第65話 打破の秘策

「はて、これからどうしたものか。戦力の半数までには行かぬが、多くの犠牲を払った。王国として――民を抱える王として皆の忌憚ない意見を聞かせて欲しい」


魔王軍の奇襲によって惨敗を期した討伐隊は襲撃を受けた土地から後退し、野営するための陣を張り、冒険者や公爵たちを集めて会議を催す。しかし、王様の言葉とは裏腹に公爵たちが最前列で御託を並べるだけで一向に話は進展しない。


「我々は王国の騎士ですぞ! 魔物ごとに臆することはありません! 犠牲なき戦いなど存在しないのですよ」


精神論までもが出てくる有り様に私はため息を吐く。


「こんな意味ない議論に何の意味があるっていうのよ」

「それはそうだよな。俺もエリカと同感だ」

「って――ウェイド……アンタは何でここに居るのよ」


呆れるように横を向くと、どこ吹く風という顔でウェイドはハニかむ。


「いやぁ~あんなむっさいオッサンどもの中に居るくらいならエリカの隣に居たくてな?」

「お前は公爵だろうが! 前に席があるはずだ」

「あのなぁ……青二才、こんな会場に席順表があるとでも? 誰の隣に座ろうが、俺の勝手だっ」

「「んーっ……」」


いやいや、私を挟んでにらみ合いをしないで欲しい。

というか、ここはそういう場じゃない。私までもが流されるわけにはいかない。


「――んで、2人はこの状況ならどう打破するわけ? なんか策はある?」

「お? エリカはやる気か?」

「違う! 前の連中と話すくらいならここだけで話して居るほどがよっぽど、有意義だと思って」

「ふむ……確かにそれもそうだな?」 


そう言うとウェイドは手を組み、顎に手を置く。


「まぁ、普通に考えて直接、戦うのは理にかなわないだろうな。これだけの損害を出しているしな」

「それに……」


グーファが何かを言いかけるとウェイドも静かに頷いて、グーファを促す。


「あの魔物、今まで僕らが戦った魔物よりも頭がいい気がします。奇襲を仕掛けようにも見抜かれてしまうでしょうし、この大所帯ではそもそも無理だと思います」

「確かに。それはグーファの言う通りかも」


私もそれには納得する。

さっきまで戦っていた魔物は戦い馴れているというか、判断が良すぎるのだ。

魔物という生物は基本的には死ぬ覚悟で突っ込んでくるものだ。それが波状攻撃を用いてきたり、人質を取って逃げたりするという賢さを得ている。


「そうなると八方塞がりなんだよなぁ……」

「なら、遠距離から叩き潰せばいいんじゃない?」


私たちが悩んでいるとリリアナがさも当然のように後ろから話に割り込む。

あまりに突然の発言に反応が遅れる。


「えっ? 遠距離から?」

「そう、奇襲もだめ、正面からもダメなら遠距離アウトレンジから魔術で城ごと消し飛ばしちゃえばいいのよ。そうすれば損害は出ないし、相手には防ぎようもない。――まあ、相手が防御魔術とか使ってくれば話は別だけどね?」

「なるほど……? つまり、リリアナ嬢は一撃でケリをつけちまえと言いたいわけだな?」

「よくわかっているじゃない」

「え、えぇ~……そんなことできる?」


リリアナとウェイドは私がそういう中、視線を交わし合う。

そして、悪い笑みを浮かべて見せる。

なんだろう。今、この二人はとても恐ろしいことを考えているような気がする。


「陛下っ! こちらの冒険者エリカが作戦を提案したいとのことです!!」

「はぁ!? ウェイド、アンタ―――」

「おぉ、ぜひ聞かせてくれ!」


いきなりウェイドは立ち上がり、声を投げる。すると、一斉に王様から『期待の羨望』、各公爵からは『邪魔をしてくれるなという殺意』が私へと集まる。その中、ウェイドは「一発、かましちまえ」と言わんばりウィンクを向けてくる。


こうなればこっちも自棄ぱちだ。


「魔王軍を城ごと魔術で叩き潰しましょう。それが作戦です」

「何を言うかと思えば、そんな騎士道精神に反することができるか」

「――それはどうでしょうか」


公爵が能書きを垂れる中、横から口を挟んだのはリオーナだった。


「王が望んでおられるのは臣民の安全と平穏な日常。ならば、それを守るために――勝ちを得るために取る手段は仮に正しくなくとも、騎士道精神に反するとは思わんが、どう思われる?」


圧倒的に武人としての格が違う言葉に公爵家の面々は黙り込む。

その重苦しい状況にウェイドが話を差し入れる。


「私は彼女の作戦に賛同します。これで失敗したとしても人員はそのままですし、何より城を崩すだけの量を撃ち込むとなれば国民に我々はしっかりやっているというアピールにもなります」

「なるほど? それなら国民への示しも付くか」


王様の反応に味を占めたウェイドは公爵家の連中が取りそうな逃げ道を素早く塞ぎ始める。


「これよりもいい良案はおありか? 戦って死んだら元も子もないし、死んだ兵士の家族へどのような経緯で死んだのか説明しなくてはならないのは我々だ。そんな面倒な――大変な業務を負いたくはないだろう」


そう言うと誰一人として意見が出て来ない。事実、公爵家に名を連ねる連中は反論の余地がない。彼らは一目置かれる存在ではあるが、結果によっては支配のバランスが大きく変わってしまう。


つまり、負け過ぎても勝ちすぎても良くない。

一番ベストなのは、悪い評価を受けないように事を丸く収めることなのだ。

それが出来なければ最悪、反乱がおきる可能性もゼロではない。


「ならばウェイド公爵よ、やってみるといい。――ふっ、みなもそれで良いな?」


そこで口を開いたのは他でもないジルバート公爵だった。表面上ではまるで何も語っていないのに、その裏には全員の思惑があったように思える。


「ありがとうございます。必ずや成功させてみせましょう」

「(これは……つまり、成功しなかったら責任取れよってこと……だよね?)」


ウェイドは鋭い眼光でジルバート公爵を見やる。

だが、当の相手は何食わぬ顔でニヤニヤと笑みを浮かべる。その態度に違和感を感じながらも『魔術での魔王軍殲滅』という方向に舵を切ることになったのだった。




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