「お待たせしました。すぐに作りますから、お話でもして待っていてくださいね」

 神様がミチネの目をじっと見て言う。その表情は笑顔のままだ。

「そうね。ねぇ、あなた何の神様なの?」

 何も気にしていない様子で、ミチネが神様に聞く。

「この瞳と同じ色の茶碗ですよ」

「ふぅん。その茶碗って神器って事になるのよね? それなら私に頂戴よ」

「茶碗はもう、こちら側には無いんですよ。私と一緒にあちら側へ行ったのです」

 ミチネと男は残念がっているけれど、私は神様の言うあちら側というのが気になった。

「あちら側って死んだ人もいるの?」

 私が聞くと、神様は手を止めてから頷いた。

「いるよ。君のお祖父さんもね」

 そして神様は二人にスープを出す。ミチネのはとろりとした紫色のスープ。男の方はクリームスープのように見える。

「お待たせしました。後悔ナスと渇望キノコのスープです。そちらは愛欲カボチャのスープになります」

「お! 奇抜な名前だな。面白いじゃないか」

 男の人の言葉に過剰に賛同して、二人がはしゃいで写メを取る。そんな楽しそうな様子を見たくもない私は、さっきの話の続きを質問する。

「死んだ人はみんな?」

「そうだね。みんなだよ。時々、神様になっちゃう人もいるんだけどね、ほとんどの人はしばらく経ったら次の生を生きるためにこちら側に戻って来るんだ」

 神様がコトンコトンと洗い物を始める。

 ミチネが私の方を向いてにこやかに言う。

「あなたは若いから知らないのかしら? 死んだ家族が神様になって神々の七日間に現れたりするのよ。よっぽどの人格者とかでしょうけどね」

「そうだぞ。うちの曽祖父の祖父も神々の仲間入りを果たしたのだが、やはり当時の戦で仲間を守って戦い、戦神と呼ばれた人だった」

 そう男がすかさず自慢する。

「えぇ! 凄いじゃない! やっぱり、あなたも凄い人だものね。社長さん」

「俺はまだまだ。たいした事はないさ」

 二人の会話に脳みそが沸騰するのを感じる。この人がサグメの母だと知っているから腹が立つ。


――まだひと月なのだ。


 腹が立ちすぎて頭が冷たくなる。そうかと思えば顔が熱い。お前たちが死なせたんだろうと、今にも怒鳴りだしそうだ。

「おい、おいって」

 雑兎が私を呼びながら、慌てたように叩く。

「なに?」

「何じゃねぇよ。落ち着けって」

 雑兎は私の頭の上を見ている。そこへ手を伸ばすと、黒い煙の塊が蠢いて目の前に落ちて来た。

「ひゃっ⁉」

 私が悲鳴をあげると、神様がお玉を振り上げて光を発した。

 神様が何をしたのか分からないけれど、黒い煙は木戸の中へと逃げて行く。

「今の何なの⁉」

 ミチネの声を無視して、私は台所庭へと煙を追いかける。


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