ワールドネス エンドロウ
小林秀観
一日目
一
付けっ放しのテレビからは今日も同じニュースばかりが聞こえる。
『はい。こちらは伊勢神宮、内宮に来ているのですが、ご覧ください、この長蛇の列! お正月でもここまでの混雑は見た事がありませんよ! 深夜零時まで五時間と迫り、並ぶ方々にも興奮が広がります!』
『まるで境内が満員電車のようですね。さぁ、神々の七日間が始まるまでもう少し。どうか皆さまお怪我の無いようお気を付け下さい。それでは出雲大社へ行ってくれている須藤アナを呼んでみましょう。須藤アナ』
私はそれらを聞き流しながら、母に出されたコンビニ弁当を食べる。
「コヤネ。それじゃあお母さんはもう行くからね。この七日間、私は帰って来ないと思ってよ。あんたも、もう十五なんだから好きにしなさいね」
「うん」
傍らに立つ母は真っ赤な口紅に、普段は着ないような煌びやかな衣装を着て私を見下ろす。飲みに行くのだと一目で分かる。
「お父さんは?」
「知らないわよ。どうせ無言で部屋にこもるんだから、放っておきなさい」
母は忌々しいという顔を隠しもせずに言う。
一度「お父さんの事が嫌いなの?」と聞いた事がある。その時は「別に。彼氏じゃないんだから、夫婦なんてこんなもんよ」と言われた。
「用が無いなら行くわよ」
「あのさ、神々の七日間って、何が起きるの?」
そう聞く私を不思議そうな目で見てから、母は「あぁ」と声を漏らす。
「そういえば十五歳だものね。初めてなのか。ただ七日間だけ神様たちの姿が見えるってだけよ。それ以外には何も特別な事なんて起きやしないわ」
「そう……」
それは私がテレビやネットで得た知識と同じだった。私は思わず溜め息を吐く。
魔法みたいな事は起きないのだと認めたくないのだ。
十五年に一度、秋の七日間だけ神様の姿が見える。それは世界中で起きるのだけれど、八百万の神々のいるこの国は特に美しく神秘的で、神々しいのだとか。
それが今夜、日付が変わった瞬間から始まり、七日目の零時まで続く。
その為にこの小さな島国は今、外国からの観光客でパンク状態だ。有名な神社や山なんかの観光地は、という話だけれど。
私の住むような何の変哲もない地域は一気に静まり返り、残っているのは向かいの足の悪いお婆ちゃんくらいだ。
学校も休み。会社も休みになる所が多いらしい。電車の運転手をしている父に休みはないけれど。
「いつまでもグジグジしてんじゃないわよ」
母に投げられた言葉に胸がざわつく。
そんな事なんて知りもしない母は言葉を続ける。
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