二
「ちょっと頭がアレだったのよ。弱い子だったって事ね。来年から高校生って時に、本当にご両親が可哀想だわ。なんか学校を訴えるとか言ってたわよ。あんたじゃなくてよかったわ」
バン! と、私は思わず机を叩いた。
「私の友達なんだから悪く言わないでよ! それに悪いのは親なんだよ! サグメはいじめられてなかったんだから! 何度もそう言ってるのに誰も聞かないの可笑しいでしょ!」
キッと睨み付けると、母が椅子を蹴りあげた。
「何よ! せっかく励ましてやったのに! だいたい、悪いのは自殺する親不孝な娘よ!」
私は食べていたコンビニ弁当を母に投げつける。
母は暴言を吐きながら家を出て行った。
床に散らかったご飯を見下ろしながら、ひと月前に自殺したサグメの事を思い出して涙が止まらない。
何をするでもなく、私も家を出た。
昼は薄着でも過ごせる今の季節でも、やっぱり夜は寒い。神々の訪れを知ってか、見た事がないくらいの星が空で瞬いている。
「なんで……」
なんで神々の七日間を目の前にしてサグメは……。そう考えるとこの星空も美しいとは思えない。
母が口を開けば他人の悪口を言う人だという事も、怒りっぽくて暴力的だという事もよく知っている。
いつもなら我慢してやり過ごせるのだけれど、サグメの事に関しては無理だ。
ぼうっと歩いていて駅に来てしまった。家出をするつもりはないけれど、少しでも遠くに行きたいからだったのかもしれない。
切符を買ってホームで電車を待っていると、アナウンスが流れる。
『ただいま鉱石駅にて列車事故のため、到着が遅れております』
私の前に立っているカップルがスマホを出して「人身事故らしい」と話をしているのが聞こえた。
電車に乗るのをやめ、私は歩く事にする。
色々な店が並ぶ大通りも、ほとんどの店は閉まっている。みんな休んで神様に会いに行っているのだろう。
コンビニだけは灯りが点いているけれど、無人だ。
通った車もまだ二台だけ。歩く人もいない道を狭い方へと進んでいくと、亀池公園の案内が見えた。あそこには年中なにかしらの屋台が出ているのだ。
どうせ一軒もやってはいないだろうけれど、私は亀池公園に向かう事にする。
亀と梅の花が有名な亀池公園。有名とはいっても、こんな日に人気がない程度だ。
近くに大きな神社が無いのが原因だろう。
池の脇の散歩道を歩いて、その先にある屋台広場に出る。そこには十軒以上の店が並んでいるけれど、やはりどの店もやってはいないらしい。
閉まっている店の間をふらふらと歩いていると、一軒だけ明かりの点いている店を見つけた。『あったか亭』といういかにもな雰囲気の屋台だ。
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