第17話 三色姉妹 マシロ
「テメエ。テメエみたいな糞ビッチはこの二本の牙で死ぬまでファ○クしてやるからそう思え。楽にはイカせねえぞ?」
「イノシシか‥」
短気で煽り耐性がなくて、馬鹿な発言が目立つコイツの正体はイノシシの悪魔。テンプレみたいな化け物だな。だがイノシシとくれば攻撃方法も想像し易いし、自ずと対処法も解ってくる。
「二流悪魔ごときが、このマシロ様に喧嘩を売ったらどうなるか。後悔させてやる!」
マシロと名乗ったそのイノシシ悪魔はデカい声で叫び、猛スピードであたしに突っ込んできた。
あえて言おう。かなりスピードだった、と。あくまでかなりの、だ。速かったよそりゃあね。だけどあたしに言わせれば、「なんか駆け出してんなコイツ」程度にしか感じないレベルの速さだ。
あたしは人気の闘牛士さながらに、ごくギリギリのとこでヒラリと身をかわす。
だがその瞬間、予想外のことが起きた。後頭部に鈍い痛みが走り気が付けば地面に膝をついていた。即座にこれはマズいと思い上に高くジャンプする。
下ではさっきまであたしが膝をついていた場所をイノシシ悪魔が重機みたいに通り過ぎていくところだった。
少し離れて着地すると、イノシシはこっちを向いて高笑いしてやがった。
「ははは。上に逃げたのは良かったなあ。でもテメエ、アタシを舐めすぎだよ」
「なんだと?」
「テメエはアタシがイノシシの悪魔だからって真っ直ぐしか進めねえと思っただろ?
「本当によくペラペラと。聞かれてもいねえのに喋るなよ。バカだってアナウンスしてんのか?」
「何とでも言えよビッチ。あと二、三回も攻撃を当てりゃテメエの動きは鈍くなる。そうなりゃ、こっちのもんだ。ゆっくりフ○ックしてやるからよ」
「御免だね。てゆうか、イノシシの癖にちょこまか動いてんじゃねえよ。面倒くせえ」
「イノシシだから機敏な動きが出来ないなんてナンセンスだな。テメエは発想が貧困なんだよ」
コイツの高笑いはいちいちムカつくんだよな。
「さあてもう一回イキますか!!」
イノシシは更にスピードを上げて突っ込んでくる。さっきよりもかなり速い。
勿論、あたしにとっては遅いけど。
あたしはさっきと同じ様にギリギリのとこでヒラリと身をかわした。
「無駄だっつってんだろおおお!!」
イノシシは吠える。そうだな、確かに無駄だ。
あたしは身をかわした次の刹那、イノシシの方を向いてヤツの額にカカト落としをキメる。
「ぐぅえああああああ」
ヤツが額を痛がったので、少しだけ動きが止まった。間髪入れずに腹部に思い切り蹴りを入れてやった。今度は向こうが地面に膝をつく番だった。
「お前さんがあんまり親切に教えてくれるからあたしもそれに
「テメエ……何言ってんだ……」
「ああバカには文字数が多くて理解できないか。ゴメンゴメン。つまり、お前があたしの先を読んだ後、あたしが更にその先を読んだってこと。いやいや認めるよ?お前だって結構な速さだよ。確かに速かったさ。だがあたしのスピードとは次元が違うんだよ」
あたしはうずくまっているイノシシ悪魔を足蹴にしながら尊い説法をくれてやる。
「テメエよりあたしが速く動けないなんて思うことがナンセンスだな。テメエは発想が貧困なんだよ」
あたしはペナルティキックをキメるサッカーのスター選手の様に、マシロを思い切りシュートしてやった。
ヤツは通路の壁をぶち破りフロアまですっ飛んでいった。
「うあ!なんだよいきなり!」
「おおい、コイツ三色姉妹のマシロじゃねえか?」
「なんでこんな凶悪なヤツがぶっ飛ばされてんだあ?」
フロア中大騒ぎ。良し。イケる。コイツ一匹ならなんとか片付けられる。
ひとまずコイツをシメれば、オーナーが出てくる筈だ。そうなればもう少しマトモな話合いができる。
その時のあたしは能天気にそう考えていた。
だがそれは大きな間違いだった。
その間違いに気付かせてくれたのは実に甘ったるい、ある種オフクロと似た部類の声の主だった。
「ちょいとシロ豚ぁ。さっきからなにドタバタやってんのさ。売り上げ報告が聞こえねえって、パパがブチ切れ寸前だぞテメエ」
甘ったるい癖にエラく馬鹿でかい声で、まるで脳みそに直接聞こえてくるみたいだった。
声の方に振り向くとそこにはさっき蹴飛ばしたばかりのイノシシがまだ変化する前の姿と瓜二つの浴衣少女がいた。そいつは蒼い浴衣と蒼い髪。ソイツの瞳は血の様に赤かった。
おいおい。仲間来るのが早過ぎだろ。っていうか、2Pカラーがいたなんて、聞いてねえぞクソッタレ。
そう、思った。
続く
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