プロローグ②
「いよいよこれは喫緊の課題ね。何としても来年優勝しないと・・・」
本拠地最終戦当日、ロイヤルズの本拠地・京都伏見スタジアムのバックネット裏にある貴賓室。そこから様子を見届けていた若い女性は、仁王立ちで腕組みしながらつぶやいた。彼女は来シーズンからこの球団の新しいオーナーとなる
美穂はアメリカ留学から帰国した直後であるこの秋、25歳の誕生日プレゼントとして、先代オーナーで親会社の会長である祖父からオーナーの権限を委譲された。170cmに達する長身と長い黒髪がトレードマークで、誰もがうらやむ才色兼備である美穂は大の野球ファンで、高校時代は野球部のマネージャーだった。
「いくら京都が他の都市にはない伝統を持つ都市とはいえ、スポーツは今一つパッとしない。しかもトップのプロ野球がセリーグのお荷物球団・・・改めて口にすると萎えるわね・・・だからこそ」
そう言って振り返り、自分の後ろにいた白髪混じりで、少し肥えた中年男性に言い切る。
「アマチュア野球で一時代を築き、高校・大学・社会人全てのカテゴリーで日本一に導いたあなたにこの球団をお任せしたいんです!」
美穂が頼ったのは、アマチュア野球界の重鎮であった
京都出身の岡本は東京の大学を卒業後、社会人野球で数年間プレーした後、監督としてチームに残り、都市対抗野球で全国制覇に導く。その後、母校の大学を8年間率いて春と秋の全国制覇3回。さらに社会人や大学野球の実績を買われて就任した関東地方の高校の野球部でも、就任3年目で甲子園春夏連覇を達成し、高校・大学・社会人全てで日本一に導いた唯一の監督である。
当初、自身がプロ野球の経験がないこともあって、監督就任に対して消極的な態度を取っていたが、彼女の真剣さに監督就任を快諾。その際に『ドラフトをはじめとした選手補強の権限の委譲』を条件に加えた。
「ふむ。しかし、ただ弱いだけならやりようはありますが、このチームでは少々骨が折れそうですな。いいんですか?こんな70歳を過ぎた老人で」
改めて岡本は念を押すように尋ねたが、美穂に迷いなどなかった。
「育てながら優勝できる監督は日本中探しても、あなたしかいません。お願いします・・・」
そう言って美穂は頭を下げた。そして岡本は言った。
「あなたほどのお嬢さんに頭を下げさせて断ったのでは男がすたります。できる限りのことはしましょう」
岡本の顔には普段の練習や試合では見せたことがない笑顔が見えた。
◇ ◇ ◇
18
最速163キロのストレートを軸にプロ野球界を生きるロイヤルズのエース。投球のほとんどはストレートだが、初見では確実に振り遅れる球威を持つ。高校時代は1年夏から5季連続で甲子園に出場し、高校3年次では春夏連覇を達成する。
昨年成績 28試合10勝15敗 防御率2.25 奪三振213
タイトル 最優秀防御率、最多奪三振、最多投球回(240回1/3)、最多完投(20)
25
貧打線のロイヤルズにおいて、ただ一人まともな成績が見込める4番打者。ホームランしか狙っていない超アッパースイング、打球の9割方がレフト方向という引っ張り打法で子供の参考にはならないが、それでいて30ホーマーを記録する奇天烈スラッガー。高校時代は投手で俊足と強肩も魅力だが、守備が絶望的に下手。
昨年成績 150試合 打率.233 35本塁打 100打点 13盗塁
タイトル 打率43位、本塁打2位、打点2位
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます