第13話 王都の保育園、先生たちも揃って始動!


 ニーナちゃんと過ごした翌日も準備に勤しんでいると教室の扉が開き、王妃様とその後ろから新しい人々が見える。

 「ハルナ、だいぶ準備が進んだわね。今日はここの園の先生をお願いしたメンバーにも準備に参加してもらうために連れてきたわ」

 そこに並んだのは、子育てがひと段落した世代に見える王妃様に近い女性が一人と私より少し上のような女性が二人に、同じような世代の男性が一人だった。


 「初めまして。ハルナと言います。ここの開園準備と最初だけお手伝いで来ています。よろしくお願いします」

 挨拶をした私に、並んだ美形ぞろいの先生方は微笑んで答えてくれた。

 「初めまして、ここの先生をまとめるように言われています。キャロルと言います。ハルナ先生よろしくお願いします」

 「私はマロンです」

 「私はミューナです」

 並んでた女性陣が次々に挨拶をしてくれて残るは男性のみ。

 「ここで子ども達のご飯とおやつ作りの担当になる。フレイだ」

 にこやかな男性は元々は王宮の料理人だという。

 しかし、奥様の出産も近く早めに帰れるようにならないか相談したところ保育園担当への移動となったらしい。

 穏やかで優しそうなフレイさんにほかの先生方も優しそうでホッとする。

 「では、今日からよろしくお願いします」

 部屋の飾りつけの説明をして、みんなで手を動かしつつ私はフレイさんと給食の内容について相談もする。

 「ネコ科の子たちはやっぱりお肉ですよね?」

 そんな私の問いかけに、皆さんが頷く。

 「そうね、大人も子どもも肉は好物だわ。野菜よりお肉だわ」

 キャロルさんの言葉にフレイさんも頷く。

 「そうですね。メインは肉重視でしょう。魚も好物の子はいますが、断然お肉ですね」

 やっぱりそうなんだね。

 羊族は逆にみんな野菜大好きでお肉はあまり食べなかったなと思い返す。

 種族の特徴ってやっぱりあるんだなと思いつつ、人型だと皆さんがどんな猫なのかはわかりづらい。

 でも、聞いていいものかも分からないので子ども達と触れ合いつつおいおい聞いてみようと思っているとフレイさんはメニューを考えてメモをしつつも私の顔を見て言った。


 「ハルナさん、俺たちがどんなタイプか気になってるでしょう?」

 その一言にドキッとして肩が跳ねる。

 「まぁ、聞いていいのよ? 落ち人さんだと匂いとかで判別できないもの」

 目を丸くしつつも、ニコッと笑ってキャロルさんが答えてくれる。

 「私は王妃様と同じでライオン」

 「僕はアムールヒョウ」

 そんな二人に続いてマロンさんはベンガルトラでミューナさんはチーターだと教えてくれた。

 いろんなネコ科さんが大集合じゃないですか。

 そこでハタと気づいて、昨日のニーナちゃんの提案をキャロルさんにも聞いてみる。

 「昨日ミケーレさんのところのニーナちゃんを短時間お預かりしてここの遊具を確かめてもらったんです。その時にニーナちゃんが下の方にもハンモックを付けて、高い台の下にはマットを敷いてくれたら飛んで降りられると聞いたんですが」

 私の言葉に窓際に設置されているキャットタワーにキャロル先生も近づいて見て、一つ頷くと言った。

 「そうね、この高さなら確かにマットを敷いた方が安心ね。そして下にもハンモックは確かに必要かも。木登りの得意な子ばかりじゃなないもの」

 ニーナちゃん、貴方の提案は的確だったみたいと内心で呟いているとフレイさんは言った。

 「ミケーレ兄さんとこの子は賢いからね。ニーナはよく気の付く子だし、そのまま王妃様にお願いしてみたらいいと思うよ」

 にこやかな話しぶりや、ミケーレさんの呼び方もありフレイさんはどうやらミケーレさんとも関りがありそう。

 「ミケーレさんとフレイさんは親戚とかですか?」

 私の言葉にフレイさんはけろっと答えてくれた。

 「俺の母親とミケーレ兄さんの母親が姉妹なんだよ」

 従兄弟ってことね。歳もそこまで離れてなさそうなところを見て納得する。

 「なるほど、皆さん美形なんだろうなぁ。ニーナちゃんも可愛かったし」

 などと私が口にすると、みんななんだか微笑ましい顔をする。

 「僕らからすると、ハルナ先生が珍しくって可愛らしいく見えるんだけどね」

 その発言に首を傾げてしまう私に、みんなは一様に微笑んでいる。

 私なんて、どこにでもいる普通の子だった。

 容姿は元の世界では平凡であり、目立たず当たり障りなく、普通の十人並みと言ったところ。卑下してもいない、普通の感覚で見て平均的というのが私の容姿である。

 特徴がないというより、特記するところがないという感じでとにかくザ、平凡という日本人の大好きな平均ど真ん中にいたのである。

 だから可愛いなんて言葉とは程遠いというか、小さなころに親や親族に言われて以来の言葉に少々面食らってしまったのだ。

 「私たちから見ると、ハルナは可愛くってたまらないのよ。庇護をそそるの」

 キャロルさんはそう言って微笑む。

 「落ち人さん効果というか、守らないとって感じさせる可愛さなんですよね」

 なんてキャロルさんの言葉にミューナさんまで同意を示している。

 そっか、ここでは好かれるっていう神様からのギフトがあったんだったと納得しているとマロンさんがにこやかに続ける。

 「あとは人柄ですね。だって私たちに偏見がないことが分かるし、子ども達のことも真剣に考えてくれてることはこの部屋を見れば分かります。だからこそ、私たちも無条件でない可愛らしさや、大切にしたいという思いを抱くんですよ」

 マロンさんは私を見てそう告げた。

 その顔は真実感じたままに話している様子で、ここの人々は本当に思うままに気持ちを伝えてくれる人ばかりで、温かい気持ちで胸がいっぱいになる。

 神様のおちょこちょいでこの世界に来てしまったけれど、帰れなくてもこんなに温かな人々と過ごせるなら、そう悪いことでもなかったのかもしれないとここに来て思ったのだった。


 準備も進み、王妃様にニーナちゃんの提案をそのまま伝えてお子様用タワーの改良も完了して数日。

 とうとう、王都の保育園のスタートの日を迎える。

 ニーナちゃん以外の子は初めましてだ。

 この園を、一緒に過ごす時間を楽しんでもらえますように……。

 パンと自分の頬を一つ叩くと気合を入れなおして、子ども達を出迎えるべく朝の準備の再確認。

 真新しいラックにテーブルと椅子。

 下駄箱の名前の表記、そんなところに抜けも漏れも無いはずだけど念のため。

 そんな落ち着かなさそうな私を見て、みんなはニコニコと笑っている。

 「なにも笑わなくっても……」

 ちょっと私が控えめに文句を言えば、みんなはますますニコニコと笑いが絶えない様子。

 ちょっとふてくされてみるものの、仕方ないと言える。

 キャロルさんは親世代だし、ミューナさんにマロンさんにフレイさんもみんな五歳以上年上なのだ。

 最年少で、落ち人となれば彼らからすれば可愛い子どもや妹分でしかない。

 すっかり子ども達より前に可愛がられるポジションに置かれてやや複雑な気分を味わっているものの、嫌なわけではない。

 自分には兄弟はいなかったし、ちょっと新鮮ではあるのだ。

 そんな中で、園舎に向かってくる人影かちらほらと見えてきた。

 さぁ、保育園のスタートだ。

 私は登園してくる子ども達を迎え入れるべく、園舎を出たところで驚くべきスピードで駆けてくるネコ科の子どもの集団に一瞬驚きすぎて反応が遅れた内に子どもたちにわっと囲まれてしまった。

 子どもと言っても大型のネコ科の子ども達である。

 後ろ足で立ったら、すでに私の背丈とそう変わらない子までいる。

 「わぁ、本物の落ち人だ。ニーナの言った通り、可愛いお姉さんだね」

 一番近くに来て後ろ足で立った子は鞄の名札でマーキス君と判明。

 彼はマロンさんと同じくトラのよう。

 縞模様の入ったちょっとがっしり目の前足て器用に顔を撫でている。

 「初めましてハルナ先生。僕、マーキス」

 「はい、初めまして。ご挨拶出来てえらいね、マーキス君。おはようございます」

 「うん、おはようございます。ハルナ先生」

 ニコッと笑うと良い感じに牙が見えるけれど、雰囲気からしていい子なので怖いとは感じなかった。

 続々と囲んできた子ども達から一斉に声を掛けられててんやわんやしていると、そんな集団の枠の外から声がした。

 「まぁ、みんな元気でよろしい事。でもハルナ先生が困っているわ。みんないい子に並びましょうね?」

 その声に子ども達は振り向くと一斉にピシっと固まり、そしてしっかりと並んだのだった。

 王妃様、さすがでございます。

 子ども達は並ぶと一様に顔が硬くなっている。

 自国の王妃様とご対面となれば子どもでも緊張するよねと見守っていると、王妃様はにこやかに物申した。

 「ここでは先生や私の言葉をしっかり聞かない子はみっちりお説教をします。お分かりですね? みんな、良い子に先生方の話を聞くのですよ?」

 いや、王妃様。にこやかに子ども脅さないでくださいぃ。

 まさか、ここまで強めに話すとは思ってなかったが朝一の囲みっぷりはたぶんもうないだろう。

 私がそこそこモフモフっぷりに惹かれていたから少し残念に思ったのは内緒にしておこうと胸に固く誓ったのだった。

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