三
「助けに来てくれてありがとう」
「あぁ。もうすぐケンが参ろう。それまでは逆撫でせぬように」
「分かってるよ。さすがに怖いもん。ねぇ、聞いてもいい?」
返事の代わりに、カラスの姿の天狗は胸を張って翼を広げる。
「天狗さんはカラスの姿だとどうして光ってないの?」
他の神様はみんな光っているのだ。付喪神は少し光が薄いけれど、それでも光っている。光ってないのはカラスの姿の時の天狗さんだけなのだ。
「神とは本来、姿を持たない。だがこの七日間だけ人々に姿を見せるため、光と影を用いて姿を作るのだ。我のカラスの姿は元からある姿である故、そこに光はない」
「え? 元からって、七日間以外にもカラスの姿で飛んでるって事?」
「勘違いするな。我でなくとも神々は皆、見えぬだけでいつも存在している。我ら天狗はカラスの姿を持っているというだけだ」
天狗は言った。その言葉がなんだか難しくて半分ほどしか分からないけれど、言いたい事は伝わった。
「じゃあ天狗さんの人みたいな姿の方は、見せる為に作った姿って事?」
「あぁ。書物を参考にしたのだが、おかしいか?」
「おかしくないよ。ねぇ、付喪神は?」
「付喪神は元となった物があるのでな。人と話せるように作り変えるだけでいい」
だから光が薄いのだなと納得した。
「おい!」
急に、慌てた声で男が呼ぶ。行ってみると、汚れたバケツを示して「水を汲め」と命令された。船はそのまま速度を緩めて止まる。
訳が分からないまま水を汲んで差し出すと、男はバシャッと私の頭からかける。
「計画変更だ。水上警察が近くにいる。お前はこのカバンと一緒に海に捨てられた所を、俺に助けられたんだ。いいな?」
「分かった。中のお金はどうするの?」
計画があまりに穴だらけで、思わず聞いてしまう。
「うわっ! そうじゃねぇか、金! 今から詰め替えるって言ってもな……クソッ!」
どうするのかと見ていると、男は作り付けの長椅子の座る部分を開ける。その下は釣竿なんかがごちゃごちゃと入っている入れ物になっていた。
「入れろ、入れろ! 急げ!」
私は男に言われた通りにお金をそこに移していく。
どこからともなく溜め息が聞こえた。
馬鹿だなと思いながらも、溜め息の向こうからケンが水上警察を引き連れて飛んで来るのを見ると安心した。
そこからはあっという間に警察官が船に乗り込んで来て、言い訳をする間も与えられずに男は手錠をかけられる。
「ミシマ、イヤ。誘拐の現行犯で逮捕する。銀行強盗についてもしっかり聞かせてもらうからな」
「何でだよ! 拾ったんだよ! なぁ、ガキ! そうだよな?」
必死で訴える男の腕を抑え込む警察官が、落ち着いて言う。
「お前なぁ、神様とお前と、どっちの話を信じると思うんだ?」
それを聞いた男はようやく諦めたのか、しゅんと大人しくなって連行される。
別の警察の船に乗った私たちも、話をする為に警察署へ向かう事になった。その途中でケンが私に言う。
「遅くなって本当にごめんね、コヤネ。大丈夫だった? 怪我してない? 何も酷い事されなかった?」
「大丈夫だよ。天狗さんが見つけてくれたし、ずっと色んな神様が近くにいてくれたしね」
「いや、これは僕の責任だよ。危ないと分かっていたのだから、昨日のうちに何とかしておくべきだったんだ。浄化できなかったのがいけなかったんだよ……」
落ち込んでいるケンを励ましたくて言葉を探す。
「あの犯人さ、すっごいクズだったよ」
「え? うん。まぁ、そうだろうね」
ケンが首を傾げる。
「あんなの浄化できるわけないもん。ケンがあんなクズの為に責任感じる必要ないよ」
「ありがとう」
ケンは笑って私の頭を撫でた。それから二人で天狗にお礼を言うと、天狗はどこかへ飛んで行ってしまった。
ケンによると、天狗というのは風が吹くような性格をしているのだという。
「他の神様たちにもお礼を言わなきゃ」
「大丈夫。伝わってるよ」
それから港に着くとパトカーに乗り換える。空でも飛べるのに一緒に乗り込んでくるケンに少し笑ってしまった。
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