第63話 王様への謁見

リブタニア王国。その繁栄を支えてきた円形都市フレスト。

街中は魔王軍の襲来で被害を大きく受けたものの、王城は城壁などに生々しい戦闘の痕が残したまま、頑強な佇まいでそびえ立っていた。


「これが王城! すごっ……!!」


ルグラス家の馬車に乗って王城へやってきた私たちは吊り上げ式の桟橋を渡る。恐らく、守りを固めるためだろうか堀がしっかりと掘られている。アニオタの私にとってはまさに心躍るものばかりだ。


「エリカ? あまりはしゃぎすぎないでよ?」

「いや、リリアナ! だって王城だよ? 前から建っているな~とは思っていたけど、こんな場所に入れるなんて! ――というか、そもそも……私、礼儀作法とか全く知らないんだけど、大丈夫かな?」

「な~に、気にするな」

「気にするなってウェイド、そんな他人事な……」

「礼儀なんぞ簡単だ。今、着ているドレスの裾を摘まんでお辞儀すればいいだけだ。難しくない。あとは周りに合わせていれば問題はないさ」


ウェイドはため息を付きながら窓から見える景色に思いを馳せるように視線を投げ続けていた。そんなウェイドの様子にグーファは機嫌を損ねたようで鋭い視線を向ける。


「またお前、何か隠しているんじゃないだろうな? 明らかに気だるそうだぞ?」

「気のせいだろ。疑いすぎだ」


ガタガタとした強い揺れで会話が遮られ、城門を超える。

するとすぐに馬車は止まり、騎士団の詰め所へと通された。そこでは王への謁見を行う前に危ないモノを仕込んでいないかなど、入念なボディチャックが行われた。


そして、ついに謁見の間へと私たちは通される。


「クラン『優しき女神』のご一行とウェイド・ルグラス公爵がご到着です!」


兵士が声を張り上げてから扉を開け放つとその先には長いレッドカーペットが敷かれており、天上には健美な装飾が施されたシャンデリアが数個ぶら下がっている。

まさに、威厳や格式を感じる構造になっていた。


さらに最奥には一人の中年男性が玉座へと座り、私たちを王様らしく見定めるように眺めていた。その姿は赤いマントを身に纏い、サラサラとした白髪に黒い瞳。

整った出で立ちは、まるで歳を感じさせない程にまっさらな人柄を示しているようだった。


「王、ルグラス・ウェイドの名の元に、クラン『優しき女神』の一同をここに集めました」

「うむ。これが魔王軍を倒したとされる冒険者たちか」

「はっ、その通りでございます」

「(え? 魔王軍を倒した?)」


私は状況をいまいち掴み切れずにウェイドたちと同じように片膝を付いて王の前にひざまずく。一体、どういうことなのかと食いつこうと思っても高位の者が目の前に居る以上、完全にウェイドの独壇場だ。


「この者たちが我が私兵たちと協力し、フレストの臣民を守ったのです。さらに、この冒険者であるエリカは帝国のビジロックから来たギルド嬢も守っており、国益に貢献していただきました」

「それは素晴らしいことだ。貴女には盗賊団の件でも世話になったからな。私からも礼を言わせて欲しい。ありがとう」

「あっ、いえ――私は出来ることをしただけで」


どういうつもりだとウェイドへ視線を再び向けるが、彼はニヤリと口元に笑みを浮かべてすぐに真顔へ戻る。


「この者は欲を欲をかかない、まさに王国の宝のようなお方です。私も誇りに思っております。」

「うむ、これだけの功績を王国に与えてくれたのだ。何か恩赦を考えなくてはな。でなければ、グランフレスト王家としての名誉にかかわる。――冒険者エリカよ、貴女が望む褒美を述べよ。叶えられるものであれば叶えて見せよう」


王は兵士たちが居る前でそう言い放つ。

私へと一気に注目が集まる中、独りでに考えを巡らせる。


「(魔王軍の戦いは実質、ウェイドとアルギオンさんの指揮があったから勝てた。……でも、その事実を捻じ曲げるって事は何かウェイドには狙いがあるはず。それに今はまだ魔王軍を退けただけに過ぎない。――なら、ここで恩赦を貰うのは違う気がする。)」


そんな時、横に居たグーファの姿が目の片隅に映り、私は一度目を閉じた。


「王様。ありがたいお言葉に感謝します。しかし、今は戦時。私よりも国民を優先していただきたいのです。中には家が無くて困っている方だっているはずですので」

「しかし……」

「恐れながら、私は『奴隷』のこの子たちと毎日、楽しく幸せに暮らせれば、それで本望なのです。申し出を断るような形を取ってしまい、申し訳ありません」


そう言い切ると謁見の間がざわめく。

恐らく、このざわめきは2つの意味がある。この国において奴隷を使役し、あまつさえ、王様に謁見させるなど無礼に当たるのだろう。それに加えて、王様が申し出た恩赦を蹴るという姿勢が問題となっているに違いない。しかし、反応を出さなくてはならない王様はパンパンと手を叩きながら笑みを見せる。


「ははっ! これは一杯食わされた。まさか、かの者らが奴隷だったとはな? こんなにも綺麗な奴隷が居ようとは……いやはや、世の中は捨てたものではないな。なぁ、ウェイドよ?」

「はい、彼女は慈悲深き方ですので」

「ほぅ、それは素晴らしいことだ。よし――衛兵! 街の普及に最大限の力を入れるように伝達しろ。いいな、これは王の勅命である」

「はっ! 承知いたしました」


衛兵が出ていく中、王様は私の方に笑みを零す。

そして、一度だけ視線をリリアナの方へと向けた。


「(なるほど……? ウェイドの目的はそれもあったってことね?)」


その時点で私は合点がいった。

王様はヘルスティア公爵家の末裔であるリリアナを知っていたのだろう。

でなければ、あんな意味深な視線をこちらに送ってくるはずがない。


「(だとしたら、これはウェイドから王様への報告――いや、決意表明みたいなものだったのかな? 奴隷だって守るべきだよ……みたいな?)」


面倒くさいやり方には変わりはないが、権力を持つ以上は自分で発信することが難しい。それならば活躍した人間を活用すればいい。そうウェイドは考えたのではないだろうか。


「では我々も臣民の為、街の復旧に全力を尽くして――」

「伝令! 伝令!! 魔王軍の居城を発見いたしました!!」

「何だと!? 魔王城の位置が分かったのか!」


私達が去ろうとしたところで事態はまたしても急激な展開を迎え始めるのだった。

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