第11話 初めての王都、同世代肉食獣人との出会い
あっという間に寝て起きたら、本日も晴天なり。
いい天気なら移動も問題なさそうで一安心。
「おはようございます」
宿屋の食堂に準備を整えて降りると、キリっとしたミケーレさんが準備を整えていた。
「すみませんが、お昼までには王都にはいりたいので朝食は摘まめるものを用意してもらいました。馬車で食べながら向かいましょう」
「分かりました」
宿のご主人はサンドイッチを用意してくれたらしい。
お水の筒も頂いて、さっそく昨日の馬車に乗り込んだ。
王都に近づいたからか、道が整い馬車の走行もスムーズで乗り心地が変わったことに気づく。
「ここから王都は半日なので、やり取りも多く道が石畳になっていて整っているんです。だいぶ乗ってる方も楽だと思います」
私が道の変化に気づいたのを察したミケーレさんがそう教えてくれる。
「大変かもしれないけれど、この石畳の街道を各種族の村まで通せるとこの前の嵐みたいなときに支援が早くできるようになると思うんですが」
私がそう、意見するとミケーレさんはキラリとモノクルを光らせて言う。
「それは私も常々感じていました。やはり石畳にするのが良いのですね」
「えぇ。迅速に駆けつけるにも、継続的に物資支援するにも道が整っている方が迅速でスムーズでしょうから。そして道を作るのは国からの事業として半分くらいは各種族にも頑張ってもらうと早く整うかと」
そんな私の言葉を考えたように顎に手を当てて黙ったミケーレさん。
「やはり、落ち人の考え方は面白いですね。王都に着いたら陛下にも話してみてくれませんか?」
「構いませんよ。着いたらお会いするでしょうし」
そんな私の返事に満足そうに頷いた後は王都の保育園の作りや、預かることになりそうな種族の子ども達の話をしているうちに大きな壁のある場所にたどり着く。
大きな開かれた扉の前には嵐の後に見た兵士と同じ服装の人がおり、ここが王都への入り口だと気づいた。
そんな王都への入り口前で順番を待つ。
そして、受付に来ればミケーレさんが顔を見せるだけで通過許可がすぐに通る。
さすが、宰相。
そうして大きな壁を抜けた先は綺麗な街が広がっていた。
見た感じは、河川の中にある街だ。
私の世界のヨーロッパのあたりの雰囲気が漂っている。
綺麗で可愛い、そんな色遣いの建物の先にまさしくお城があった。
馬車はそのお城に続く真っすぐな道を突き進んでいく。
その先に見えるお城は、私の中では某ファンタジーの魔法学校みたいな感じの大きなお城だった。
まず、お城に着く前に庭? いや、庭園が広いのだ。
バラのようなお花や、他にも綺麗な花が計算されて配置された綺麗に作られた庭園はまさに王様が住むにふさわしいお城である。
まさか、そんな庭園の端に明るい建物を建ててしまったとは……。
庭園の景観に合わない可愛らしい色使いの建物は間違いなさそうだ。
私はその建物を眺めつつミケーレさんに聞いた。
「まさか、お城のすぐそばに作っちゃいましたか。保育園を……」
そんな私のつぶやきに、ミケーレさんはなんてことない顔で頷きつつにこやかに言う。
「城で働く者も多いですし、城下からも道が整ってますからこの場所が丁度よいとなりまして、ここに建てました」
間違いなく、国運営の保育園誕生に立ち会うことになったようだ。
「王様との謁見後に、保育園も見て大丈夫ですか?」
私の質問に、もちろん問題ないと返してくれたミケーレさんの言葉と同じくしてお城の正面入り口に到着したのだった。
荘厳ってこういうことをいうんだろうなというお城の仲は質実剛健で華美なものは無く、実用重視に重きを置いているのが良く分かる。
しかし、使っているものは落ち着いているものの質は確かなものだと思う。
華美でも豪華でもなくても、良いものと言うのはあるのだ。
それを具体化したお城に、王様の気質を垣間見た気がした。
真っすぐに、ミケーレさんと共に案内されたのは王宮の謁見の間であった。
そこには久しぶりに会う国王様と、国王様と同世代の綺麗な女性に若い男の人だった。
どうやら、私はいきなり国王ご一家とご対面となったらしい。
「久しぶりだな、ハルナ。今回は無理を言ったが聞き入れてくれて感謝する」
王様は、相変わらずだ。 にこやかにしているけれど、その行動や考え方は国を優先する統治者のもの。
「いえ、元々の約束でしたから。でも、夏前には帰りますからね? 子ども達が私を待ってますので」
にっこりとここでのお手伝い期限に関してはハッキリしておくに限るのであっさり目に告げる。
「うん、ハルナはやっぱりしっかりした子だね。分かった、夏前まで頼むよ」
どうやら、帰る時期の交渉は成功しました。
ライラさん、私ちゃんと約束守って早めに帰るからね!
内心で意気込みつつも、そんなとき隣にいたミケーレさんが国王様に声をかけた。
「道中でハルナから有意義な提案を受けました。ハルナから聞いてみてください」
そんなミケーレさんの言葉に顔色を変えたのは、近くにいた若い男の人だ。
「へぇ、本当に落ち人って有意義なことをいうものなんだ?」
なんだかちょっといい態度ではない彼だが、まぁいい。
王様が立派でも次がそうとは限らないというのは良くある話である。
それに彼にどうこう言うのは私の役目でもないからだ。
そんな彼に、私以上に素早く反応したのは綺麗な女性だった。
彼のすぐ隣にいた女性はにこやかな顔のままに彼に裏拳を食らわせた。
それはもう、ものの見事に避ける隙もないほどに素早い動きで。
それをもろに食らった彼は、息をつめた後に驚きの表情で女性に声をかける。
「……っ母上?」
そんな彼を女性は冷ややかな笑顔で見つめて言った。
「かの女性に対して、ものとは何事です。我が国の国民を救い、我が国の子ども達への教育を担ってくれて、またほかにも彼女の知識を我々に教えてくれる。そして何より我々を恐れない稀有な落ち人なのですよ」
そう言い切ると、女性はとても申し訳なさそうにしながら話しかけてきた。
「私の愚息が大変失礼しました。どうかお許しくださいませ、ハルナさん」
「いえ、王妃様が謝ることではありません。私こそ、落ちてきて何も分からないままだったところをアルアローザの羊族に助けていただいたんです。助けてもらって、帰れないことも知って。それならここで私に出来ることをしようって、それだけだから」
そんな私の返事に王妃様は感極まったように瞳を潤ませると、キュっと抱きしめられた。
「あなたには大変なことでしたが、私たちにはあなたのような方との巡りあわせに感謝しかありません。ハルナ、私はあなたの味方でありましょう」
優しく微笑む王妃様は自身の息子には再び冷たい目線を向けた。
「この子は少し修業が必要なようですからね。あなた、レザントには少しきつめの仕事を振りましょう? いいですね?」
にこやかに、サクッと厳しいことを言ってしまう王妃様に国王様もにこやかに頷いてしまう。
「そうだな、この甘やかされ坊主にはそろそろいい仕事を振ってやるべきだな。いい勉強になるだろう」
おう、獅子は自分の子を千尋の谷に突き落とすがリアルに目の前に……。
「はぁ、なんでだよ? 俺がなんでそんな仕事しなきゃならねぇんだよ」
お、素の口調はけっこうワルだね。
でも、この感じのほうが雰囲気あってるなぁ。
金髪ヤンキー兄ちゃんって雰囲気だもんねぇ、見た目からして。
「では、国王陛下。私が道中にミケーレさんに進言した案を彼にお願いするのはどうでしょう? 各領地を見て回れて、いい勉強になるかと思いますが」
そんな私の言葉に、国王様と王妃様は即座に反応した。
「ぜひ、聞かせてくれハルナ」
「えぇ。さぁ、こちらでお茶を用意するから少しのどを潤してからお話して頂戴」
サクッと国王夫妻に謁見の間から、私的なお話用のティーサロンに通されて私は綺麗でフワッとした素敵なソファーに座ってお話しした。
「街道を移動してきて思ったんです。王都とその周辺の近くまでは石畳が敷かれてますが、羊族やその奥の領地はまだでしょう? 災害なども無いとは言えない、そんなときに支援するためにも街道整備はするべきだと思いました」
そんな私の言葉に耳を傾けると、国王夫妻は大いに同意を示してくれた。
「それは我々も考えていたのだがなかなか、難しいものでな」
聞けばこのアルアローザには結構な領地と部族が住んでいて、すべてに石畳を敷くというのは困難を極めるという。
「それは私も分かります。だから少しづつゆっくりと時間をかけて、各部族の農作業が休みの時などに道づくりの作業をしてもらって、その間は国からその仕事に対する給金を出すんです。国の仕事の一環として引き受けてもらうんです」
どうやら、道は各部族に委ねられていたらしく差が開く一方だったらしい。
それでは嵐みたいなときに迅速な支援が難しくなってしまう。
でも、嵐の周期は長い。 ならば、次までには整えておければ大丈夫なのでは?という長期プロジェクトなのだ。
そういった話で理解を示してくれた国王陛下はさっそく関係大臣たちと検討し、各領地での陣頭指揮に王子であるレザントを向かわせると決定したのだった。
ここまでで、その当事者たるレザント王子は若干不服そうにしていたがこの前の嵐のことは聞いていたのだろう、後半からはしっかり話を聞いていたように思う。
こうして、少し波乱もありつつ王都入りを果たしたのだった。
保育園は羊族の保育園のバージョンアップ版になっており、受け入れ人数も多いため広く快適に作られていた。
さぁ、ここから国営保育園の開園まで頑張るぞ。
その日も歓迎されつつ、美味しい料理でもてなされてぐっすりと休んだのだった。
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