第20話 楽園の蛇
しかし三人目とは。マジでしつこい展開だ。良いかげん話を進めさせてくれねえのかコイツらは。というか、同時にボスキャラも出現してるじゃねえか。
「2Pカラーの次は隠しキャラかよ。まさか四人姉妹とか言わないよな?」
「我々は三姉妹です。というか、貴女がどういう方か存じ上げないし何を仰っているか理解できませんがこの状況から察するに、貴女は我々の敵。しかもかなりお強いとみた」
「まあね。お察しの通りさ。だが間違っている事もある。あたしはお前さんたちの敵じゃない。喧嘩を吹っかけてきたのはそちらさんだ」
「いやいや、だとしてもやっぱり貴女は我々の敵だ」
「なんでだよ。違うってんだろ」
その言葉に少女は可愛い顔を歪ませて血管を浮き立たせる。
「何が違う?最初がどうあれこっちは身内の二人がここまでヤられてんだ。ここまで来ちまったらどっちが先ぃ手ェ出したなんざどーでも良いんだよ。テメエを殺さなきゃ、落としどころが見つからねえんだ」
ヤバい。コイツは多分ヤバい。実力は勿論だが、イカれ具合も三人の中で断トツでヤバい。
「だから
「あたしの事かよ。随分だな」
「事実だろ。なにしにここへ来た。なんで妹らをブチのめした?」
「あたしはオーナーに会いに来たんだ。そしたらコイツらが勝手に絡んできたんだよ。ていうか、この質問はもう三回目なんだ。良い加減うんざりだ」
もうコイツらってば同じ顔で同じことばっかり言ってる。まだ
「こっちぁテメエが何しに来たか知らねえから聞いたまでだ。ここを仕切ってんだからそれくらい当たり前だろ?」
「その割には妹たちは大したこと無かったなあ。あたしが察するにお前さんが馬鹿みたいに強いだけか?コイツらはそれを後ろ盾にして偉ぶってるだけの小物なんじゃねえか?」
「見当違いだな探偵さんよ。確かに妹たちは弱い。だが私も大して強いわけじゃない」
「じゃあなんでここを仕切れてるんだ?」
その時、まさに雷鳴のような、物凄い声が響いた。
「ゥオラアアアアア!マシロォォォアオイィィィィ!」
「パパ!?」
「オヤジさん!?」
目の前ではさっきまでノビていた少女二人が怒号によって跳ね起きる。
声の方向に視線を動かすと、酒の瓶を片手にくわえ煙草で歩いて来る男が見えた。
男は長身で長髪。歳の頃は三十代前半に見える。黒い革のライダースジャケットを素肌に着込み、身体中のそこかしこに彫られた刺青がチラチラと見えている。
男が時々口をつける酒の瓶のラベルにはスピリタスと書かれている。強い酒だ。それをバカみたくラッパ飲みしてる時点で、コイツが人間じゃない事が容易に察せる。
衣服や肌についた酒に時々煙草の火の粉が引火して、ボッボッっと火の玉が発生しているのだが、この男は全く気にしていないようだった。
「おい、マシロ、アオイ。テメエらいつまで俺を待たせんだ?テメエらが『すぐ戻ります』『三分で戻ります』って言うから待ってんのに、もう五分も経ってんじゃねえか!消し炭にすんぞコラ?」
男は少女たちに煙草の煙を吹きかけ凄まじい勢いで睨みつけている。
「ゴメンよパパ。すぐにコイツを片付けて、戻るから。あと一撃で倒せるから」
「あと?一撃だ?」
男はこっちを見て、あたし状態を確認しているようだった。
「はい!オヤジさん!もう好きにはさせません」
「おい。くだらねえこと言ってんじゃねえぞ。テメエら二人揃ってんだ。ハナっから一撃で仕留めろよ馬鹿野郎!息する隙を与えてる時点で、テメエらの負けだろうが!」
そう言うと男は身体中から凄まじいプレッシャーを解き放ち、二人の少女達を圧倒した。
「テメエらは負けたんだよ。真剣勝負で一撃必殺が出来なかった時点でな。そこに正座しろ。俺が消し炭にしてやる」
男は突然手に持っていたスピリタスを少女達にブチまけた。信じられるかい?そんな理由で燃やされてたまるか。
「ゴメンなさいパパ!」
「オヤジさん、勘弁して下さい」
少女達は必死に陳謝する。
「ヌルいこと言ってんじゃねえよ」
あたしは別にこいつらを助ける義理はないんだけど、ひとまず火あぶりは後回しにしてもらって先にあたしの話を聞いてもらうことにした。
「あのーお取込み中んとこの悪いんだけど、アンタさんがここのオーナー?」
「ああん?」
男は火の着いた煙草を投げようとした手を止め、物凄い迫力でガンつけてきた。
「父上。どうやらこの娘がマシロとアオイをボコボコにしていたようです」
「はあん。コイツかよ。ウチで暴れてるって頭のイカれたネエちゃんは」
男はこちらに向き直り、ゆっくりと歩いてくる。
「ここが誰の
「楽園の蛇。かつて原始の人アダムの妻イブをそそのかして、二人に知恵の実を食べさせ楽園追放の原因となった蛇。通称失楽園事変の立役者。それが楽園の蛇でしょ?」
「見た目と違ってガリ勉じゃねえか。良い心がけだな。ビビるんじゃねえぞ。テメエは今、その伝説を目の前してるんだぜ?」
「と言うと?」
あたしは努めて冷静に反応した。
「俺がその立役者、楽園の蛇、アマル様だ。恐れ敬え、小娘」
男は決め台詞を放ちこの上ないドヤ顔をあたしに向けていた。
「へぇ」
あたしはなるべく心を込めずに言った。少しだけ、悪戯心が働いてね。
案の定男は烈火の如く怒った。顔中に血管が浮き出るくらいに。男の目が爬虫類の様に鋭くなってあたしを射抜いた。
「テメエ。俺を舐めてるな。あんだその顔は?クソ腹が立つ。テメエから消し炭にしてやる。今すぐだ」
男があたしにスピリタスの瓶を投げてきたのでサクッとかわしてやった。あたしは終始、目を逸らさずに相手の爬虫類みたいな瞳を見つめていた。
「おい。良い度胸だな。いっちょまえにガンくれてんのかよ。コイツら二人をブッ飛ばしたくらいでいい気になってるな。面白え。後悔させてやる」
「……」
あたしは沈黙する。ただじっと、相手を見つめている。
「ダンマリか?気に食わねえなあ。……しかし……なんだあ?どっかで……」
男の表情が怒りから疑問に変わってゆく。さあ、果たして気がつくのだろうか。
「待てよ……テメエの顔は知らねえ。俺は一度会った奴の顔は忘れねえからな。だがその目だ。その炎の様な目はどっか会ったような……」
「オヤジさん。ホントにコイツと知り合いなんですか?」
「うるせえ。黙ってろ。今思い出してる」
男は考える。イライラしながら。頭を掻いて思い出そうとする。
そしてハッと、顔を上げる。
「お前……もしかしてメフィストか?」
あたしは思わず顔がニヤけちまう。
やっぱり。この人なら思い出してくれると思った。
「久しぶりだね。アマル
あたしは伝説の立役者、『楽園の蛇』にハグを要求した。
続く
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