第14話 新しい園での生活と、自分の大切なもの
王都でネコ科の子たちの保育園をスタートしてあっという間に一ヵ月が経過する。
最初こそ飛びついてきた子たちも今はしっかりと言うことを聞いてくれる。
私のスキルの効果もあるけれど、初日の王妃様の発言の強さも大いにあった。
しかし、羊族とは違い彼らはとてつもなく高い身体能力を日々見せつけてくれるので私も日々あっという間に眠ってしまうほど体を使っている。
「さあ、今日はみんなでこのそばの庭園でお昼ご飯にしようと思います。お外でご飯だよ! 私の世界のピクニックをしましょう」
この日、だいぶ仲良くなった子ども達を連れて許可をくれた王妃様の庭園でのピクニックランチのため移動を開始する。
大きな子たちは自分で歩いて、小さな子たちはお願いして作ってもらったカートに乗せてお散歩の速度で進む。
カートは私の世界でも使用されていたものを絵に描いて説明して作ってもらった特注品だが、これ羊族の村に帰るときに一台欲しいなと思っていたりする。
この一ヵ月でようやくきちんとまとまって歩けるようになったことにも成長を感じる。
最初は我先にと、飛び出し駆け出し、キャロルさんが追いかけたりと大変な日々だった。
まとまって移動することの大切さを、沢山説明して実際に迷子になった子やその様子を見たりしてみんな学んでいったのだった。
王宮の一角である保育園。 その周辺は落ち着いた雰囲気の庭園のそばなのだが、王城の一角なので少し駆けだせば一気にこの膨大な広さの王城で迷子になるのだ。
一応見回りの騎士さんや、衛士さんたちも子どもを見かけたら保育園まで連れてきてくれることになっている。
そのあたりは、王妃様や国王様がネコ科なりの行動範囲を配慮して最初に考えて既に城内で働く人々には周知してくれていた。
なので迷子になってもすぐに見つかり保育園へ戻ってくるってことが多かったものの、皆様の負担を考えれば暴走せずに移動出来たほうが良い。
だからこそ、この成長に喜びを感じずにはいられない。
こうしてちゃんと歩けるようになると子ども達の興味や関心に合わせて、寄り道したりしつつも、見晴らしが良く整った芝が広がるところに到着すると敷布を広げてランチタイムとする。
子ども達は、いまかいまかと待ちきれないようで可愛い尻尾を揺らしている。
用意してもらったバスケットの中には唐揚げとサンドイッチが入っている。
この子たちは良く食べるからたっぷりの量がバスケットには詰められていた。
持ってきた取り皿に、まずは一回目の量を乗せて一人一人の前に並べる。
フリフリと揺れる尻尾が待てないよって訴えているし、みんな前のめりでお皿にくぎ付けだ。
「さ、みんな行き渡りましたね。それでは、みなさんご一緒に」
『いただきます!』
ワイワイとはしゃいで食べる子ども達は本当に可愛い。
ジャイル君にドゥーカ君は我先にと自分のお皿を空にすると、あっという間におかわりをお願いしに来ていてマロンさんはニコニコとおかわりをよそっている。
この二人は給食時にいつも反応が早く、食べるのも早い。
そしてお代わり必須の子達である。
その対極にいるのがファランちゃんだ。彼女はマンチカンの子猫。
手足も短く可愛らしいファランちゃんは小食でゆっくり食べる。
ネコ科でもそれぞれ違うし、同じ豹だったりしても食べる量や速度が同じとは限らない。
やはり、個体差が出るのが当たり前なのだとここに来てまた認識を深くした。
そして、楽しいしやりがいもあるけれど私はやっぱり羊族の村が好きだなと思う。
小さな子たちは今頃毛刈りされてるかな。
私が居なくて品質落ちたりしないかな? なんて心配になってしまう。
そして私はここでも落ち人の特典であり、大切な好かれるスキルと超グルーミングスキルは発揮されて、王都の保育園でも子ども達の毛並みはツヤツヤのサラサラだった。
食事を終えると、お昼寝する子や芝の上を走り回る子、近くの花壇を覗きに行く子と動きが読めない動きっぷりである。
今は自由時間、のんびり思うままに過ごしていたら国王陛下がと王妃様が一緒に顔を出した。
「ハルナ、みんな楽しんでいるか?」
陛下の問いかけに、子ども達は嬉しそうに楽しいと答えた。
そんな様子に満足そうに頷いている王妃さまも表情が優しいままだ。
そんな王妃様を見ると、やっぱり私はそろそろ帰りたいなと優しいこの世界での母替わりのライラさんを思い出す。
ここの職員であるマロンさんにキャロルさんとミューナさんはしっかりしているし、子どものお世話も的確で話の運びも上手い。
この分なら私が抜けても大丈夫だと思いつつ、複雑な心境にかられるのだから人間ってつくづく自分勝手な生き物である。
「王妃様のおかげでここでピクニックが出来たことに感謝いたします」
そう告げるのは、心からであるということを感じてほしくて私は微笑んだ。
ここでピクニックをすると許可を得たのは王妃様の庭園だからだけれど、まさか当日様子を見に来てくれるとは思わなかったから直に感謝を伝えられてホッとする。
「私の庭が子ども達にも有意義に使われるのは良いことだわ。今は春の花が盛りですからね。色々見て沢山遊んで帰ると良いわ」
「ありがとうございます、王妃様。子ども達も喜んでいます」
王妃様は食べ終わってこの広い芝と花々が美しい庭園を走る子ども達を見つめて嬉しそうだ。
「そうそう、二週間前に出発したレザントはしっかり仕事をこなしているみたいよ。王都を離れて少なくとも三か所見たことでいかに中央と差が開いているかを感じて、国民のため改善しなくてはならないと意気込んでるみたい」
あの、ヤンキーっぽい王子様は案外真面目なのかもしれない。
地方の他部族の領地を見て回って王都との差はかなりの物だろうから、確かに改善の余地は大いにあるし、他の部族も道が整えば交流もそこまで難しくなくなるのではないかと思う。
王子様に任された仕事は、結構重要でひいては自身が陛下の後を継いだ時にも役立つものであると理解できたのかもしれない。
「ハルナ、貴方のおかげね。ありがとう」
そんな王妃様からの言葉に私は、少し首を横に振って返事をする。
「私は大したことはしていません。提案したにすぎず、実行に移したのは両陛下ですし、それに従って行動したのは王子様本人ですしね」
そんな私に王妃様は微笑んで言った。
「きちんと周りが見えて、言うことは言える。そんなハルナだからきっとスキルやギフトが無くても愛されるんでしょう」
王妃様はそう言ったあとに少しだけ微笑んで、そして寂し気に言う。
「だからこそ、ハルナが最近少し物寂し気にしていることも知っていますよ。ここは先生方も優秀でしょう? ハルナ、今月の末には羊族の領地へ帰れるように予定を組みますからね」
王妃様はやはり子を持つ母であるし陛下と国を支えてもいる。私みたいなひよっこでは感情や考えも読めてしまうのかも。
「確かに羊族のみんなのことを考えていました。ここに来て、同じように保育園で子ども達と過ごして気づいたんです。私は、やっぱり羊族のみんなが好きだって」
私が素直に言葉にすると王妃様は微笑み頷いた。
「やはり、ハルナは羊族があの領地での暮らしを気に入っているのですね。今後も手紙などで意見を聞くこともあるでしょう。その時は協力をお願いしますね」
「はい、私に出来ることでこのアルアローザの役に立てるのなら」
こうして、私は夏前の予定すら大幅に短縮して約二ヵ月での帰還が決まったのだった。
発展してるし、お菓子もお料理も美味しいし、街並みも綺麗だけれど……。
私には、あののどかで素朴な温かい村が合っているのだ。
羊族への帰還が決まった私は、その夜ライラさんへと手紙を書いて翌日にはその手紙をメイドさんに託した。
【ライラさん、ローライドさん、カーライドさんへ
王都の保育園は早くも運営が落ち着きました。
王妃様にどうやらホームシック気味なのがバレてしまいました。
そこで王妃様から今月末に帰還できるように手配してくださるそうです。
予定より早くなりますが、今月中には帰ります。
お土産いっぱい持って帰ります。
楽しみにしていてください。
ハルナより】
こんな感じの短い手紙になったけれど帰ることは伝わるはずと、その後は週に一度のお休みで子ども達や仲のいい村人たちにお土産を買って帰る準備を進めていったのだった。
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