京都ロイヤルズの逆襲
青獅子
プロローグ①
「バカヤロー!また7位じゃねぇか!」
「いつになったら優勝するんや!最下位じゃなきゃええんちゃうぞ!」
「試合作れるピッチャーと打てるバッター少なすぎるんや!補強や補強!」
季節は10月某日。朝晩はすっかり涼しくなり、陽が落ちるのも早くなった。
このプロ野球チームはこの日の試合で、本拠地最終戦で完封負けを喫し、敵地での1試合を残して7位が確定した。試合後、本拠地最終戦ということもあって、セレモニーが開かれていたが、レフト側のビジター応援席を除いて、スタジアム中の至る所から、ファンからの心ない罵声が飛んでいた。
チームを指揮した監督は成績低迷の責任を取り、契約を1年残し辞任。また、10人以上の選手が既に戦力外通告を受けている。
そしてセレモニーが終わり、ユニフォーム姿の選手たちは怒号が舞うスタンドを目に、うつむきながらロッカールームの方に歩いていた。監督やコーチたちも同じような感じだ。
ただその最後尾で、ふんぞり返りながら憮然とした表情で歩く選手がいた。右腕にはアイシングが巻かれている。今日の先発投手である。その選手に対して、スタンドからのファンの反応は、それまでとは180度変わった。
「賢治ー!今日負けたんはお前のせいじゃねえぞ!」
「そうだ!うちみたいなポンコツチームで3年連続10勝は立派だぞ!」
「誰もあてにならんからな!来年もお前だけが頼りやで!」
ヤジの中にあった『勝てるピッチャー』に対しては、こういった労いの言葉が飛ぶ。対してその声援を受けたピッチャー、
(うるせぇ!2年連続で同じ勝ち星なんざ、嬉しかねぇんだよ!)
この鈴木というピッチャーは背番号18を背負い、高卒4年目にしてすでにリーグを代表する長身右腕だ。甲子園の優勝投手として複数球団からの1位指名を受け入団。高卒1年目から先発ローテに定着し、いきなり8勝を挙げると、以後12・10・10と勝ち星を重ねている。ただし負け数も多く10・13・12・15である。ちなみに今年は最多敗戦を喫するものの、チームでただ一人規定投球回数に到達し、最優秀防御率と最多奪三振のタイトルを獲得している。
(俺一人タイトル取っても仕方ねぇんだよ。あ〜、優勝してぇ)
周りが羨むほどの結果を残しながら、賢治は悶々とするのだった。
一方で『打てるバッター』には、サンドバッグのごとく、ヤジの集中放火が浴びせられていた。
「ゴルァ佐藤っ!その扇風機ぶりはなんや!」
「いつもいつもホームランばっか狙いやがって!個人プレーも大概にせぇ!」
名指しで非難されたバッター、
「うるせえっ!俺は今年全試合4番に座って、35ホームランの打点100だぞ!チーム二冠王に対してその言い草はねぇだろ!誰も打てねぇから俺が一気にランナー返してやってんだぞ!」
そう。佐藤からすれば今季全試合で4番を任され、いずれもリーグ2位の35本塁打と100打点。しかも、他のバッターが揃い揃ってホームラン一桁の中での数字である。本来ならブーイングされるいわれはないのだが、如何せん打率が低すぎる。打率.233は、規定打席に到達した打者では両リーグ最下位。それに加え、158三振と23失策、25併殺打も全て両リーグワーストである。この成績では、彼の言い分にも説得力を欠いているのは明らかだ。
佐藤は右投右打のサードで彼もまた高卒でプロ4年目だが、甲子園出場はなくドラフト5位での入団だった。1年目と2年目は二軍で育成し、打率は2割台前半であったが、10本塁打と15本塁打をマークした。3年目、開幕戦で一軍初出場するとレギュラーに定着。規定打席に到達し、15本塁打を放つと、今年は背番号が65から25に変わり、全試合で4番を任され、前年の倍以上の35本塁打という成績を残した。
鈴木賢治と佐藤裕也。この若手二人が引っ張るプロ野球チーム、京都ロイヤルズは優勝から20年遠ざかり、15年連続Bクラス。しかしこの15年間で最下位は2回だけという非常に中途半端なチームだった。
◇ ◇ ◇
当小説内でのプロ野球チームの球団愛称一覧です(北から南の順)。
セリーグ
・福島グリーンホープス
・東京ジャイガース
・東京スパイダース
・横浜ブルースターズ
・名古屋ドジャース
・京都ロイヤルズ
・大阪タイアンツ
・広島カージナルス
パリーグ
・札幌ソルジャーズ
・仙台イーグレッツ
・埼玉ホワイトキャッツ
・千葉マリナーズ
・大阪バイソンズ
・岡山ピーチボーイズ
・愛媛パイレーツ
・福岡シーホークス
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