第12話 保育園準備、ネコ科さんは美形率高し!?
園舎もその教室もみんなお子様サイズ。
可愛らしい色合いと、優しい丸みを帯びた家具の並ぶ教室。
そして温かみのある木のぬくもりにあふれた園舎は素敵だった。
これは、たぶん王妃様の影響が大きいと見た。
「ハルナ、どうかしら? 羊族の保育園の良いところを取り入れつつ、広さと数をそれなりに用意したわ」
私が園舎に来た時一緒に来てくれたのは王妃様だった。
「ここのデザイン案見た時可愛かったけれど、私はこういう素朴で温かみのある雰囲気が好きなの。 でも可愛いのも捨てがたくって取り入れた部分もあるのよ」
にこやかに話してくれる王妃様。
いえ、王妃様私もこの感じが好きですよ。
元のデザイン案はちょっと明るめに書いてみただけですからね。
「私も、この園舎は温かみを感じられていいと思います」
「ハルナも気に入ってくれたなら大丈夫ね。 一応ネコ科の子が多めだから特有のものまで一緒に準備しておいたわ」
そう、園舎の中の一角にはなんと私が現代で見たのより立派なサイズの猫ちゃんタワーがあったのだ。
爪とぎのできる、ロープを巻いた柱やマットが敷かれた階段。
綿の布で出来てるハンモック。
どれも猫が好きそうなものばっかりだ。
「子ども達って、お家でもこんな物に囲まれて生活してるんですか?」
タワーやハンモックや爪とぎが必要って、しかも普通の猫の物より大きく頑丈な物って……。
これは、羊族の子達とは勝手が違うぞと備品だけでも確信する。
ネコ科と言っても、私が現代で見てきた子猫とはわけが違うだろう。
たまにニュースで見たようなライオンやチーター、豹の子を想定しなければならないのだ。
元気さも、素早さも力強さも想定以上だろう。
気を引き締めて当たらなければ、互いに怪我をしてしまうだろう。
それだけはあってはならない。
「子ども達は大きい子たちは少しはお話聞けますかね?」
私の質問に王妃様はにこやかに答えてくれた。
「えぇ、大丈夫だと思うけれど。ここの園長には私が就きます。初めに私がしっかりお話しますから、ハルナは安心してちょうだい」
その言葉にホッとしたのは言うまでもない。
何も知らない、初めましての落ち人の注意はたぶん子どもにすぐには響かないだろう。
その点、王妃様であれば違うと思う。
「助かります。お忙しいと思いますが、よろしくお願いします」
こうして私は着いた翌日から、準備に取り掛かり子ども達のために動き出したのだった。
まず、入園予定の園児の名前を把握し席や使うロッカーに名前をセットしていく。
紙に書いて差込口に入れるだけに作ってもらっていたので準備が早く済み助かっていた。
「リリーエちゃん、マーキスくん、ニーナちゃん、ドゥーカくん、ライくん、ファランちゃん、ジャイルくん、ヴィヴィアンちゃんっと」
そんな感じで準備しているところにミケーレさんが顔を出した。
その腕にはミケーレさんの髪の色と同じ毛色の大きめの猫のような可愛い女の子を抱えて。
「ミケーレさん、どうしました? そして初めまして、私はハルナです。ここの先生だよ」
にっこりと笑いかけると、腕の女の子は可愛い茶色の毛で斑点があることからミケーレさんはやっぱり豹の類だったのかと思う。
彼女はゆっくり大きく尻尾を振っている。
なんで女の子と判断したかといえばその首に巻いているリボンがピンクだったから。
たぶん女の子かなと、雰囲気的にも大人しい感じだったのもある。
「初めまして、私はニーナ。パパがちょっとだけど先生に会えるよって連れてきてくれたの」
あら、あのミケーレさんが職権乱用とは珍しい。
そして、顔を見れば少々困っている様子。
本当に珍しい、これは何かあるなと私は聞く姿勢をとり尋ねた。
「ミケーレさん、なにかありました? 私で良ければ聞きますよ。まだ準備中ですしね」
私が声をかけると、ミケーレさんはホッとした顔をして話し出した。
「実は、妻はこの城で王妃付きの女官として働いているのですが。今日は体調を崩して休んでいるんです。いつもはそういう時は妻の母に頼むのですが、今回はタイミングが悪く頼めず……。私が仕事をしつつ見ていたのですが仕事にならず……」
うん、お父さん頑張ったんだね。話しながらもげっぞりしているミケーレさんはそれでもなんとか自分が面倒見ようと奮闘したが、仕事がどうにもならず私を思い出してここに足を運んだのだろう。
普段面倒を主として見てない人が仕事をしつつ子どもを見るのは困難だろう。
「ミケーレさん、ニーナちゃんさえ良ければ私がここで二時間ほどお預かりしましょうか? 私もネコ科の子どもに慣れるのに助かりますし」
私の提案にミケーレさんはもはや眩しいものでも見るような顔になっていた。
うん、今は大人しいけどニーナちゃんは元気な子だなと予測する。
「ニーナちゃん、パパはお仕事がちょっと忙しいんだって。少しの間、私と一緒にこれからお友達と過ごすお部屋の飾りつけ、やらない?」
私の提案に今いる部屋を見回して、ニーナちゃんはここがまだ準備中だと知った様子。
「ニーナ、邪魔じゃない?」
どうやら、周りにも気を使えるいい子だ。
そんなニーナちゃんなら大丈夫だろう。
「邪魔なんかじゃないよ。私、ここに来たばっかりだからニーナちゃんやお友達のこと教えてくれると助かっちゃう」
にっこりと視線を合わせてお願いすれば、ニーナちゃんもホッとした表情で頷いてくれた。
「うん、ニーナお手伝いする! パパ、お仕事終わったらお迎え来てね。それまでここで先生のお手伝いしてるね」
元気に尻尾をぴんと立てて言う、ニーナちゃんにミケーレさんもなんとか笑顔を浮かべて言った。
「あぁ、仕事を早く終わらせて迎えに来るから。ハルナ先生の言うことを聞いてしっかりな」
「うん、パパも頑張ってね」
予想外にミケーレさんのパパな姿を見つつ、私は初めてのネコ科の子と一緒に過ごすことになった。
とりあえず、一言いいだろうか?
ニーナちゃんめっちゃ子猫なのに美猫さんですね!!
毛はツヤツヤだし、ひげはピンと元気でしなやかな体躯。
まさしく可愛くも美しいネコ科である。
あぁ、モフりたいが初めましてなのですもの、我慢よ……。
「ハルナ先生、私は何をしたらいい?」
その問いに、私はあるお願いをした。
「ニーナちゃん。ハルナ先生には出来ないことをお願いしたいんだ」
そんな私の言葉にきょとんとした顔をするニーナちゃん。
本当に可愛い。
「あのね、ハルナ先生はあのタワーは登れないの。ニーナちゃんに登ってもらって大丈夫か確認をお願いしたいの。ハルナ先生はその下で待ってるし、危なかったら先生に飛んできてほしいんだ。受け止めるから」
教室の一角にあるキャットタワー。
ネコ科の職人さん仕上げだから大丈夫だと思うけれど、念のための確認と子ども達の使う感じの様子を見たいのでニーナちゃんにお願いしてみる。
「え? 登って良いの? パパはダメっていうよ?」
「大人がいないところでは危ないし、登っちゃダメな場所もあるからパパはダメって言ってたんだと思う。でもこれは、子どもが登って大丈夫なものなの。それでも心配だから、先生は下から見てるね」
そう伝えると、ニーナちゃんは目をキラキラさせて前足を一段目に掛けるとその後はひょいひょいと上に登って行った。
一番上にたどり着くと、ニーナちゃんは嬉しそうに座りつつもそこから下にいる私に顔を見せて言った。
「ハルナ先生。登った感じ大丈夫だよ。高くって落ち着くよ」
嬉しそうな声と、大丈夫と言う言葉にホッとする。
「ありがとう。ニーナちゃんで大丈夫ならほかの子でも大丈夫かな?」
そう尋ねると、ニーナちゃんはちょっと考えた後に答えてくれた。
「うん、豹とかチーターの子達なら。ライオンの子はあんまり登らないから。だからライオンの子用にしたにもハンモックあったらいいんじゃないかなぁ」
おぉ、なんて有意義な意見。
「そうなのね、そこは王妃様に頼んでみるね。ニーナちゃん降りてこれる?」
「うん、大丈夫。あ、でもハルナ先生に飛んでみてもいい?」
なんて可愛い提案。しっかり受け止めて見せるわ。
「うん、いいよ。おいで」
そう手を広げて待機すると、ニーナちゃんはタワーの中段あたりから軽い感じでぴょんと飛んできた。
しっかりキャッチするとニーナちゃんは尻尾を立てて嬉しそうな声を上げる。
「わぁ、楽しい! 先生、この下にマット敷いて飛んでもいいってしてほしい。猫だから上手に着地できるよ!」
うん、ネコ科の子の身体能力は高そうだもんね。
マットも王妃様に相談しよう。
「分かった、ハンモックとマットの両方王妃様に聞いてみるね」
その後は、好きな絵本を聞いたり折り紙の飾りつけを一緒に作ったりして過ごしているうちにあっという間に二時間経過。
ガラッと勢いよく教室のドアが開いてミケーレさんが顔を見せるころには、私とニーナちゃんはすっかり仲良しになれていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます