンセの為のエクストリームヴァルプルギスの夜講義、でした」
「なーにがエクストリームだ。アホみたいな声を出すな。頭に響く」
「頭に響くのは中身が入ってないからですね。お気の毒に」
「にゃにおう!!」
顔や年齢が変わっても、人の中身なんて早々変わるもんじゃない。源田は見てくれこそピチピチのイケメンになったが、口を開けばやっぱりムカつく豚ジジイだった。
あたし達は今、ヨハネ三番目の騎士を呼び戻し、馬の背に乗っている。「
まあ幾ら何でも馬でドイツまで行こうってんじゃないぜ?そこまでは流石に他の手段を使う。馬じゃ海は渡れない。
それに叔父さんも言ってたけど今や『ヴァルプルギスの夜』は悪魔だって参加するのが難しいくらいの人気イベントになっちまっている。
だけどチケットがあれば別。入り口ははどこにだってある。
「さあ、着きましぜセンセ」
「なんだあ。もうドイツに着いたのか。随分早かったなあ」
「さすがセンセ。これからパーティに行くってんだ。それくらいオメデタイ脳みそじゃなきゃね」
「なんだそれは?どういう意味だ?」
ひとまずあたしは源田を無視して、馬から降り辺りを見回す。
うらぶれた海辺の倉庫街。人気もなく静まり返っている。まだ夜の時間だ。
「おいメフィスト。私の話を聞かんか。どういう意味ださっきのは。おい。なんだここは。どう見てもドイツじゃないぞ」
「センセ。黙ってて下さい。口から馬鹿がこぼれてますよ」
叔父さんの言う通りなら入り口はここら辺のはずだ。あたしは相変わらずブツブツと年寄りじみた文句ばかりの源田を置き去りにして詮索を始めた。
そこらを嗅ぎまわっていると、ある方向からとんでもなく香ばしい臭いがしてきた。この場合の香ばしいは物質的な意味じゃなくて、キナ臭いというか胡散臭いというか。有り体に言っちまうと懐かしき故郷の香りだな。何処かで微かにだが、地獄の炎がチラついている気がしていた。
その時ふと、あたしは気配を感じ取る。今まで誰もいなかった筈の背後にショボくれたじいさんがひとり、呑気そうにタバコをふかしてる。あたしはじいさんに近づく。
「よおじいさん。景気はどうだい」
じいさんは一瞬だけあたしの方を見て、またすぐに虚ろな視線に戻った。
「なんだこの失礼で小汚いじじいは」
いつの間にか後ろにいた源田がすかさずじいさんに侮蔑の言葉を浴びせる。自分だって少し前まで小汚くて失礼なオッさんだった癖に。
「このじいさんが恐らく、あたし達が探しているもの。もしくは探しているものを知っている者です」
「なに?このクソじじいが?」
ホントに汚れない魂なのかねこの人は。
じいさんは源田になんと言われても知らんぷりでただただタバコをふかしてるいる。
「困ったなあ。シカトかよ」
「おい!どうするんだメフィスト!リリスちゅわんに会えなかったらお前のせいだぞ!!」
「勘弁して下さいよセンセ。いい歳こいて恥ずかしい」
「にゃにおう!」
あたしらが口論してるのを見てじいさんが突然笑い出した。
「ふぇふぇふぇふぇ。そんなに『夜の女王』に会いてえかい。人間のクセに変わってんなあ」
この瞬間にじいさんがあたし達側の生き物である事が確定した。あとはどう聞き出すか。
「なあじいさん。あたし達ヴァルプルギスの夜に行きたいんだ。今回のゲートはどこだい?」
ヴァルプルギスの夜は人間との邂逅避ける為世界中に複数のゲートが存在しているがその場所も毎回変わる仕組みになっている。
真っ当な悪魔ならゲートの近くに必ずいる門番に案内してもらえるのだが、どうやら今のあたしは真っ当な悪魔に見られていないらしい。
「人間をヴァルプルギスに連れて行くのはご法度だ。そんくれえ、ねえちゃんでも知ってんだろう?帰んな」
「なあじいさん。そんなこと言わねえで頼むよ。あたし達はリリスの護衛に行かなきゃいけないんだ」
「ダメだ。人間は通さない。たとえねえちゃんが夜の女王の身内だって言っても、俺ぁテコでも動かねえぞ」
じいさんは強情だった。
「おいじじい!!いい加減にしろ!ケチケチすんな!ひとりくらい良いだろう!」
源田はついに痺れを切らしじいさんの胸倉を掴んで恫喝しだした。弱い者にはトコトン強くでる。最低だね。いや、最高か?
しかしじいさんは微動だにせず静かに口を開いて言った。
「ガタガタうるせえぞ糞ガキ。人間風情があまり舐めた口をきかねえ方が良いぞ?お前とこのねえちゃんがどういう契約を結んでるかは知らねえが、悪魔ってのは人間みてえに同族間での馴れ合いはしねえもんなんだ。例え仲間の主人だとしてもカンに触る奴は容赦なく内蔵を引きずり出す。分かるか?」
「ひぃぃぃっ」
源田は自分よりも小さくて弱そうなじいさんに脅かされて情けなく後ずさりした。
しかし困ったな。どうすりゃ良い。あたしは頭を悩ませる。
「あんまりこのキャレイドを甘くみねえこった。歳はとっても人の血肉の味は忘れてねえぞ。ふぇふぇふぇふぇ」
あたしはその名前を聞いて思うところがあった。
「センセ。ジイさんがどっか行っちまわないようにしばらく此処で見張ってて下さい。あたしはちょっと叔父さんに連絡してきます」
「なんだと!?馬鹿者!こんな危ないじじいと二人きりにするな!!殺されちゃう!メフィスト!お願い行かないで!!」
「良いから!ここにいろって!」
源田を振り切ってあたしは少し離れた場所に行く。
周りに人気が無いのを確認して地獄の炎、ニッキーを呼び出す。
「ニッキー、悪いけどアマル叔父さんに繋いでくれ」
連絡用の青い炎の中からアマル叔父さんが浮かない顔を出した。
続く
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