第2話 子猫と料理長
そこはこの世界の中心。火の海のど真ん中にある。形容するなら、まあローマの
そこら中に炎が燃え盛り、叫び声が飛び交うところ。ありとあらゆる
あたしが好きなのは、やっぱり火をつかうこと。火っていうのはあたしらの象徴みたいなもんだ。だから自由自在でシンプルかつ、使う奴のセンスが出る。
ただあぶりゃ良いってもんじゃない。一番大事なのは、ギリギリまで相手に希望を抱かせて後にたたき落とす事。「おっ?なんだ?案外平気じゃん?」って顔をした直後に苦悶に歪む。その表情がたまらない。
ちりちりと自分の焦げる音を聞きながら正気でいられるヤツはそういない。慈悲を乞うヤツ泣き叫ぶヤツ色々いるが結局は皆消し炭になっちまう。最後にその臭いを嗅ぐのもまた良いもんだ。達成感がある。
あたし等はそんな事をしょっちゅうやっては腹を抱えて大笑いする。なんでそんな事をするかって?理由は簡単。
ていうか、アンタもうすうす解ってんだろ。
そう。ここは地獄だ。
比喩表現じゃねえぞ。正真正銘の地獄。そこに住まうあたしらは悪魔。もう長い間繰り返しこういう事をしてきてる。拷問やいたぶりがあたしらの仕事であり、あたしらの生き甲斐。そして趣味なんだ。
こいつが嫌いな悪魔なんていない。少なくともあたしはお目にかかったことはないね。仕事が趣味と生き甲斐を兼ねている。だからあたしらは幸せ。とってもね。
「おおっ。やってるやってるぅ。おーい。ベルちゃーん」
あたしは群衆の中に見知った顔を見つけて声をかけた。
「おお
屈託の無い笑顔をこちらに向けながら大きな鍋をくるくるとかき回すベルちゃん。その様子はさながら下町の料理屋の主人といったところだが鍋の中身はちと刺激的だ。
「今日はどんくらい煮込んでるの?」
「なあに少ないもんさ。今朝は不景気なんだ。七、八十ってところかな」
大鍋の中を覗き込む事は叶わないがおおよそ見当はつく。なにせたまにイキの良いヤツが鍋から這い上がろうとしてそのヘリを掴もうとするが、すぐさまご自慢のナイフで指を残らず切り落とされる。
そう。ベルちゃんは人間を生きたまま煮込んでいる。通称地獄の烈火の料理人。ま。あたしにとってはただの近所のおじちゃんってとこかな。
「もう父ちゃんには会ってきたのかい?」
ベルちゃんは切り落とした指をモグモグやりながらあたしにもどうかと進めてくる。
「要らない。まだなんだ。どこにいるか知ってる?」
「さあて。いつもどこかフラフラしてるからね。全く。もっとしっかりして欲しいもんだ」
おどけながらウインクを投げてよこすベルちゃん。あたしは人間とそう変わらないサイズだがベルちゃんはその五倍の体躯をしてる。真っ赤な肌にヤギみたいな角。目は蛇みたいで下半身はあたしと同じ蹄だがかなり馬鹿でかい。針みたいなヒゲだらけで最悪な見てくれだけどベルちゃんはとってもキュートなおっさんだ。
「兄弟なんだから、ベルちゃんくらいしかそういう意見できないでしょ。」
「聞かないよ。兄貴は昔からね」
あたし達は互いに見合わせて笑う。
親父とベルちゃんは兄弟だ。はっきし言ってマジで似てない。ベルちゃんはいかにも悪魔って感じの風体だけど親父は違う。どちらかというと真逆の者って感じ。
「それはそうとケティよぉ。今日は気を付けた方がいいぜ」
「へ?何が?」
珍しくベルちゃんが真剣な表情で言う。これは本当に珍しい事だ。
「今日はお客が来るらしいからな」
「どこから?」
無言でベルちゃんは上を指差す。ははあ。そういうことか。面倒だなあ。
「なんでまた?」
「知らんよ。アイツ等の考える事なんてな」
ベルちゃんもあたしも不機嫌な顔になる。
その時、どこからともなくあの不快なラッパ音が響き渡った。
続く
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